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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第3章 魔王の儀式

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13-2 君は……大切な人なんだ




「あー、参ったなぁ……」


 コイツをとっちめれば、黒幕とかいろいろ分かるかもって思ったんだけど。魔法はさっきアルフの防御に使っちゃったし、失敗しちゃったなぁ。ま、終わったことはしゃーない。

 とりあえず死んだ犯人の体を調べてみる。うん、当たり前だけど身元につながりそうな物品はなし。ってことは、分かっちゃいたけどプロの暗殺者だよね、やっぱ。

 続いて犯人に手を当てて体の「内側」を探ってみる。もうだいぶ薄くなってるけど、それでも魔術の痕跡らしきものが残ってた。あー……ってことは、まぁそういうことかぁ。


「リナルタ! どこだっ!?」


 そうしてると、通りの方から私を呼ぶアルフの声が聞こえてきた。「こっちだよー!」と返事してあげると、兵士さんと一緒にやってきて、私の姿を認めた途端に表情が緩んだ。

 だけどすぐにハッとして、急に私の破れた服に手を突っ込んできた。このエッチ!


「お止めください。公衆の面前で女性の体を検めるのですか? この変態さんめ」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!」下女モードでたしなめたら逆に私が怒られた。「体を貫かれたんだぞ! たとえ君が治癒魔術を使えるん、だと、しても……」


 お腹を覗き込んだアルフの声が、段々としりすぼみになっていく。ほら、大丈夫でしょ?


「そんな……あんな大きな杭に貫かれたのに。凄腕の治癒魔術師だってこんな早くは……」

「それよりもこちらへ」


 あんまり私の体のことはツッコまれたくないんだよね。だから混乱したアルフを犯人の死体に誘導して意識を私から引き剥がした。


「この方が殿下を殺害しようとした犯人です。残念ながら自害してしまいましたが」

「……なんにせよ、死者が出るのは残念だね」


 ため息をつきながらアルフが兵士に死体の処理と身元を探るよう指示を出す。けど、暗殺なんて仕事を請け負ってるわけだし、まともな情報は出てこないだろうね。


「死ぬ前に何か彼は言ってたかい?」

「特には何も。ただ、死体には魔術を掛けられた痕跡がありました」

「……詳しく頼む」

「掛けられていたのは精神操作魔術の類でした。それも強力な。おそらくは、捕まりそうになると情報をしゃべらせないよう、強制的に自害させるようになってたのでしょうね」


 暗殺者にはよく仕込まれてる類ではあるけど、今回の術者はよっぽどの手練れだろうね。今回の犯人はまだ諦めてなかったし、そんな人間を自殺させようとすると抵抗で動きがゆっくりになるはず。にもかかわらず、本当にサクッと自分の首を刺しちゃってたからね。


「となると、目新しい情報は期待できないか……とはいえ、黒幕はやっぱり――」

「殿下の動きを疎ましく思うご貴族方の一派でしょうね」


 今回は明らかにアルフを狙ってたし、他に恨みを買うような相手は……まぁ、アルフに懸想してる令嬢たちが「私のものにならないならいっそ!」みたいな考えに及んだって可能性もなくはないけど、普通に考えれば帝国を食い物にしておきたい貴族たちだよねぇ。

 それか……彼の可能性も捨てきれないかな? 決定的な証拠はないけど。なんにせよいよいよアルフの身も危うくなってきたね。寝る時も食べ物も、これからは十分に気をつけるんだよ?

 小声でアルフにそう忠告して上げたんだけど、そうしたら私を見て「はぁ……」と盛大に溜息をつかれた。おっとぉ? その反応は何かな?


「……とりあえずここを離れようか」


 この場で私たちができることはないし、ひとまず皇城に向かって歩き出す。その間アルフは無言で、私の前を歩いてるけど振り返りもしない。あれ? もしかして――


「……怒ってる?」

「ああ、怒ってるよ」


 いつもと違うぶっきらぼうな言い方に私もつい戸惑ってしまう。うーん、何が気に障ったのやら。心当たりがないんだけど。


「分かってないようだからハッキリ言うけど……金輪際あんなことはしないでくれ」

「あんなことって?」

「自分を盾にして僕を守ったことだよ」


 へ? いや、守るのは当然じゃん。


「守ってくれたのは嬉しいよ。だけど、代わりに君が傷つくのは嬉しくない。君が貫かれた時、どれだけ僕が心配したか分かるかい? 君はもっと自分を大切にするべきだ」

「そりゃ私だって痛いのは嫌だよ? だけどアルフは皇子で私は下女。身を挺して守るのは当たり前じゃない? 他の兵士さんだって同じことするでしょ。まさか皇子ともあろう方が『人の命に価値の差なんてない』なんて言わないよね?」

「本当はそう言いたいけど現実にはそうじゃないってことは分かってる。だけどリナルタ」


 アルフがようやく私の方に振り返ってくれた。顔には怒りがあふれてる……かと思ったけど、アルフは泣きそうな顔をしてた。


「僕は君を護衛役として引き込んだわけじゃない。僕にとって君は……失いたくない大切な人なんだ」

「アルフ……」

「それを忘れないでほしい」


 そう言うとアルフはまた私に背を向け歩き出す。その後ろを歩きながら私は考え込む。

 大切な人。まさかそう言ってくれる人にまた出会えるなんて、ね。


(レオンハルトと一緒、だね……)


 親にも兄弟にも、最後まで言ってもらえなかった言葉。レオンハルトのあんちくしょうが初めて私に言ってくれた言葉。それを……アルフからももらえて嬉しいと同時に、あんな顔をさせてしまったのを申し訳なくも思う。

 それでも。

 きっと、私が私の命を大切にすることはないだろう。それほどまでに私にとって、私自身の命は軽い。

 だから。

 ごめんなさい。その言葉を飲み込んで、私は黙ったままアルフの後ろをついていった。





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