12-4 誰にケンカ売ったか覚えときなさい
「■■■ォォォ――ッッ!」
「避けろ、リナルタ!」
唸り声を上げながら振り下ろされた真っ黒な拳をアルフ共々回避。そのまま外壁上から地面に飛び降りる。
「そういえばこの木偶の坊がいたんだったね」
壁殴り屋さんに徹してたから無視してたけど、いよいよ邪魔になったのかな? まぁこっちとしても邪魔だし、この粗大ゴミもそろそろ片付けちゃいますか。
「アルフはみんなをよろしく。ただ、近くにいると邪魔だから離れさせといて」
「ずいぶんなデカブツが相手だけど……大丈夫なんだよね?」
「余裕のヨッチャンってもんよ」
背中合わせになったまま言葉を交わす。そして「後でまた」というセリフと共に、私はアルフと別れて巨大魔獣へと走り出した。
先ほど私たちを潰し損ねた悔しさがあるのかな? 黒いフォルムの中でもいっそう黒い「目」が私を捉えて、そして――その剛腕を横に薙ぎ払ってきた。鈍重そうなその見た目に反して動きは速い。普通ならペチャンコにされちゃうんだろうけど――
「この程度ぉっ!」
たいした速さじゃない。ゴーレムの拳が巻き起こした風が暴風となって砂塵を舞い上げてすべてを覆い隠す中、私は魔獣の拳よりも一足早く上空に跳躍していた。
そのまま重力に引かれて加速。拳を胸めがけて振り抜き、魔獣を貫いて振り返る。すると魔獣の土手っ腹に大きな穴が空いて、上半身と下半身が引き千切れそうになっていた。
「やった……!」
その様子を見ていたらしいアルフが歓声を上げた。普通の魔獣ならそう。今の一撃で倒れててもおかしくないけど、なんだろう……妙に手応えがなかった。
――と思った瞬間、上下に別れた敵の体がまた元に戻った。穴があっという間に塞がって、まるで私の攻撃なんて効いてないとばかりに仁王立ちで見下ろしてくる。
「なんだって……!」
「おいおい、腹に穴開けても元に戻るってか!? なんてバケモンだよ……!」
アルフや傭兵たちが驚いて騒いでるけど、こっちとしてはそうだよねって感じ。手応えがなさすぎて、本当に単なる魔素だけを殴ったみたいだったもん。
魔獣は魔素で構成されてるけど、実体はある。だからこそ連中も物理的に壁を破壊してるわけで。なのに私の攻撃が効いてないってのはどういうことだろ?
とか考えてると、巨大魔獣の黒い体が波打ち始めた。そのままさらにその巨体を膨らませていって、外壁を遥かに超えるサイズまで肥大化していった。
「まださらに大きくなるのか……!?」
はぁー、おっきいねぇ、こりゃ。頭の位置は外壁を通り越して、たぶんお城より高いんじゃないかな? 街からも見えてるだろうし、こりゃパニック間違いなしだね。
だけど――おかげさまで分かったよ。
「――しっ!」
神のごとく遥か高みから罰してくる魔獣の長い腕を避ける。うん、腕が叩きつけられた場所は立派なクレーターになってるし、まともに喰らいたくはないね。とはいえ、別に怖くはない。だって当たんなきゃいいわけだし。
頭上から何度も拳が振り下ろされ、その度に穴ぽこが増えてく。それらをすべてかわしていくと、私は地面に突き刺さった魔獣の腕に飛び乗った。
「リナルタッ!? 何をする気だ!」
魔獣の腕を駆け上る。踏みしめる度に足元が沈みそうになるのを見て確信する。やっぱコイツは体の魔素を自在に操れるタイプだ。さっき殴った時も胴体部分を希薄にしてダメージも減らしたってところかな?
そんな器用な魔獣であるコイツは今、ゴーレムを象ってる。上級魔獣の例に漏れず人間のイメージを読み取った姿なんだろうけど、そういう時は律儀に弱点も同じなわけで――
「ならコイツの弱点も――」
「■■■■ッ――……!」
額か首元にあるはずで、その考えは当たりだったみたい。魔獣の胴体から黒い槍みたいなものが次々と射出されていく。よっぽど私を頭へ近づけたくないんだね。でもさ。
「そんなの! 私には効かないっての!」
ゴーレムの上腕二頭筋にたどり着いたところで大きくジャンプ。
「おおぉぉりゃりゃりゃりゃりゃぁぁっっ!!」
眼下から迫る無数の黒い槍を殴り飛ばす。とにかく殴り飛ばす。片っ端から拳で弾き飛ばして、さらに本体の拳が私を殴り飛ばそうとしてくるけど――
「ふんっ!」
私の拳と激突した瞬間に腕が吹っ飛んで、頭部が無防備になった。真っ黒な虚である目の部分に困惑が覗く。ンなの今さら遅いっての。誰にケンカ売ったか――
「覚えときなさいッ!」
振り下ろした私の拳が、魔獣の頭にめり込んだその瞬間、胸から上が「パンッ!」って軽い音を立てて消滅した。着地して振り返れば残った下半身も霧散。あれだけ存在感たっぷりだった上級魔獣はあっという間に消滅して姿形もなくなって。
そしてそれを見た兵士さんや傭兵たちから、地鳴りみたいな凄まじい歓声が上がった。
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