15-2 暴力で解決できるんだよ?
さてさて。おっきな荷物を担いで私がやってきたのは、深夜でも営業してる酒場の一つ。街の外れ――ってわけでもなくて、まあまあ皇都の中心近くに構えてる店だ。それなりに繁盛はしてるみたいで、店内からは笑い声が漏れててなんとも楽しそうだね。
で、なんでこんなところに来たかっていうと――お兄さんの記憶曰く、ここが暗殺ギルドの支部らしくってさ。ホント、こういう後ろ暗い場所って素人の印象にはよらないよね。
「たのもー! 荷物のお届けでーすっ!」
配達業は元気よく愛想よくだよね。だから思いっきり入口ドアを蹴破ると、ドアがぶっ飛んでった。おかげであれだけ賑やかだった店内が一気にシーンとなる。うん、声が通りやすくなってなによりだよ。
「店主はいる?」
「俺がそうだが……嬢ちゃん困るな。うちのドアは繊細でな。優しくしてくれねぇとすぐガタが来ちまうんだ」
カウンターの奥にいたスキンヘッドが立ち上がった。口調はまだ穏やかだけど、ただでさえ強面な顔が明らかに苛立ってる。まあいきなりドアぶっ壊されたらそうなるよね。
「メンゴメンゴ。でも、こっちも寝てるところに荷物が届いてさ、ちょーっち気が立ってんの」
肩の荷物を店の真ん中に放り投げる。最初は「荷物?」みたいな空気だったけど、それが血まみれのシーツに包まれた人間だって気づいた瞬間、悲鳴が上がった。
「これ、おたくの人間だよね? 暗殺者ギルドだからそっちも仕事だってぇのは分かるんだけどさ、せめて起きてる時に来てくんない?」
「暗殺者」なんてワードを出したところで何人かが逃げ出した。たぶん、単なる一般客が「やべー店だ」って気づいたんだろうね。逆に店に残った連中の空気はますます剣呑なものに変わってきた。
残ったのはいち、にぃ……九人? いや、店の奥にいるのも含めて十人かな? 殺気がダダ漏れになってるけど、隠す必要もないってことみたい。
「……テメェ、なにもんだ?」
「やだなぁ、この格好を見れば分かるでしょ? ――皇城で働いてる、ただの下女だよ」
「ふざけんな!?」
店主――ギルマスが怒鳴りながらカウンターを叩いた瞬間、背後から一人襲いかかってきた。だけど、甘いね。急に殺気が消えたら私がバカでも分かるってもんだよ。
ひょいっと突き出されたナイフを避けて、逆に私の方が男の背後に回り込む。そのまま軽く背中を殴ると、ギルマスの後ろにある棚を壊してカウンターの奥に消えてった。
「もうおしまい?」
「っ……! テメェら、コイツを生きて帰すな」
軽く挑発して笑ってやると、命令と同時に連中が一斉に襲いかかってきた。うんうん、そうしてくれると私も助かるよ。
右から魔術。それを避けた瞬間、後ろから男がナイフを突き出す。体をひねって避けて腕をつかむと力任せにフルスイング。左から来てた男共々ぶっ飛ばしてやった。
「おっと、危ない」
かと思ったらすぐに足元で魔素を感じた。ジャンプして避ければ、こぼれた酒の水たまりから氷の杭が突き出してた。天井に着地して店内を見回すと、カウンターの奥から覗いてる女を発見。アイツだね。
そのまま天井を蹴ってカウンターへと突っ込んでいく。すると女がニヤッと笑って大きな火球をぶっ放してきた。自分の魔術に自信があるみたいだけど――
「世の中そう甘くないんだよね、これが」
拳で火球を殴り飛ばす。たったそれだけで魔術は消えて、女が「は?」と口を開けた。
「ひぎぃっ!?」
天井を蹴った勢いのまま、その間抜け面に拳を叩きつけると盛大に女の体がバウンドして動かなくなった。あ、やば。ちょっと勢いつけすぎたかも。
「……ま、死んじゃいないっしょ」
死んだとしてもそれはそれ。責任は自分で取るのが大人ってもんだよ。
それはさておき。
「一人で逃げようとしてんじゃないよ」
「ぶふぁっ!?」
こっそり店から出ようとしてたギルマスの背中にドロップキック。壁に激突して跳ね返ってきたところを組み敷いて、痛みにしかめてる顔を覗き込んだ。
「どう? 私みたいな美人に組み敷かれて嬉しいっしょ?」
「……っ、ハッ! 残念だが俺は組み敷く方が好きなんだ。叩かれて喜ぶ豚野郎どもと一緒にしてもらっちゃ困るな」
「そ。まあおじさんがサドでもマゾでもどっちでもいいよ。だから――さっさと依頼主を吐きなさい」
言いながら左肘をひねりあげて関節を外す。だけどギルマスは脂汗こそ流してるものの、歯を食いしばって悲鳴を耐えた。うーん、性根はともかく根性は見事だね。
「こっちもこれで飯食って来たんだ。依頼人については絶対に口は割らねぇぞ……!」
「確かに口は硬そうだね。だけどさ、知ってる?」
ギルマスの胸ぐらをつかみあげる。力任せに倒れた体を引き起こし、そしてこっちをにらみつけてる彼の顔に向かって、私は優しく笑いかけた。
「――暴力でたいていの問題は解決できるんだよ?」
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