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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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9-1 なーんか匂うねぇ




 それから数日が経ったとある日の夜中、私はいつもどおり城をこっそりと抜け出した。

 目指すはユンゲルス領の郊外。目的は、近くにあるはずの魔素溜まりを解消すること。かなり遅くなっちゃったけどね。


「魔獣が集まってくるのは十中八九、男爵様の屋敷に何かあるからだろうけど」


 警告したにもかかわらず、ユンゲルス様はお屋敷にある魔素の元を捨ててはくれなかったみたいで、未だに男爵領は魔獣の襲撃に悩んでるみたいだった。あの時の男爵様の様子からしてよっぽど大事なものなんだろうけど、領民よりも大事なものなんてあるのかね?

 ま、そんなえらーい人の考えはさておき、町を襲撃してくる魔獣がいるってことは、それを生み出す場所があるわけで。そいつをさっさと「キューブ」の肥やしにさせてもらいましょ。そうすりゃ襲撃もそのうちなくなるし、まさにウィン-ウィンってやつだね。

 町を離れてしばらく走ってると、薄っすらと魔素がにじみ出してる森が広がっていた。月明かりも届かない深い森。奥に行けば魔素が揺らめいてて、低級の魔獣がたくさん徘徊してるのが見えてきた。


「■■■ッッッ――!」

「邪魔」


 私を見て獲物だと思ったらしいノータリンな奴らを蹴散らしながらさらに奥深くまで入り込んでいくと、いっそう濃い魔素の気配を感じる。そちらに向かえば、少し開けた空間があった。ここが発生源かな。

 懐から取り出したキューブを地面に置き、魔法陣の構築を開始する。


「――、――……」


 今日の気分はしっとり。これもレオンハルトが、山間にある穴蔵で私がメソメソしてた時に歌ってくれたんだったかな? 音は外しまくって曲の原型もないくらいだったけど、それでも心が落ち着いていったのはちゃんと覚えてる。あ、私は音痴じゃないよ?

 歌声を響かせながらゆったりとしたステップで魔法陣を描いていく。暗い世界に光の文字が躍っていって、歌い終わりと同時に最後の一文字を書き終えた。

 キューブが輝く。ベトベトと体にまとわりつくような魔素を吸い込んで、清々しい空気が代わりに広がっていくのを確認。よーしよし、これにて今晩のお仕事は終了っと。残った低級魔獣を出会った端から殴り飛ばしつつ町への夜道を走っていく。

 すると、その途中で何やら仄かな明かりを見つけた。


「珍しいね、こんな街道の途中で野宿なんてさ」


 夜は魔獣や野盗の連中がよく動く時間帯。だから町で一泊して朝早くから出発するのが普通なんだけど、荷馬車で野宿するのはだいたい二パターンだね。

 一つは町で宿泊するのが惜しいくらい急いでる時。そしてもう一つは――


「……なーんか匂うねぇ」


 面倒事に首を突っ込むのは別に好きじゃないけど、見なかったことにする気にはどうしてか、なれない。「本当は面倒事が好きなんだろ?」なんて幻聴が聞こえたけど無視。

 なので身を潜めながら荷馬車の近くにある木影に隠れて耳をそばたててみる。

 焚き火のそばで酒を飲みながら男たちが三人、下品な笑い声を上げてた。うん、見ただけで分かる。まっとうな商人とかじゃないことは確定だね。火に照らされた顔を見れば、どいつもこいつも人相が悪すぎる。

 顔ってぇのは、年を取れば取るほどそいつの人生がにじみ出るもんだと思ってる。悪人ヅラとか評される顔の作りとは別に、どんなに人が良さそうな顔をしてても、上っ面だけじゃ隠せないものが浮かび上がってくる。私の経験則だけどね。

 で、その経験則に当てはめると――コイツらはいわゆる「ゲス」の類だね。


「平気で他人を踏みにじって、しかもそれに愉悦を感じるタイプ。私が――心底ぶちのめしたくなる奴らだね」


 であれば、荷馬車の中にあるのは真っ当なもんじゃないはず。まー、証拠もなしに私の勘だけでぶっ飛ばすわけにもいかないけど。

 とか思いながら観察してたら、荷馬車から音が聞こえた。宴を邪魔された男たちが舌打ちをして「うるせぇぞ!」って怒鳴りつけると、荷馬車から何かが飛び出してきた。


「お願いだ! お、弟を医者に連れてってくれ!」


 飛び出してきたのは一人の男の子だった。見た感じ、まだたぶん十歳になろうかってくらい。頬にはアザがあって服もけっこうくたびれてた。


「あぁ? 医者ぁ?」

「頼む! お、お願いします! 熱がすごくて呼んでも返事してくれなくて……! お願いします! 何でもしますから弟を助けてください!」


 まだ子どもだってのに地面に頭を擦り付けて懇願した。見ててもその必死さが伝わってくるんだけど、残念ながらこういう奴らにはそんな想いも「エサ」でしかないんだよね。


「へっへっへ! おもしれぇ冗談だ! なぁ?」

「これから自分が売られるってのに弟の心配たぁ、麗しき兄弟愛ってやつか?」

「お願いしま、っ!?」


 少年の頭を男の汚い靴が踏みつけた。そして、そのまま腹を思い切り蹴飛ばした。

 少年が地面を転がって激しく咳き込む。それにもかかわらず男の一人が近寄って髪をつかんで無理やり顔を上げさせて、ニヤリとゲスい笑みを浮かべた。


「そうだなぁ……医者か。考えてやらねぇこともねぇ」

「お、願い、します……!」

「だがその代わりに、だ。本当はお前ら兄弟一緒に売っぱらってやろうと思ってたんだがなぁ……別々のクズに売っぱらうことにしよう。兄弟セットの方が売れやすいが、儲けは別々の方がいいからな。増えた利益分で治療代を賄ってもらうか」

「なぁに、貧相なガキでも客を選ばなきゃ売れる。売った先で死んだ方がマシな目に遭うかもしれんが、俺たちの知ったこっちゃねぇ。さぁ、選べ。弟は死ぬかもしれねぇが兄弟一緒に過ごせる方と、弟が助かる見込みはあるが今生の別れになる方、どっちがいい?」


 男がニタニタして少年の顔を覗き込む。対する少年の方は、目を見開いたまま押し黙った。そしてギリッと歯が食い縛られる。


(そうだよね、理不尽だよね――)


 一方的で反吐が出る選択。たぶんこの子は、弟と二人で支え合って生きてきたと思う。

 なら回答は一択。この腐った連中もそれを分かったうえで選ばせようとしてる。そして選択の瞬間に見せる絶望とわずかな希望のないまぜになった顔を見て酒の肴にするんだ。

 なんて、なんて理不尽。私もその味は知ってる。知ってるからこそ――


「――その選択をさせちゃいけないんだよね」


 かつての私を少年に重ねて、私は怒りを笑みで隠して木陰から姿を現した。






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