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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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16-4 軽々しく口にしていいもんじゃないんだよ




「アルフ、持ってきてるのはこないだ貸した私の剣だよね?」


 小声で話しかけると、アルフが首肯した。よし、なら問題なし。


「んじゃアルフは、何でもいいから全力で魔術を防御して。で、その後は剣に魔力を通した状態で、コンラッドと生徒たちの間でテキトーに剣を振り回してくれればいいから」

「リナルタ、何を――いや、分かった。君の言うとおりにしよう」


 アレコレ尋ねず従ってくれるのはありがたい。これも私の日頃の行いが良いからかな?

 方々から聞こえたツッコミの幻聴を無視して前に出ると、コンラッドが高笑いを上げた。


「ふははは! 身を挺して殿下を逃がそうとするか。下女にしては見上げた根性だ」

「お褒めの言葉ありがとう。自分の性根がまともとは思って無いけど、少なくともあんたより立派でいるよう心がけてはいるよ」

「減らず口を」

「ま、あんた程度じゃ逃げる必要がないってこと。そんだけ」


 半ば挑発的に、半分は本音で言葉を選んでみたけど、目論見通りコンラッドがピキピキと青筋を立てた。相変わらず煽り耐性がないね、コイツは。行動を読みやすくて助かる。


「……いいだろう。そこまでして死にたいのなら望み通り消し飛ばしてやる!」


 魔術師たちの作り出した魔法陣がいっそう輝きを放ち始めた。そして。


「死ねぇっ‼」


 膨大で様々な魔術が私たち目掛けて降り注いでくる。そりゃもう逃げる余地なんて無いぐらいの密度だし、たとえ私たちが高度な魔術師であっても防ぎきれるもんじゃない。


「ふははははは! どうだ、思い知ったか……なに?」


 だけど、コンラッドの間抜けな声が響いた。

 アルフがヴォルドアーク(地形操作魔術)のうえにアクノイア(氷魔術)まで重ね掛けして防御してくれたんだけど、連中の放った魔術は一層目のアクノイアすら破ることができてなかった。


「どうしたの? 私たちを消し飛ばすんじゃなかったの?」

「っ……もう一度だ!」


 また見た目だけ派手な魔術が飛んでくる。けど結末は一緒。氷の壁は全然破れない。

 何度か繰り返してようやく無駄だと分かったらしく攻撃が止まった。手はずどおりアルフが剣を手に魔術師たちへと走っていき、私もコンラッド(不出来な生徒)にゆっくり近づいていく。


「魔術ってのはね、単なる術式の構成ができればいいってもんじゃないんだよ。術式構成に適した魔力の量を人間が細かく演算、制御して初めて本来の威力が出せるものなの」

「くっ……」

「だから傀儡の魔術師なんて、何人いたって脅威でもなんでもないっての」


 魔術師を操り人形にしたところで、本来の数分の一の力を発揮できるのが精一杯。どだい何十人もの人間を、それぞれに合わせて第三者が細かく動かすなんて無理だからね。そもそも、こんなふうに傀儡にするのが有効なら、世の中の戦争の仕方は変わってるっての。


「このくらい、お貴族様なら常識レベルの教養なんですが……もしかしてご存じない?」

「う、うるさいっ!」


 痛いところを突かれたみたいだね。コンラッドは顔を真赤にすると、魔術師たちにアルフを任せ、剣を抜いて階段上から私に向かって飛びかかってきた。


「なっ!?」


 力強く振り下ろされたそれを私は素手で受け止めた。

 うん、良い打ち込み。見くびってたけど騎士らしい一撃だね。血が手のひらから流れて痛いけど、まぁ大したことはない。


「ったく……都合が悪いとすぐに力で解決しようとする。そういえば、この間の取り調べでもすぐに手を出してきたっけ?」

「狡猾な下女の分際で何を言う! あれも殿下に媚を売って、他の下女に罪を擦り付けたんだろうが! この悪女が! 素直に罪を認めて償え!」

「いや、最後のセリフはそっくりそのまま返したいんだけど?」


 記録石の映像を見たはずなのにまだそんなこと言ってるの? さすがに呆れる。


「僕は間違ってない! 罪を公に裁けずともここで僕が貴様を成敗してくれる!」


 いやいや、独善的にも程があるでしょ。証拠はなくても自身の思い込みだけで人を罰するって、アンタどんだけ偉いのさ? しかも間違いも認めないし。

 コンラッドは一度後ろに引いて、けどまた雄叫びを上げながら私へと斬り掛かってくる。

 それなりに鋭く、速い。絶え間なく私を斬り刻もうと迫ってきて、だけども私には届かない。表情にも怒りと焦りをにじませて、なおも私へ吠える。


「貴様は悪だ! 否、邪悪だ! 僕は正しい! だから大人しく斬り伏せられていろ!」

「『自分は正しい』なんて、恥ずかしげもなく言える人間には斬られたくないね」

「僕は間違わない! そう、間違わないんだ! 閣下だって僕を肯定してくれた!」

「人間ってぇのは誰だって間違えるもんだし、それは別に恥じゃないよ?」

「それは愚かな連中だけだ! 真の貴族とは間違わない! 国を思い、国に身を捧げる真の貴族たる僕と閣下で、悪女たる貴様や腐った連中を成敗して、正しき道に国を導くんだ!」


 つまり、こいつも今の帝国を憂いてて改革を目論んでるってことね? そのために儀式を進めてる、と。


「なるほど。それが『閣下』に協力する理由ってことね」

「そうだ! この国は腐りきってる! 皇族は無能で国のことなど何も考えていない! 閣下たち以外の上位貴族は国を食い物にし、下級貴族や官僚は私服を肥やして自分の地位を守ることしか能が無い!

 そんな人間が国を動かす? ふざけている! だから僕らが変えるんだ! あるべき人間があるべき場所に座り、帝国をあるべき姿に導けるように!」


 ……ははーん、そういうこと。理解した。なんだかんだ綺麗事を並べてはいるけど――


「つまり、アンタの言いたいことは、自分はすごい人間だ。だから単なる騎士じゃなくてもっと上の立場にいるのがふさわしい。そういうことね? 実に――くだらない」

「何だと!」


 コンラッドは激昂して剣を振り回すけど、ふと周りを見て気づいたみたい。

 操ってた魔術師たちが次々と倒れていってることに。


「どういうことだ!? 当たってないのに何故倒れる!?」


 コンラッドは理解できないって様子で取り乱した。そりゃそうだよね。アルフが剣を振るう「だけ」で魔術師たちが倒れていくんだから。

 もちろんこれにはタネも仕掛けもあって、理由は私がアルフに貸した勇者レオンハルトの遺品である黒い魔導剣。そいつは、それ自体も業物だけど本質は別にあって。

 すなわち、その剣は魔素を断ち切るのに特化してる。肉を斬るよりも、骨を断つよりもずっと切れ味良く魔素をスパスパと斬れちゃうんだよね。だからこそ主成分が魔素である魔獣にはよく効くし、私がポーターをしてたマッサは実力以上の階級まで上がれたわけで。

 ただ、それもアルフの実力があってこそ。剣に魔力を十分に行き渡らせないといけないからね。あんま心配はしてなかったけど、こうしてアルフの動きを見てるとやっぱり皇子様なんかにしとくのはもったいないなぁ、なんて思ったり。

 さて。何か重要な情報を漏らすかなと思って好きにさせといたけど、もうこれ以上耳を貸す必要もないかな。この程度の阿呆に親玉が重要なことを伝えてるとも思えないし。


「ふぎゃっ!?」


 避けるのを止めて、すれ違いざまに拳を顔面にぶち込む。コンラッドが地面に叩きつけられ、握っていた剣が転がっていった。

 頬を押さえ、尻もちをついたままコンラッドが私を見上げる。さっきまでの気勢は何処にもなくて、虚勢と化けの皮が剥げて痛みと私に怯えるつまらない人間がそこにいるだけ。

 その胸ぐらを、私はつかみ上げた。


「国を正す? 大いに結構。他人を見下して自分を高みに置く。私には滑稽としか思えないけど、思うのは自由。だけどね――正しさってぇのは、お前ごときが軽々しく口にしていいほど安っぽいもんじゃないんだよ」

「っ……」

「自分の不満を、『正す』なんて言葉で着飾ってんじゃない。もし本気で正したいなら――何が正しいかくらい見極める力を持ってから口にしろ」


 少なくとも、子どもを犠牲にするやつに「正義」なんてない。

 そう告げて最後に一発、顔面目掛けて拳を振り抜いた。コンラッドが激しく建物の壁にぶち当たって倒れ、他の魔術師たちも一斉に倒れた。魔力の繋がりが切れたみたいだね。

 アルフもどうやら無事な様子。多少汗は光ってるけど無傷っぽい。魔術師たちをまとめて相手してくれてたから助かったよ。アルフ様々だね、ホント。


「大丈夫かい?」

「うん、だいじょぶだいじょぶ。怪我一つないよ」

「いや、コンラッド卿のことだよ。ずいぶんな勢いで飛んでったけど……死んでないよね?」

「失礼な。殺しちゃいないっての」


 結局コイツは中身がガキンチョなだけだからね。後々事を起こした責任を取らせるとしても、それを判断するのは一介の下女たる私じゃないし、私の拳で殺す価値もない。


「それより、早く行こ?」


 妨害って言えるほどでもなかったけど、それでも多少は時間を食わされたわけだしね。

 互いにうなずき合って、アルフと一緒にコンラッドが出てきた建物へと入っていった。






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