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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第2章 街の人たち

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6-3 惚れた女性が優しい人で良かった




 宝飾店を出て銀行でお金を引き出すと、アルフと一緒にポータルに飛び込む。目がくらむ光りに包まれて、そこから一歩踏み出すと田舎のひなびた風景が広がってた。


「ここは?」

「皇都から見て北の、ある男爵領だよ」


 なに男爵かは忘れたけどね。歩きだと数日かかる距離でも、ポータルを使えば一瞬。使用料もアルフ持ちだし、いやーホント実にポータル様々、アルフ様々だよ。


「それでどこへ行くんだい?」

「こっち。ついてきて」


 アルフを引き連れて町の中心部へ。家もまばらで町と言うより村に近い感じ。道の舗装もあまり手入れもされてなくてデコボコ。この領地の経営は相当苦しそうだね。

 そんな道を歩いていくと私の目的地が見えてきた。

 たぶん領主様のお屋敷なんだろう町のど真ん中にある大きな屋敷から、ちょっと離れた場所にある古い建物。良かった、まだ崩れたりはしてないみたい。


「ここは?」

「孤児院だよ。魔獣被害や病気で親を亡くした子が集団で生活してる」

「そう、か……」アルフが建物を見上げた。「だいぶ運営は苦しそうだね」

「どこもこんな感じだよ。元々なけなしだった補助金も打ち切られたみたいだし」


 現状を伝えると、アルフは小さくうめいた。たぶん孤児院を訪れるのも初めてなんだろうね。今の陛下がこういった場所の現状に目を向けてると思えないし。


「あー、リナルタだ!」


 立ち尽くしてるアルフを促して崩れかけた門をくぐると、誰かが大きな声を上げて、それを合図に子どもたちが一斉に飛び出してきた。


「リナルタ! 鬼ごっこしようぜ!」

「ダメよ! 今日は私たちと一緒にお店屋さんごっこするの!」

「ちげーよ! 今日は俺たちと遊ぶんだって!」


 おーおー、みんな元気そうだね。キミらが体力無限大なのは知ってるけど、こっちはおばちゃんなんだからさ、手加減してよね?

 群がった子どもたちを落ち着かせながら遊ぶ順番を決めていってると、いっつも真っ先にいたずら仕掛けてくるジャックたちがいない。さて、どこに行ってるのやら、と気配を探ると忍び足で後ろから近づいてきてるらしかった。

 ははぁん、なんか企んでるってわけか。けど、あいにく私は大人げなくってね。


「こーら」

「うわっ!? り、リナルタ? いつの間に?」


 ジャックたちの背後に一瞬で回り込み、後ろから抱え上げた。ジャックの手には大きめの虫が一匹。どうやら私の背中に乗せて驚かせようしたみたいだけど、見込みが甘いね。


「ふふーん、私を舐めちゃダメだよ? さて、いたずらっ子には私も相応に対応しなきゃいけないよ――ねぇ!」

「ぎゃああああっ!?」


 組み伏せ、馬乗りになってキャメルクラッチをお見舞い。絶叫してバンバンと地面をタップしたところで解放してやる。ジャックたちにはこれくらいやってやらないと懲りないからね。本人たちもこれを楽しみにいたずら仕掛けてるところもあるし。マゾかな?


「あらあら」


 そんな感じで、来て早々じゃれ合ってると、おっとりとした声が聞こえてきた。振り向けば、頭にコイフを被って首元にロザリオを掛けたシスターがゆっくり近づいてきてた。


「おひさー、シスター。またお邪魔してるよ」

「お久しぶりです、リナルタさん。ところで……またジャックがいたずらしたの?」

「い、いや! べ、別にいたずらしてねーし!」

「うん、背中に虫つけようとしてきた」

「り、リナルター!」


 いたずらを暴露されたジャックが絶叫したけど、ははは、いたずらする方が悪いのだよ。


「もう、ジャックったら……嘘までついたのね?」

「あ、あははは……う、嘘をついたってわけじゃ……」

「悪い子には――おしおきが必要ね」


 ジャックは私の時以上の形相で逃亡を図るけどシスターが手をつかんで逃げられない。強引に引き寄せると、ニッコリと笑顔を崩さずに顔を覗き込む。

 そして肩に優しく手を置くと――そのまま上空へとジャックを放り投げた。


「ひぎゃああああああああああぁぁぁぁぁっっっっ――」

「ふん!」

「ぐひぇっ!」


 絶叫を響かせながらフライハイしてきたジャックを肩で受け止めて、そのまま海老反り固めでフィニッシュ! うん、いつ見ても惚れ惚れするアルゼンチンバックブリーカーだ。しっかしシスター、おっとりした見た目と違って結構パワフルだよね。


「いーい、ジャック? いつも言ってるとおり、やりすぎないたずらはダメよ? 虫が嫌いな子も多いんだから。なにより嘘をつくのは一番ダメっていつも教えてるでしょう?」

「ふぁい……」


 白目向いて今にも死にそうなジャックの返事を聞いて制裁は終了。内容に似合わず「ぷんぷん!」ってかわいらしい仕草をしてたシスターだけど、私の後ろを見て「あら?」と声を上げた。振り返れば、アルフが引きつった笑顔を浮かべてた。あ、完全に忘れてたわ。


「これはこれは。お恥ずかしいところをお見せしました」

「いえ……こほん、はじめまして。フレッドと申します」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。リナルタさんのご友人ですか?」

「ご友人と言うよりも恋人――ごふぅっ!?」


 アルフの腹にパンチを一発お見舞い。こら、どさくさに紛れてさらっと嘘を言わない。


「……はい、友人をさせてもらってます」

「あらあら、そうでしたか」


 なんて応じながらシスターはクスクス笑って私を見た。あ、絶対これ誤解してる。いや、ホントーにアルフは恋人とかじゃないからね?

 言い訳してもなんか全然信じてくれ無さそうなので、とりあえずここに来る前に銀行で引き出してきた金貨の袋をシスターに手渡した。


「はい、これいつもの」

「ありがとう、リナルタさん。助かるのだけれど……大丈夫? 無理してない? お城勤めとは言ってもそこまでお給料高いわけじゃないんでしょう?」

「大丈夫だよ。どーせお金なんて殆ど使わないし、傭兵ギルドで副業もしてるしね」

「君はいつもこうして寄付をしてるのかい? しかもポータルを使ってまで直接届けに」


 まぁね。子どもたちに会うと元気もらえるし、なにより寄付を受け付けてる機関にお金預けても、本当にちゃんと届いてるか信用できないからさ。特に今みたいなご時世だとね。


「彼女のおかげで本当に助かってるんです。子どもたちに美味しいご飯を食べさせてあげられますし、高価ではないですが新しい服も買ってあげられてます」

「確かにそうみたいですね。失礼ではありますが、私が想像していたよりもずっと子どもたちは健康そうだし、身なりも綺麗だ。なにより、子どもたちの顔が明るいですね」


 アルフが子どもたちを見回しながら顔をほころばせた。いやいや、子どもたちが明るいのはこのシスターのおかげよ。だけど私のお金が一助になってるなら嬉しいってもんだね。

 子どもたちが走り回ってる姿を眺めてるとアルフが私の顔をじーっと見て微笑んでた。なんだかずいぶんと嬉しそうだね?


「いや、僕が惚れた女性が優しい人で良かったと思ってさ」

「はいはい、おだててもなんも出ないよ。寄付だって単なる自己満足。優しいんじゃなくて、私がやりたいからやってるだけ」

「なら僕からも寄付させてもらうとするかな」


 言いながらアルフも金貨の入った小袋を取り出してシスターに手渡した。


「すまないね。手持ちが少なくて。次の機会にはもう少し寄付をさせてもらうよ」

「こんなに……宜しいのですか?」

「別にそこまで私に付き合わなくていいんだよ?」


 さっきも言ったとおり私が好きでやってるだけだしね。どっちかって言うと、アルフにはこういう場所もあるんだよーって知ってもらいたかっただけで。

 そう言うとアルフはいたずらっぽく笑った。


「君と同じさ。僕の自己満足だよ。ここにいるのはつらい思いを経験した子どもたちだ。なら、これからはそのぶん少しでも多く笑顔を浮かべてほしいからね」


 穏やかに微笑むことが多いアルフだけど、今の笑みはいつもよりずっと優しい。少なくとも私にはそう思えた。





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