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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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8-2 人々は思ってる以上に強かなの





「僕って結構奇跡に愛されてる。最近とてもそう思うんだけど、リナルタはどう思う?」

「肯定します。そのまま死ねばよかったのに」


 ストレートに本心を伝えたんだけど、アルフはモザイク画と化した自分の顔面に回復魔術を掛けながら軽く肩をすくめただけ。反省の色はゼロで、堪えてないっぽい。

 どうやら私は無意識に手加減をしてしまったみたい。おかげで宙を舞ったアルフの脚がバルコニーの欄干に引っかかって、四階下の地面とキスすることなく九死に一生を得ていた。よっぽど運命の神様はこのクソ皇子を殺したくないらしいね。


「謝るからそんなに怒らないでよ。あ、でもそんなに怒るってことは、実は本気で――」


 また余計なことを喋ろうとしてたアルフの横でフルーツが弾けた。たいそうお疲れなご様子のアルフを癒してあげようと、私手ずから机の上にあったフルーツで生搾りジュースを作ってあげたのだ。ただそれだけで他意はない。なお、絞るのはもちろん素手だ。


「……何かおっしゃいました?」

「イエ、ナニモ……」


 ……ったく、ちょっとだけでも優しくしてやろうか、なんて考えた自分が実に愚か。もうちょっと苦しめばいいのに。

 それはそうと、すでになんか疲れたけどまだここに来た本題の話をしてないんだよね。夜も遅いし、さっさと終わらせてこのお疲れ皇子を寝かせてあげないと。


「それで、私をこんな夜中に呼び出した用件は何? ずいぶんとお仕事が溜まってるみたいだけど、私に手伝ってほしいとか?」

「ああ、机の上の書類はだいたいが兄上が放り出した仕事だよ。今日の夜会の準備で忙しいからって押し付けられた。本音はリナルタに手伝ってほしいけど、さすがにね」

「自分の勝手で放り出したんならそのまま放置すればいいのに、お人好しだね」

「官僚たちに泣きつかれてね。ここで恩を売っておけば味方になってくれるかもしれないし、最終的に困るのは市井の人たちだしね。ま、こんな時だけ皇子扱いなのは癪だけどさ」


 打算はあるみたいだけど、それを加味しても人が良いことだよ、ホント。私だったらテキトーにのらりくらりかわしてるか、読まずにぺぺぺぺーってハンコつきまくってるね。

 しっかし……この量を一人で処理するの? 見てるだけで気が狂いそうになるね。

 なんとなくこういうのはジェフリー様が得意そうな印象だけど……そういえば彼はいずこへ? いい加減アルフに愛想つかせて出て行っちゃった?


「そんな僕がダメ夫みたいな言い方しないでくれ。ジェフリーは早めに帰らせたよ。なんだか体調が優れないようだったからね」


 昼間は元気だったけど、あの人も真面目だしね。いろんなところで酷使されてそうだし、たまにはゆっくり休みを取るのも必要だろうから、それはいい判断だと思うよ。

 それはともかくとして、やっぱりさ。


「信頼できる味方ってのはもっと必要だよね」


 国家の腐敗を一掃しようってのに、安心して仕事を任せられるのがジェフリー様だけってのは大問題だよ。やることは山積みで、私だって四六時中アルフの仕事をできるわけじゃないしさ。


「はは、僕のことを心配してくれてるのかい?」

「嬉しそうに言わない。アルフが過労死したら、また私が犯人に仕立て上げられそうだし」

「安心してくれ。今日呼びつけた本題がまさにその話さ。先日、オールトン侯爵と会談したのは覚えてるかい?」


 こないだ私がアシルくんの相手をしてた時のことね。確かオールトン侯爵は皇族にも厳しい信頼できる貴族だって言ってたっけ? だからこそ味方にできるかもって話だったけど……もしかして上手くいった?


「ああ。まだお互い腹の内を探り探りなところはあるけれどね。帝国の現状と未来を憂いているって点では僕と同意見だった。協力して帝国を立て直していくことで合意できたよ。おまけに彼の影響下にある貴族たちにも積極的に協力の働きかけをしてくれるって話だ」


 おお! それは朗報だね。アルフ一人でこの国の膿を出してしまえるのか甚だ疑問だったけどこれで現実味が出てきた。侯爵様には感謝だよ。


「ま、その結果ますます読まなきゃいけない書類が増えてこのザマではあるんだけどね」

「それくらい甘受しなよ。で、ジェフリー様が倒れて書類も大量な状況にもかかわらず昼間は街に繰り出したってわけ?」


 机の上に置かれてたフルーツを手に取りクンクンと匂いを嗅ぐ。ん? 何か変だね。


「市井の人々の状況は逐次把握しておきたいからね。それはその時にもらったんだ。南方の珍しいものみたいだよ?」

「ふーん、そうなんだ」


 アルフの説明を聞きながら少しかじってみる。うん、これはアレだね。


「腐ってるね、これ」


 真実を伝えると、アルフは絶句した。


「本当に? そういう風味の果物ってわけじゃなくて?」

「うん。ジェフリー様にもこれを?」


 アルフは頭を抱えて天を仰いだ。


「それでか……ああ、ジェフリーには悪いことをしたな。店主がくれた物だからまさか腐ってるとは思ってなかったよ。まぁ……そういうこともあるか」

「アルフが思ってるほど街の人たちは善良じゃないよ」


 アルフがいぶかしげに眉をひそめた。どうやらコイツ、市井の人を一方的に虐げられてる純粋無垢な存在だと思ってるフシがあるけど、残念ながらそうでもないんだよね。


「確かに街の人たちは弱い立場ではあるけど、皇城に脚を踏み入れる貴族サマたちと同じように、アイツらはアイツらなりに狡猾で卑怯で、そして牙だって持ってるんだよ?」

「……つまり、わざと腐ったものを僕に渡したって言うのかい?」


 アルフが呆然と私を見た。信じられないだろうけど、たぶんそういうことだと思うよ。


「街の人たちにとって皇族、貴族ってのは自分たちの稼いだ金を問答無用で奪って贅沢してる、疎ましくて憎らしい存在だからね」

「そりゃそうかもしれないが……しかしどうして僕が皇子だってバレたんだい?」

「別にバレてはないよ? そこまで街の人に慧眼もなけりゃ推察する賢さもない。けどいくら『フレッド』として立ち振る舞っても高貴な人ってぇのはなんとなく分かるもんだよ」

「……」

「偉ぶってる連中がやってきて、しかもお忍びでとなれば、そりゃ腐ってるもんの一つや二つ、日頃の意趣返しとして売りつけてくるよ。ニコニコと笑ったまま、さ」

「そう、なのかい……?」

「そうだよ。人々はアルフが思ってる以上に強かなの。ただ上から目線で守ってやる相手だと思ってると、いつか足元をすくわれるよ?」


 国を立て直して人々のためにって理念は立派だけどさ、それで人々がアルフを支持してくれるとは限らない。過度な期待は、裏切られた時がつらいよ。

 昔の私みたいに、さ。





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