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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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7-1 どうして横領なんてしてるのかなって




「ねぇ、リナルタ?」

「なに?」

「一応確認するんだけど……君、本当に下女なんだよね?」


 アルフのつぶやきに、ジェフリー様も大きくうなずいた。

 失礼な。どっからどう見ても下女じゃん。クルッと回って恭しく頭を下げると、アルフは深々とため息をついた。ま、言わんとすることは分かるけどね。

 アルフとジェフリー様が執務室で並んで覗き込んでるのは、この数週間で私が集めたご貴族様たちの不正の証拠だ。


「横領に脱税……分かってはいたけど、こうやって証拠を並べられるとやっぱり衝撃だね」

「いったいどうやってこんなに……」

「そこは企業秘密、というやつで」


 とはいってもやったことは簡単。ご貴族様の邸宅に忍び込んだってだけなんだけどさ。

 もっとも私が調べられたのは皇都に拠点のある、比較的爵位の低い貴族ばっか。全貴族のだいたい四分の一くらいかな? 警備も緩々だから調べるのも楽だったよ。

 で、その半分くらいが真っ黒も真っ黒。裏帳簿は出てくるわ、なぜか明らかに怪しい隠し部屋に金貨が山になってるわで、思わず笑っちゃったね。


「伯爵以上の家は警備が厳重でゆっくり調べられなかったのが残念だけど」

「それでもいくつかは調べてくれたんだろう? 十分すぎる成果だよ」

「調べても証拠は見つかんなかったんだけどね」


 いわゆる大貴族サマたちの家は今のところシロ。だけどもまったくの清廉潔白なわけがない。なんとか見つけ出した帳簿には何に使ったか不明瞭な項目とかあったし。

 それに、裏で手を回して無実の私を牢屋にぶち込めるような奴が下っ端貴族のはずは無い。ひょっとしたら大貴族サマたちは、家門の下級貴族たちを隠れ蓑にしてお金を集めてるのかも。


「そうかもしれません。しかしここまで腐敗しているとは……同じ貴族として衝撃ですね」

「ジェフリー様、ジェフリー様。税を収めてもあの皇族方の贅沢三昧に使われるくらいなら、自分の懐に入れたいって思うのも当然じゃないでしょうか?」

「率直で辛辣な感想ありがとう。耳が痛いが否定できない事実だね」


 手に持っていた帳簿の複製を机に置いて、アルフがと深く息を吐いた。気持ちは分かるよ。官僚も一枚噛んでるケースだってあるだろうし、国を愛する人物としてはやるせないよね。まぁ下女である私にできるのは、せいぜいアルフを応援するくらいだけどね。

 すると目元を押さえて天井を仰いでたアルフがおもむろに立ち上がった。掛けてあった上着を手に取って、私をチラッと見た。


「気分転換にちょっと庭園を散歩してくる。すまないがジェフリーはリナルタの持ってきた証拠を整理していてくれ」


 恭しく頭を垂れたジェフリー様を残して、私とアルフは皇城の中庭にある庭園へとやってきた。

 庭園にはたくさん花が咲き乱れていて一見して美しく見事だって思える。だけどよく見ると、あんまり手入れはされてないご様子。せっかくの庭園が宝の持ち腐れだね。

 アルフが枯れて今にも朽ち落ちそうな花をそっと撫でて小さく息を漏らした。空に高く上がった太陽が足元に濃い影を落とす。アルフの心中もきっと似たようなもんかもね。


「――ミュティアル」


 アルフが音声遮断魔術を唱えた。どうやら聞かれたくない話をしたいみたい。


「君が集めてくれた証拠だけど」アルフが歩きながら話し始めた。「今のまま告発しても、おそらく握りつぶされると思う。これだけ広がってる不正だ。所詮僕は権力も政治的な基盤も持たない第三皇子だ。都合の悪い話なんて誰も聞く耳を持ってはくれないだろう」

「前に不正を暴いた時は、市井を味方につけたんじゃなかったっけ? 同じように街にばらまいちゃえばいいじゃん。こんだけみんな不満を溜め込んでるし、いっそアルフの名前で世に出しちゃえば今度はもっとみんな味方になってくれると思うよ?」

「それは前が連中の不意をついたからだよ。僕はもう疑われてる。この間、君も被害を受けたようにね。同じ手を使おうとしたって、どこかで手を回されて不都合な真実が世に出回ることはないさ。最悪、夜中とかに暗殺される可能性もある」


 確かに。こんだけ不正が広がってたら、悪い奴らみんな結託してもみ消そうとするよね。


「暗殺はなんとか防げるだろうけどね」

「どうやって?」

「私がずっとアルフに張り付いてればいいんでしょ?」

「寝てる時とかはどうするんだい?」

「別に? 一緒に寝てればいいだけじゃん」


 これでもそこらの暗殺者を全員ぶっ飛ばす自信はあるし。アルフとの噂が、もう疑いようのない事実としてみんなの間で確定しちゃうのが難点だけど、別にアルフの命を犠牲にしてまで拒否するもんじゃないからね。

 そう伝えるとアルフが耳を赤くしてそっぽ向いて咳き込んだ。ん? 大丈夫? 風邪かな? だいぶ無茶な生活をしてるっぽいし、たまには早めに休んだ方がいいよ。


「み、魅力的な提案ではあるけど、そうなれば今度は君を先に排除に走るだろうね。先日のように適当な罪を被せて数日牢屋に入れるくらいはできるだろうし」


 うーん、そうかも。暗殺なんて一瞬だしね。ちょっと引き剥がされたらお終いか。


「コホン……だから次に僕らがやることは味方の貴族を一人でも増やしていくことだと思うんだけど、どう思う? 率直な君の意見を聞きたい」

「んー、まあ賛成。味方は多い方がありがたいし。時間が掛かりそうなのが難点だけど」


 問題は味方してくれる貴族がどれだけいるかってことだね。身ぎれいな貴族サマもいるはいるだろうけど、力のないアルフに協力してくれるかなぁ。

 それに、それとは別に気になることもあるんだよね。


「気になること? なんだい?」

「どうしてみんな横領なんてしてるのかなって」


 そりゃ贅沢三昧してる皇族に領地のお金を納めたくないってのは分かるよ? でも小さくて貧乏な領主はともかくとして、結構裕福な貴族も不正してたし、お金持ちがそこまでして蓄財に励むのかなって。


「富は海水のようなもの、と聞いたことがある。海水を飲めば飲むほど喉が渇くように、お金も集まれば集まるほどもっと欲しくなるということだ。彼らも同じじゃないかな?」

「だとして、不正で集めたお金って何に使ってるんだろ? 本当に単に貯め込んでたり贅沢品とか遊びに使ってたりするのかな?」

「お金の流れを追ってみるということか……うん、その価値はありそうだ。もし彼らに何か目的があるとしたら、そこを突くことで裏切らせて味方に引き込むことも――」


 と、そこまで話したところでアルフが突然口をつぐんで魔術を解いた。視線の先を追うと、そこにはご貴族サマらしい親子の姿があった。あれ? あの子は確か……


「おや、どなたかいると思えば。ご無沙汰しております、アルフレッド殿下」


 ゆったりとしたローブをまとった細身のご貴族サマが、穏やかな笑みを浮かべた。そして後ろに隠れるようにひっついてるのは、前に酔っ払いに絡まれてたところを助けてあげたおかっぱ頭の男の子。名前はえーっと、アシルくんだったっけ? ってことは――


「オールトン侯爵だよ」アルフがそっと耳打ちしてくれた。「彼は贅沢や不正が嫌いで有名な清廉潔白な人物でね。陛下にも度々苦言を呈してくれている。陛下のみならず皇族そのものにも少々隔意があるというのが難点だが……」

「ならちょうどいいんじゃない?」


 味方の貴族を増やそうってんならこのオールトン侯爵様より適任もいないと思うけど。

 アルフも同じ考えのようで、明らかによそ行きっぽい笑顔で侯爵様に手を差し出した。






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