1-2 なーんかどっかで見たことがある気がする
マッサたちをボコボコにぶん殴って気絶させると、私は三人を担いで近くの街に戻った。
「よいしょっと」
街中に設置されてる長距離移動用のポータルに、三人をポイポイーってな感じで投げ込んだ後で私が中に飛び込むと、皇都側の兵士さんたちがぎょっとした顔で私を見てきた。そりゃ三人立て続けで気絶した人間が出てきたらそうなるよね。
「お疲れ様でーす。あ、これギルドの依頼票と身分証」
やましいことも無いので怪訝な視線を気にせず建物を出ていく。しかし、戦争とか考えると理解はできるんだけど、ポータルももうちょっと大きくできたらいいのに。
マッサたち三人を担ぎ直して傭兵ギルドに向かう。週末の皇都だから人が多くて、大きな荷物担いでると歩きにくいのなんの。
「ふぅ、到着っと」
なんとか十数分歩いて、ようやくギルドに到着した。設立されて二百数十年、最も古い皇都のギルドの外観は当時の面影を残したままで、入口なんかもスイングドアのままだ。
それを押し開けて中に入る。と、入った途端に不意に後ろに引っ張られた。
「おっととと」
見ると、フィリアのひらひらした服がドアに引っかかっちゃってた。中々取れないから無理やり引きちぎって彼女のあられもない姿をさらしてやろうか、なんて思ってると――
「大丈夫かい?」
目の間に急にイケメンが現れて、引っかかった部分を外してくれた。初めて見る人だね。つい顔をマジマジと見つめてしまったけれど、そこでおかしなところに気づいた。
どうやら魔導具で顔を変えてるみたい。私には魔術が効きにくいから薄っすらと本当の顔が見えて、それがまた変装後の顔よりも美男子だからなおさら驚き……なんだけど。
(なーんかどっかで見たことがある気がするんだよね)
このお兄さんの方も、私を見て少し驚いてるっぽいし、日常的に見かけてる気がする。でも普段あんまり人の顔なんてじーっと見ないから、いまいちピンと来ないんだよね。
とか考えてるとふと、昔にずいぶんと馴染みのあった勇者レオンハルトのことが思い浮かんだ。そういえばアイツにちょっと似てるような気もするなぁ。
「どうしたんだい? 僕の顔に何かついてる?」
「ううん、別に。お兄さんがイケメンだからちょっと見とれちゃっただけ」
「あはは、ありがとう」
「こっちこそありがとね、お兄さん」
お礼を言うとお兄さんは、キラキラと周囲に星がきらめくような笑顔で手を振ってくれた。結構な威力のある微笑みで、事実ギルド内にいる女性の視線を一身に集めてるし。ま、人の見た目ほど信用ならんものはないし、「イケメンだな」ぐらいにしか思わないけどさ。
お兄さんと別れてギルドの受付カウンターを眺めてみると、受付はそれなりに空いてた。とはいえ、事情を鑑みるとエルヴィラの窓口がいいんだけど……今日は休みかな?
「しかたないか。ニコラで我慢しよっかな」
「なんかずいぶんな発言が聞こえたんだけど?」
私のぼやきを耳ざとく拾われてしまった。相変わらず地獄耳だね、ニコラは。
「僕の武器は品質の良い『耳』だからね」
そう言って笑うニコラ・サヴィーニの窓口に向かう。彼の手元にはコーヒーカップがあって、鼻歌を歌いながらドボドボと大量の砂糖を投入。さらにそこにはちみつを大量にひねり出した。仕上げにレモンのスライスを浮かべると、それを美味しそうに飲んでいく。どう考えてコーヒーの味なんてしないと思うんだけど。
「分かってないなぁ、リナルタは。この甘ったるい中にかすかな苦味と酸味があるのが美味しいんじゃないか」
「普通は逆じゃない?」
こんな味覚壊滅ヤローが皇都の傭兵ギルド支部長なのだから終わってるね。まあ優秀なのは確かだけど。でも支部長がコソッと受付やってるのは趣味が悪いんじゃない?
「書類仕事ばかりだと、人を見る目が鈍るからね」
「仕事サボりたいだけでしょ?」
「あはは……まぁそれはいいとして――三人はやっぱりクロだったんだね?」
急に真面目な仕事モードに変わったニコラに私もうなずく。
私が傭兵ギルドから受けた依頼。それは、マッサたち三人の監視と、尻尾をつかんだらその捕縛をする、というものだ。
皇都に来た三人の依頼履歴を見ればB級昇格も目前か、というところだったらしいけど、履歴を深堀りしていったら彼らと組んだポーターが何人も死んでたみたい。それを怪しんだエルヴィラとニコラが指名依頼という形で私に話を回してきた、ってわけ。
一通り今回の顛末を話し、三人を引き渡して書類にサインする。これで依頼は完了っと。
「ホント、もったいないねぇ……こんなに強いのにポーター登録だなんて」
「傭兵待遇になったらお城の仕事ができないじゃん」
傭兵登録だと月に一度は何か仕事受けなきゃいけなくなるし、長期の護衛依頼なんかもある。だけど私の本職はあくまでお城の下女。報酬は安くても自由に契約できるポーターが副業としては適してると思う。なのでスン、と澄まし顔で下女らしく一礼してみせる。
「だとしても、ポーターの仕事中も下女服なのはやり過ぎだと思うけど」
「下女たるもの、いつでも下女服でいるのが当たり前でしょ?」
そう教えてあげると、ニコラは盛大にため息をついて報酬金を差し出した。ひー、ふー、みー……うん、契約どおりだね。
「そういえば、マッサが持ってた魔導剣。あれはどうなんの?」
「マッサたちの資産は没収されて被害者救済に当てられることになるからね。リナルタも一応は被害者って扱いになるし、盗品じゃなければ、欲しいなら後であげるよ?」
じゃあお願いしよっかな? あの剣はたぶんレオンハルトが大昔に使ってたやつで、こうして私の側にやってきたのも縁だし、他の人間に渡るくらいなら私が持ってたい。
差し出された受取用の書類にサインし、ふと顔を上げるとニコラの後ろにかかっているボードが目に入った。あれ? また魔力石のレート上がってない?
「ああ、そうなんだ。ここ最近需要が急激に増えてるみたいでさ」
「どこかで大規模な開発が行われるの?」
「そんな話は僕の耳にも入って来てないけど大貴族か大商会が買い集めてるのかもね。それに最近は皇都までの街道で魔獣が増えてるみたいだから、そのせいもあるのかも」
掲示板を見てみると、確かに商隊の護衛依頼がいつもより断然多い。うーん、ここまでレートが上がると魔導具をよく使う商隊の人たちは大変だろうね。
そういえばここに来る途中に顔見知りの行商してるおじさんがいたっけ。ちょっとそこらの話を聞いてみよっかな。この後の行動を考えつつ、私はギルドを後にした。
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