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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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6-5 殿下が主君だったなら





 牧歌的な雰囲気に紛れて見落としがちになるけど、明らかに戦闘の結果と思しき痕跡があちこちにあった。壊れた牧場の柵、作物が焼け落ちた畑、えぐりとられた道路。町の人たちも一見普通に生活してるけど、注意して見れば明らかに包帯を巻いてる人が多い。


「男爵。昨日の陛下への嘆願を鑑みるとおそらくは――」

「はい……魔獣による被害でございます」


 ユンゲルス男爵が大きなため息をついてから、詳しい事情をアルフへ話し始めた。

 昨日聞いたように、ここ最近になって魔獣が町を襲う頻度が急に増しているみたい。魔獣のランクは高くないからなんとか撃退できてはいるものの、そもそも対魔獣用の装備がそろえられなくて、町の人や兵士さんにかなりの死傷者が出てしまってるとのことだった。

 うーん、普通の装備だけで魔獣と戦うのは、確かに厳しい。でも対魔獣用の装備は高いし、大都市の領主だって兵士の数だけ魔獣用の武装を揃えるのはそれなりな負担。ユンゲルス男爵にとっては言わずもがなだよね。


「幾度となく陛下へご支援を賜われるようお願いしておりますが……」

「昨日だけでなく、男爵はずっと嘆願してるのか。多少なりとも支援は頂けたのかい?」


 アルフが尋ねると、男爵は悲しそうに曖昧な笑みを浮かべた。え? もしかしてまったく支援もらえてないの?

 それはアルフも予想外だったみたいで、頭を抱えてた。自分や息子はあんだけ散財してるってぇのに、こういう必要な場所にゼロなんていよいよ終わってるね。


「……皇室に連なる人間として非常に申し訳ない。私からも陛下へ掛け合ってみよう」

「もったいないお言葉でございます。しかしここまで急に魔獣が増えるとは想定外でした。多少は魔獣の襲撃にも備えはしていたのですが……」

「いつから急増したんだい?」

「そうですな……前々から兆候はあったのかもしれませんが、明らかに増えたと感じ始めたのは二、三ヶ月前だったかと。今では週に一度は何らかの被害が出る状況でして……」

「そんなにか……人が住むところまでやってくる事自体、普通は珍しいのに」

「はい。巷では魔王復活の噂があるようですが……それもあながち嘘ではないのかもしれないと、最近思うようになってきました」

「ははは、さすがにそれは気にしすぎだよ。魔王がおらずとも魔獣が増減するのもよくある話だ。きっと今がたまたま、魔獣が増えている時期なのだろうさ」


 そうだね、アルフの言うとおりだと私も思う。少なくともこの領地で魔獣が増えてることと、魔王の復活だなんだというのはまったくの無関係だね。

 それよりもさ、ちょーっち気になるとこがあるんだよねぇ。


「えーっと、差し出がましいのですが、私から一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」


 なんとなく男爵様はおおらかで気にしない気がするけど、一応こちらは下女なので遠慮がちに手を挙げる。すると男爵様は気さくな笑みを浮かべてうなずいてくれた。


「どうせ私はこのような田舎領主なのだ。気にせず自由に発言してもらって構わない」

「じゃあ遠慮なく。男爵様のお屋敷に何か魔力を大量に蓄えてたり、あるいは吸収したりする武具などあったりしますでしょうか?」


 近づいてきた男爵様の邸宅を見ながら質問する。孤児院に行った時は気づかなかったんだけど、よくよく男爵様の屋敷を意識するとすっごい濃密な魔素がにじみ出てるんだよね。

 魔獣ってぇのは魔素が濃いところに集まってくる性質がある。あくまで個人的な経験論だけどそれはほぼ真実だと思ってて、だからこその質問だったんだけど――


「……いや、そういった類の物はないはずだ」


 男爵様は一瞬固まってから首を横に振った。


「魔力石とか魔剣の類も対象となりますけど、それもないですか?」

「無いな」


 はっきりと否定した。でも男爵様、顔が鉄面皮になりすぎて逆にあるって言ってるようなもんだよ。とはいえ、これはたぶん何か事情があって言えないやつだろうね。


「本当か、男爵? 心当たりがあるなら――」

「本当にございません。ですが念の為、そういった類が紛れてないか確認してみましょう」


 アルフが水を向けても言わないんなら、ここでどれだけ詰問したところで口は割らないだろうね。

 ま、魔素が溜まってるとヤバいってのは伝わっただろうし、対処さえしてくれるんなら、後はこっちでも勝手になんとかしてみよっかな。孤児院もあるわけだし。

その後、男爵邸を通り過ぎて町の反対側まで到達したところで案内は終了。ポータルのある建物まで戻る。日も暮れて、お腹も空いてきたしね。カラスと一緒に帰りましょ。


「男爵、案内感謝する。おかげで貴殿の状況を把握できた。確実に陛下に伝えておくよ」

「ありがとうございます、殿下。何卒、宜しくお願い致します」

深々と頭を垂れた男爵様と別れの握手を交わして、アルフがポータルの放つ光の中に消えていく。そして私もポータルに入ろうかという時だ。


「殿下が主君だったなら、どんなに良かっただろうか……」


 見送っていた男爵様がポツリとつぶやいた。決して他の貴族には聞かせられない言葉。それを思わずつぶやいた男爵様の胸中は如何ほどだろうか。腹芸が苦手とはいえ隠しきれない思いがにじんでて、相当に苦しい状況が窺えた。

 だけども私は単なる下女。今すぐできることといえば男爵様のつぶやきを聞かなかったことにするくらいだ。だから何も反応せずに、私もポータルに飛び込んだのだった。






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