6-2 お姫様、エスコートさせて頂いて宜しいでしょうか?
てなわけで翌日。
いつもどおり仕事をしに洗濯場に行ったら、私は休暇になっていた。しかも休んでもお給料は出るらしい。ありがたいけど、一体何の力が働いたんだろうね?
「ま、誰の差し金かは分かってるけどさ」
仕事にかこつけて約束をすっぽかすとでも思ってるのだろうか。どういったものであれ約束は大事。それをすっぽかすなんて……まあ考え無かったと言ったら嘘になるけどさ。
「おまたせ、リナルタ!」
しかたないので早めに街に出かけ、なんとか時間を潰して約束の場所でぼけーっとしてると私を呼ぶ声。振り返れば、アルフが「フレッド」の姿で走ってきていた。魔導具で顔を変えててもイケメンはイケメン。振りまくさわやかな笑顔のせいで、すれ違う女性がみんな熱い視線を送ってるけど本人はまったく素知らぬ様子。まったく、罪づくりな男だね。
「ん? 僕の顔になにかついてる?」
「いんや、別に。アルフも大変だろーなーって思って」
「何の話だい?」
「私が勝手に同情してるだけだし気にしないでいいよ。それより、また勝手に人の仕事を休みにして、どこに連れてくのさ?」
「はは、それは到着するまでのお楽しみさ」
少し怒った素振りを見せてみてもアルフは意に介さずさわやかスマイルでウインクしてくる始末。はぁ、とため息をついてると、アルフがかしずいて私の手を取り見上げてきた。
「お姫様、それではエスコートさせて頂いて宜しいでしょうか?」
おっと、これはなかなかの破壊力。いたずらっぽい笑みを浮かべ、しかもこんな気障な仕草も様になるから手に負えない。本人よりもむしろこっちの方が恥ずかしい。おまけに周囲の視線がだんだんとアルフへの羨望から私に対する妬みに変わってきた気がする。
なので、アルフを急かして皇都の街を歩き始める。手? アルフは繋ぎたそうにしてたけど、そんなのはもちろんソッコーで振りほどいたよ。恋人じゃあるまいし。
しかし、ホントにどこに行くんだろ? フレッドの格好で来たから、まさかギルドの依頼を一緒に受けるとか? それなら付き合うのは、やぶさかじゃないんだけど。
「こっちだよ」
アルフに案内されながら一緒に歩くこと約十分。たどり着いたのはギルド――ではなく見るからに高そうな宝飾店だった。いや、私は下女だしこういうお店は苦手なんだけど。
「まあそう言わないで。今日は僕に付き合ってくれるんだろ?」
そりゃそうだけどさ。渋る私を促しながらアルフがドアを開けると、中から香りが漂ってくる。しっかりと香る、けど不快じゃない匂い。これだけで分かる。絶対そこらの貧乏貴族じゃ入れないレベルのお店だ、ここ。
「いらっしゃいませ、アルフレッド殿下。お待ちしておりました」
入った瞬間、店長らしき女の人がにこやかに話しかけてきた。今のアルフは「フレッド」なはずなんだけど、迷わず本名で呼びかけてきたってことは……
「この店は皇室御用達でね。店長とも顔見知りなんだ。それに、今の皇室に対しても『良心的』で信頼できる店だからね」
「ありがとうございます。当店は高品質ものを適正な価格で、適正な範囲でご提案させていただいております」
なるほど。つまりアルフの事も昔から知ってるし、浪費家の陛下やミリアン殿下にも、むやみやたらに高いものを売りつけたりはしないってことね。
「さ、君の好きなものを選んでくれていいよ。君には色々と迷惑を掛けたからね。プレゼント、というより先日のお詫びのつもりなんだ。どうか受け取ってほしい」
そうは言ってもねぇ……
とりあえず店内を見て回る。さすがは高級店で指輪もネックレスも目を引くようなものばかり。
だけどうーん……別に欲しいわけじゃないし、どれも私にはピンとこないなぁ。
「やっぱりいいよ。アルフから物をもらうってだけで余計恨みを買っちゃうし、それに、どうせこういうのもらったって普段つける機会もないしさ」
「君ならそう言うと思ってさ」
アルフが手を挙げると、店長は一旦奥に引っ込んでいった。そして箱を一つ持って帰ってきて、それを私の前でゆっくりと開けた。
入ってたのは一つのネックレス。特徴的な装飾もないし、自己主張が激しいわけでもない。ひじょーにシンプルで、見る目がない人ならまず選ばない代物だ。だけどこういった宝飾類を昔は頻繁に見てたから分かる。これまた、ずいぶんとずいぶんな品だね。
「これならつけてても下女服に隠れて見えないし、いつも身につけていられるだろ? これでもダメなら、君の部屋に強引に置いてくから」
引く気はないってことね。はぁ、しかたないか。いくらアルフだからってあんまり断るのも失礼だし。それにまぁ……気に入らないかっていうとそういうわけでもないし。
アルフにうなずくとすぐにその場で購入して、私につけてくれた。首にかかったネックレスを手のひらに乗せて眺めてると、ちょっと気分が上がった気がする。私も単純だね。
「ありがとうございます、アルフレッド殿下」
「よしてくれよ、改まって。さっきも言ったとおりお詫びだからさ」
「それでも礼儀はきちんとしときたいの。それで、用事はこれで終わり?」
「そうだね。できればこの後、軽く食事でもどうかと思ったけど」
「それじゃデートじゃん」
そりゃね? 皇都だからさ、アルフを目の敵にしてる連中の目があるかもしれないよ? けどお城を出る段階でどうせそういう連中にはアルフが私に会いに行ってるってバレてるだろうし、城の外でまでデートのふりしてアピールするまでもないと思うんだ、私は。
そう言ってあげるとアルフが微妙に顔を引きつらせて、それから小声で何か言ったけど聞き取れなかった。ごめん、なんて言った?
「いや、気にしないでくれ。ただの独り言だから。それで、もしリナルタが行きたいところがあるなら付き合うよ。デートとか関係なしにね」
お、いいの? なら久しぶりに行ってみよっかなって思ってたところがあったんだよね。
「じゃあ、今度は私に付き合ってくれる?」
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