13-1 やっぱなかなかきっついね
一番の大物は倒したわけだけど、だからって他が撤退するかといえばそういうわけでもない。なのでまだうじゃうじゃ残ってる低級魔獣たちをみんなで協力して消滅させていく。
アルフも多重展開した魔術で敵を燃やし、氷漬けにし、風の刃で切り刻む。近接戦でも私が貸した剣を存分に振るって寄せ付けないし、傭兵や兵士さんたちに発破をかけるのも忘れない。
いやホント、戦闘力といい統率力といい、実にできる男だよ。これで普段、私を恋人みたいに見せびらかすムーブしてなかったら完璧なのにね。つくづくもったいない。
感心と呆れの混じった感想を抱きつつ魔獣をしばき倒してると、段々と数が減ってきた。うーん、もうそろそろ大丈夫かな?
ってなわけで私は段々と存在感を消して、アルフの近くで待機。見守ってると次第に当たり一面が、大小様々な魔力石だらけになってきた。
「おおかた片付いたかな?」
そだね。傭兵たちも戦うのを止めて魔力石拾いにまっしぐら。殴り合って奪い合ってる奴らまでいる。おーおー、元気だね。ま、素手でやってる限り見ないふりしとこ。
「お疲れ様……と言いたいところだけど、もうひと働きお願いしてもいいだろうか? けが人を街の中に運んでしまいたいんだ」
あれだけの襲撃だったからね。元気な連中もいるけど、けが人は一人や二人じゃ済まないし、残念ながら犠牲になった人もいる。街を命がけで守ってくれたんだから、アルフにはなけなしの皇族権力を使って最大限の名誉を彼らに与えてほしいね。
「『なけなし』というのが情けないけど、尽力するよ。それじゃあリナルタはあっちの――」
言いながらアルフが、けがしてる人たちの方を振り向いたその時。
不意に魔素がアルフの背後でうごめいた。まだ魔獣が残ってたのかと思ったけど近くにその姿はなくって、けれどふと地面を見れば水たまりがあった。
たぶんそれは氷系の魔術を使った痕跡で、それ自体は特に不思議はない。けれどその水たまりが盛り上がって――氷の杭がアルフに向かって突き出した。
「……っ!」
「のわっ!? な、何するんだリナル、タ……?」
とっさにアルフを突き飛ばす。代わりにその氷の杭は私のお腹を貫いた。っつぅ……久々にお腹に穴開いたけど……やっぱなかなかきっついね。
「リナルタァッ!」
「大丈夫だから大声出さないで。声だけでも結構響くんだからさ」
ゲホッっと咳き込むと口から血がビシャっとこぼれた。結構痛いけど、まぁ大丈夫。死にはしないし。それより、こんなことをしてくれちゃった奴をとっ捕まえてやらないとね。
氷の杭をへし折って、それから魔素の残滓を追う。杭から伸びる薄い魔素の線を目で追っていくと、街を囲む壁の上からこっちを見下ろしてる軽装の兵士がいた。だけど私と目が合った途端、すっと物陰に隠れてしまった。アイツか。
「急いで治癒魔術を!」
「別にいい。それよりアルフは下手に動かずに警戒してて」
口元の血を拭いつつ「我思う、我願う――」と口ずさんで、アルフの体の防御力を強化しとく。警戒してるアルフなら大丈夫だろうけど、念の為ね。
さぁてそれじゃ――鬼ごっこの時間だ。
「リナルタ!?」
肩をつかもうとしたアルフの手をするっと抜けて、私は壁を一気に駆け上った。
見張り通路にたどり着いた時はすでにさっきの兵士はいなくて、だけどまだかすかに魔素の残滓が残ってる。それをまた辿っていくと、街中を掛けていく男の姿が見えた。
「ふっふー、逃さないよ?」
こう見えて鬼ごっこは得意だからね。
外壁から飛び降り屋根を伝って一気に距離を詰める。向こうも私に気づいたようで、狭い路地へと逃げ道を変えた。あら、そんなとこ行っちゃう? だけどね、それは悪手だよ?
屋根から飛び降りて私も路地に入る。距離を詰めたり、あるいは先回りしたりしながら犯人の逃げる方向を誘導していく。うん、いい感じに向こうも焦ってくれてるね。
残念ながらこっちは街の路地をぜーんぶ把握してるんだ。だから不用意に路地に逃げ込んじゃうとね――
「っ……!」
はい、行き止まり。こうして袋小路に追い詰められるってわけ。
「んじゃキリキリ吐いてもらおっか――誰の命令でアルフレッド殿下を殺そうとしたの?」
だいたい想像はついてるけどね。でも犯人を絞り込む情報は欲しいところ。
「……」
「だんまりかな? それもあんまり賢い選択とは思えないけど」
兵士の格好をした犯人は手のひらをこっちに向けながら、瞳だけを動かして逃げるタイミングをうかがってる。けれど逃げ場はないと結論付けたらしく、私を見据えて気配が変化した。どうやら私と戦おうってつもりらしい――んだけど。
「……ぐっ!?」
突然うめいたかと思うと、一度たたらを踏んだ。目を見開いて自分の腕を見つめる。
そして。
「は……?」
犯人の男は突然、自分の首に氷の刃を突き刺して自害してしまった。
あんまりにも突然過ぎてこっちも頭が追いつかない。だけど、私が固まってる間に血の塊を大量に吐き出すと、そのまま倒れて動かなくなっちゃった。
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