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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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16-1 僕はあなたみたいにはなりたくない




 そんなこんなで大忙しだった夜が開けて。


「ねぇねぇ、リナルタ。知ってる?」


 昼過ぎには街でも使用人の間でも、とある酒場が壊滅したらしいと話題になってた。

 店内はズタボロで、そこの従業員と常連客がボコボコかつほぼ全裸で街の広場に吊るされてたみたい。おまけに「私たちは暗殺者ギルドです」という垂れ幕まであったとのこと。


「いやー、怖い話だね」


 話を振ってきた下女仲間のミーシャに、私はしれっとそう答えた。なんだかよくわからないけど、暗殺者ギルドが壊滅したのは喜ばしい限りだよね。「優しく」たーくさんお話したらギルマスも大切なことを教えてくれたし、いやぁ良かった良かった。

 あ、ちなみにギルマスは原型が分かんないくらいボコボコにされたうえに両手足の関節を外された状態で見つかったらしいよ。ったく、怖いことをする人もいたもんだ。


「……それをしれっと話せる君が怖いよ」


 柱に寄りかかりながら話を聞いてたアルフが、深々とため息をついてくれた。いやいや、多少の暴力は大目に見るけどさ。さすがに度を超えた暴力には暴力でお返ししなきゃ。じゃなきゃ舐められちゃうからね。ちなみにぶっ刺されたことは伝えてない。必要もないし。


「色々と言いたいことはあるけど、まあそれはそれとして、だ。君がギルドマスターから聞き出した依頼人は……本当に彼で間違いないのかい? 嘘を言っている可能性は?」

「低いだろうね」


 アルフは半信半疑……というよりも信じたくないって気持ちが強いのかな? 私を殺すよう暗殺者ギルドに依頼した犯人を改めて問いただしてきたけど、私は即答した。

 いや、アルフの気持ちは分かるんだ。私だって最初聞いた時は耳を疑ったもんね。でも顔面をボコボコに殴られてるあの状況で、嘘はさすがにつけないと思う。


「そうか……そういった(はかりごと)とは無縁とばかりに思ってたんだが……」

「それは私も同感。でも単に依頼主ってだけで、お金も指示もたぶん、さらに後ろにいる黒幕が出してるんじゃないかな? こんな下らないことに自分のお金は使わないだろうし」

「かもしれないけどね……」


 やりきれなさそうにアルフがもう一度ため息をついた。だいぶ心労が溜まってそうだよね。何か気晴らしできれば良いんだけど、この間ギルドに頼んだ件もそろそろ連絡来そうだし、当分はゆっくり休めなさそう。


「きゃあ!」


 うまくアルフを慰める言葉も思いつかないまま床を掃いてると、廊下の反対側から可愛らしい悲鳴が上がった。あー、これは……いつものやつかなぁ。


「どうなさいました?」


 悲鳴のところへ駆けつけると、案の定いつものコンビ――リズベットとミリアン殿下(バカ皇子)がキャーキャー騒いでた。

 リズベットはあざとく腰を抜かしてミリアン殿下にしがみついてて、そのミリアン殿下はっていえば、リズベット様に頼られてご満悦のご様子。鼻の下を伸ばしながらも鼻息を荒くするなんて小器用な真似をしながら私へと詰め寄ってきた。


「おい、貴様か、ここの掃除をしているのは!」

「はい、左様でございます。何か至らない点がございましたでしょうか?」

「至らないどころじゃない! ここにネズミが紛れ込んでいるじゃないか! 貴様が手抜きをしたせいで愛しのリズベットが驚いてしまったぞ! どうしてくれる!」


 ネズミ、と言われてどこかのスパイが皇城に入り込んだのかと思ったけど、どうやら本物のネズミだった模様。リズベット様の周りを一匹、チョロチョロ動き回ってる。

 リズベット様ならネズミなんてヒールで踏み潰すくらいはしそうだけどミリアン殿下の前だからね。権力者に愛されるには弱々しい生き物アピールは必要だから何も言わない。私に累が及ぶのは癪だけど、ネズミがいたのは事実。文句言われるくらい可愛いもんだよ。


「清掃が行き届いておりませんでした。誠に申し訳ございません」

「ふん、掃除も満足にできないのか。ああ、そういえば」殿下がアルフを見た。「貴様はアルフレッドのお気に入りだったな。可愛げもなければ品もなく仕事もできない。さすがコイツが選んだだけはある」


 バカ皇子が鼻で笑い、後ろでリズベット様もクスクスと笑い声を上げた。

 あ、ちょっとカチンと来た。私はともかく、アルフまで貶められるとさすがにね。

 でもどんなに気に食わなくても相手は皇子様だし我慢我慢。だからこめかみにピキピキと青筋を立てつつも堪えてたわけなんだけど。

 後ろにいたアルフがスッと私の前に立った。そして――あろうことかミリアン殿下の胸ぐらをつかみ上げて、そのまま壁に叩き付けちゃった。


「み、ミリアン様‼」

「ちょ、アルフ!?」

「面白いことをおっしゃいますね、兄上は」


 悲鳴を上げたリズベット様を他所に、アルフは嘲笑に顔を歪ませた。


「リナルタを嘲笑えるほど、貴方は何ができますか? 剣は? 魔術は? 帳簿を読むことは? 流麗な文章で手紙を書けますか? 我が国の状況を理解してますか? 兄上は私が選んだ女性だとリナルタを嗤いましたが、なるほど、快楽に溺れる貴方にはリズベット嬢はたいそうお似合いですね」

「き、さまっ……!」

「兄上が皇族としての責務もせずに、こうして好き勝手に生きていられるのは誰のおかげか。ご自身の立場が砂上の楼閣に過ぎないことをいい加減理解したらどうです?」

「う、うるさいっ!」ミリアン殿下がアルフの手を払い除けた。「どうせお前だって俺が羨ましいだけだろう!?」

「ええ、そうですね。脳天気な兄上が羨ましいですよ。ですが」


 大きなため息を漏らす。さっきまで瞳に浮かんでた怒りの色は消え去って、私が見る限り今は憐憫にも近い感情が浮かんでるみたいだった。


「ただ一つ言えることは――僕は兄上みたいにはなりたくないということです」


 ハッキリとアルフがそう言い放った。遠慮も何もなしに。


「っ……行くぞ、リズベット!」

「お、お待ち下さい、ミリアン様ぁ!」


 言われたミリアン殿下は真赤な顔で歯ぎしりしてたけど、言い返すことはできず強引にリズベット様を引き連れて去っていった。いやぁ……うん、驚いた。驚きすぎて割って入れなかったけど、これ……私のために怒ってくれたんだよね?


「えと、ありがとうございます、アルフ」


 戸惑いは多分にあって正直驚きが勝ったけど、怒ってくれたのは素直に嬉しいし、タジタジになったミリアン殿下の顔を見てスッキリしたのも確かだしね。


「いや、気にしないでくれ。ミリアンには一度ガツンと言ってやりたかったんだ」


 アルフもスッキリしたんだろうね。さっきまでと比べてずいぶんと表情が晴れやかだ。

 私がクスッと笑えばアルフもつられて笑う。うん、笑いの源泉は何であれ、暗い気持ちでいるのは良くないよね。嬉しくないことがあった時こそ明るい気持ちでいかなきゃ。

 二人で笑い合ってると足元になんだか可愛らしい感触を感じた。見下ろせば、きっかけになったネズミが私の足にまとわりついてる。


「これも君のおかげだね。ありがとう、ネズミさん」


 お礼を言うためにしゃがみこむ。すると、ネズミの首に何か丸まった紙が張り付いてるのに気づいた。剥ぎ取って覗き込むけど、何も書かれてない。でもたまたまゴミが張り付いたにしては紙はきれいだし、丸め方も人為的。これってもしかして。

 アルフに渡して魔力を流してもらう。その途端、文字が浮かび上がってきた。


「なんだ、これ? 何て書いてあるんだ?」

「これは……暗号だね。それもギルドの一部でしか知られてないやつ」

「読めるかい?」


 もちろん。そしてそんなものを使って連絡してくるってことは、だよ。


「今夜、ギルドで待つ――エイダ」


 やっぱ彼女の差し金だよね。






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