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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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17-3 認めるわけにはいかないよ




 騎士三人が私に、男爵がアルフへと向かう。騎士たちで私を足止めして、その間に男爵がアルフを仕留めようって算段かな? だけどそうはいかないよ。


「アルフは騎士たちをお願い」

「男爵は強い。気をつけてくれ」

「誰に言ってんのって話」


 アルフは男爵の苦労を知ってるし統治する側の立場だ。心情的に彼を相手にしたくないだろうしね。それに、私だって男爵には物申してやりたい。なので私が男爵の相手をする。


「ぬぅ、リナルタと言ったか!」


 立ち位置を入れ替わった私に、男爵の剣が唸りあげて振り下ろされる。その剣筋を見極めかわすと、強かに叩かれた床石が砕け、けれどすぐにまた男爵が迫ってくる。


「そなたは下がれ! 女子どもを斬るつもりはない!」

「そういうのは、自分より弱い相手に言うもんだよ」

「かかっ! ほざくかっ!」


 悲痛さが顔に出ていた男爵だけど、私の言葉に口元が緩んだ。私を相手にすることに抵抗があったみたい。でも初撃をかわしたことで、手加減不要であることが伝わったらしく、剣戟の速度が上がった。

 ったく、やっぱこの人は武人だわ。貴族より将軍の方が似合ってる。いや、将軍になるにも貴族じゃないと無理なんだけどさ。

 男爵の攻撃がさらに苛烈になっていく。一撃一撃がまさに剛剣って感じ。おまけに――


「ぬぅん!」


 剣だけでなくて拳や蹴りを繰り出してくるし、大柄な体を活かした体当たりまで。こっちは可憐な女性なんだからさ、手加減くらいしてよ。


「私より強いとぬかす女性に、手加減などできぬわ!」


 ごもっともだね。余計なこと言わなきゃ良かったかな?

 なおも男爵は攻勢を緩めない。しかも砕けた床石を弾き飛ばして弾丸みたいにしたり、余ったらしい儀式の材料を蹴り飛ばしたりと、とにかく使えるものは何でも使う感じ。

 この人は単なる武人じゃないね。戦場で生き残るための戦い方って感じで、くぐってきた修羅場や生き方ってのが存分に伝わってくる。でもそれを卑怯とも思わないし、皇城に居座ってふんぞり返ってるだけの騎士よりよっぽど私は好きだ。


「ぬぅ……!」


 けど、彼の剣は私に届かない。男爵の気持ちに共感するし、ここでやられたフリをして、想いを成就させてあげよっかなって気持ちも無くはない――いや、やっぱ無いわ。


「なぜ……なぜ届かぬ!」


 男爵の顔に浮かんでいた高揚が焦りに変わる。声に苛立ちが、剣戟に怒りがにじむ。


「なぜ、そなたらはこうも我々の邪魔をする! なぜここまで来て立ちはだかるのだ! あと少し、あと少しで……この苦境を変えられるというのに!」

「男爵様の想いは理解するよ? 今をなんとかしたいって気持ちも痛いほど分かる」

「ならば!」

「けど――認めるわけにはいかないよ」


 魔法陣の中にいるたくさんの子どもと、中心にいるアシルくんを見る。魔法陣の輝きが、倒れた子どもたちの姿が、かつての光景と重なった。


「子どもたちは懸命に一日を生きてる。アシル様だってそう。子どもなりに悩みながら、苦しみながら毎日を生きてるんだ。そんな彼らに貴方たちの想いを背負わせるのは違う」

「私とてそうだ! 誰が好き好んで年端もいかぬ少年少女を生贄にしたいと思うか!」

「だけど実際にそうしてるじゃん」

「なんとか子どもらを犠牲にしない手段はないか、私も探ったのだ! どうにか回避できないか思い悩んだ! だが……他に術は見つからなかったのだ……!」


 へぇ、そう、そうなんだ。


「助ける術が見つからずとも引くことはできぬ……! ならば多くの民を生かすための犠牲になったとして、せめて私だけは生涯を通じて彼らを心から称え続けよう!」

「要らないよ、そんな自己満足」


 称えてくれるだけマシかもだけど、死んじゃったらそこでお終いだし、残ったアシルくんだって結局は魔王として討伐される未来しか残ってないんだからそんなのは無駄。

 ったくさぁ。私は足を止めた。そして振り下ろされた男爵の腕を力任せにつかむ。


「ぬ、ぅ……!」

「便利な言葉だよね」

「なにがだ!?」

「『大を救うために小の犠牲は仕方ない』って感じの言葉。ずいぶん使い古されたセリフだけど、かつての魔王だってそれを聞いたらこう吐き捨てると思うよ?」


 拳を痛いくらいに握りしめる。男爵の胸ぐらを引き寄せ、厳ついその顔をにらみつけた。

 そして。


「子どもを犠牲にしなきゃ大人が生きていけない世界。そんな世界なら――滅んでしまえ」


 男爵の腹に拳をめり込ませた。大柄な体が吹っ飛んで柱に激突し、そのままズルズルと崩れ落ちる。その横に他の騎士たちも次々に転がっていった。


「終わったのかい?」


 まぁね。アルフも無事みたいでなにより。しっかしアルフ一人で騎士三人。実力を発揮できれば大丈夫とは思ってたけど、多少の傷はあれどもほぼ無傷で倒しちゃった。最近は鍛錬なんかもできてないだろうに、つくづくこんな帝国の皇子(泥舟)なんて立場がもったいない。


「その泥舟をまたピカピカに磨き上げてる途中なんだよ」

「そうだったね。失礼失礼」

「う、く……」


 うめき声に振り返れば、ユンゲルス男爵が剣を支えにして立ち上がっていた。タフだね。元々頑丈ってこともあるんだろうけど今、彼を支えてるのは剣だけじゃなくって。


「貴殿は、本当に領民を愛しているのだな……」

「はい……ゲホッ、ゴホッ! 私にとっては皆、子どものようなものです。皆が私を信じ、ついてきてくれている。彼らのためにも私は折れるわけにはいかない……!」

「ふーん、それが単に利用されてるだけだとしても?」

「どう、いう……?」

「空手形をつかまされて、都合の良いように使われてるってこと」


 腹芸もそうだし、ユンゲルス男爵は基本的に人を疑うのが苦手なんだろうね。


「今回の一連の騒動……主導しているのは男爵、貴方じゃないだろう? 失礼だが男爵には、聖域のような古い術式に関する書物に触れる機会はなく、思いつくことすら困難だ」

「……」

「聖域の話は別の人物から持ちかけられただけ。だがすでに魔獣の被害に苦しんでいた男爵はその話に飛びつき、魔力石などの保管先として邸宅を提供したのではないかい? 儀式に協力すれば、その後の魔獣討伐の際に兵士を回してもらう条件でね。聖域によって魔獣が弱体化したとしても、男爵領の兵士だけでは十分な数をそろえられないだろうから」

「なぜそれを……?」

「状況から簡単に推測したに過ぎないよ。良くも悪くも貴方の行動は予想しやすいからね。だが人を簡単に信じすぎている――交わした約束が本当に守られると思うかい?」

「どういうことですか、殿下。何が――」

「事が終われば切り捨てられるだけだということさ。そうでしょう――オールトン侯爵」






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