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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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14-3 魔王を誕生させようとしてる




「ニコラ。最初にも聞いた、魔力石の値上がりが続いてたのってなんでだっけ?」

「情報部門からは、いくつかの開発案件が重なったのと、供給量自体が減少してること、加えて品不足の噂から大きな商会が大規模な買い占めを行ったからと報告は受けてるよ」

「んじゃ次の質問。ちょっと前に私からも相談した、孤児たちの誘拐事件。あの時に助け出した孤児たちがどうなってるか、何か知ってる?」

「いや、殿下とオールトン侯爵の尽力で、孤児院で暮らせるようになった、とは聞いてるけど、それ以上は特に知らないかな?」

「そんじゃ次に――」

「待った待った、リナルタ!」


 ニコラが勘弁してくれ、とばかりに手を上げた。うん、言いたいことは分かるけどさ。


「次が最後の質問だから」

「……本当だろうね?」

「ホントホント。この間、魔獣の大群が皇都に押し寄せてきたけど、原因が何か分かった?」

「それはまだ不明だね。目下ギルドでも調査継続中だよ。で、リナルタの質問に全部答えたわけだけど、結局何が言いたいんだい?」


 珍しくこっちを疑るような視線を向けてくるけど、私だって別に無関係に質問をぶつけてるわけじゃない。もし、私の考えが正しいなら――


「最初に話した貴族の不正、それから今挙げた魔力石の高騰、孤児たち、そして魔獣の襲撃――そいつらが全部繋がってるとしたら、どう?」


 そう問いかけると、みんなが呆けたような顔をした。突拍子もない事を言ってる自覚はある。けど、私はそれが事実だって確信に近いものを抱いてる。


「待ってくれ、リナルタ」アルフが声を上げた。「話が見えない。どういうことだい?」

「魔王が誕生する儀式にはいくつか必要な材料があるんだよ」


 まず大量の魔力。人間一人や二人じゃ到底足りないから、大抵は莫大な数の魔力石や宝石類を用意する必要があって、当然、そいつらを確保するには膨大な金が必要になる。

 次に触媒。これは魔力石とかから取り出した高濃度で膨大な魔力を儀式の間、一時的に貯めておく必要があるから。これには人間が望ましくて、しょせん一時的なものだから魔術的な素養は問わない。けど人間には耐えられるレベルの濃度じゃないから、貯蔵が終わった後は廃人と化してしまう。故に「いなくなっても誰も気にしない」人間が適任になる。

 そして最後に――贄。集めた莫大な魔力を使って魔王へと変貌させられる(・・・・・・・)人間。

 他にも硝石やら水やら細々とした材料だったり、精密で特殊な魔法陣を記述できる魔術師だったりとかが必要になるけど、今挙げた三つが主な材料だね。


「アルフ、前に魔獣は魔素があるところに集まってくるって言ったの覚えてる?」

「あ、ああ、覚えてるよ。魔獣は濃厚な魔素を好むから、本能的にそこへ集まってくるって――まさか……!」

「ねぇ、リナルタ。ひょっとして……」


 三人の顔色が変わった。そう、つまりは――


「何者かが魔王を誕生させようとしてる。それも、ここ皇都で」

「馬鹿な!」たまらずニコルが立ち上がった。「そんなことをしたら……」

「うん、伝承の中にある大厄災。ニコラは栄えあるその目撃者になるだろうね」


 もっとも……当事者にそんなつもりはないかもだけど。一様に考え込み始めた三人を見ながら小さくつぶやいた。


「……にわかには信じられない話だね」

「分かってる。だから裏取りをお願い。古い書物を漁れば材料の話は出てくるだろうし。だけどこの件はエイダに調査をお願いして。あの子の調査能力は群を抜いてるからさ。きっと真実を見つけ出してくれるはずだよ」

「リナルタが嘘を言ってるとは思わないけど……そうだね」ニコラが徐ろに顔を上げた。「確かにこれはギルドとしても看過できない話だ。よし……今回の話は殿下ではなくあくまでリナルタからの情報提供に基づいた調査として進めさせてもらおう。当然、不正した貴族の資金の流れについても、その過程で偶然行き当たったということで、ね」


 ニコラの言葉に、アルフは表情を緩めて手を差し出した。


「感謝する。サヴィーニ支部長」

「よしてください。殿下の依頼ではなく、我々の理論と理念で動くのですから」


 そう言いながら、だけども二人ともガッチリと握手してた。






 いや、無事に話がまとまって本当に良かった良かった。こっちは貴族の不正が暴けるし、ギルドは魔王の誕生を阻止できる。お互いハッピーでウィンウィンな結果だね。

 夜中の人気のない街を軽い足取りで歩く。けどアルフはずっと何かを考え込んでて、自然と私の方が前になる。ちょっとちょっと、皇子様が侍女の後ろなのは何か違くない?


「せっかく話がまとまったってのに、何か心配なことでもあんの?」

「そんなことは……いや、心配事ではないけど、気になってることはある」


 んー、なんか引っかかりそうなとこってあったっけ? 考えながらアルフに振り返ると、 アルフの足が止まった。私の足もそれに合わせて止める。わずかな沈黙。口を一度開きかけて、閉じて、だけどやっぱりアルフの口が開いた。


「ねぇ、リナルタ。いつも君には驚かされてばかりだ。誰よりも強いし、調査能力もあって、さらにはいろんなことを知っている。だけど今日は特に君の慧眼には驚かされたよ」


 ちょっと、急にそんな褒めそやしてどうしたの? 気持ち悪いじゃん。


「魔力石の高騰、貴族の不正、魔獣の襲撃に孤児の誘拐。それらは一見、全部バラバラの事件だし、繋がりなんてとうてい見出せやしない。にもかかわらず、君はそれを繋げてみせた。魔王の誕生という、隠されたギルドの目的を引き出して」

「ふっふー、すごいでしょ?」

「ああ、すごいよ。だからこそ気になるんだ――どうしてその発想に思い至ったのか」


 立ち止まったアルフの目を見つめる。疑念、戸惑いと「信用してもいいんだよね?」とでも問いただしたそうな色が、瞳の中で揺れていた。


「ねぇ、リナルタ――君はいったい何者なんだい?」


 問われて、私は理解した。ああ、これは私のことをどこまで信用していいか、その線引きが分からなくなってるって感じかな。でも大丈夫だよ。


「私は皇城の下女で、ギルドのポーター。そしてアルフレッド皇子の想い人役をする協力者。それ以上でもそれ以下でもないよ。ただ――」

「ただ?」

「そうだねぇ……アルフが思ってるよりも私は長く生きてるんだ。だから今日のことだって、昔に似たような話を聞いたことがある。それだけだよ」


 こう見えて義理堅いんだ。アンタが裏切らない限り、私が裏切ることはない。だからアルフが信頼したいだけ信頼してくれればいい。

 そう伝えて歩き出す。すると、少し遅れて足音が続いてくれた。

 良かった。その音を聞いて私もこっそりと胸をなでおろしたのは秘密だ。






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