5-6 僕はこの国を正したい
アルフ曰く、今や貴族や官僚たちの脱税や、国庫の横領なんて珍しくない状態が長く続いてるらしい。
しかも陛下は政治にも経済にもご関心を示しておらず、それどころか国庫を湯水のように使って飲み遊んでいる始末。第一皇子であるミリアン殿下もリズベット様にご執心で、国家運営なんてお構いなし。そりゃ貴族たちだって好き勝手やるわ。
「少なくともご貴族サマたちについては、アルフが告発して糾弾すればいいんじゃない?」
「そうしたいんだけど、確かな証拠をなかなかつかめないんだ」
どこぞの貴族様たちが脱税や国庫の横領をしているのは確実。そこは第一皇女であるソフィーリア殿下も同じ見解で、けれども誰がどの程度やっているのか不明なのだという。
そりゃまた……いや、もう長いこと皇城で働いてるから薄々感じてはいたけど、相当に腐ってるね、この国。おっと、アルフにこんなこと言っちゃ不敬かな?
「構わないよ。僕だって同じ気持ちだからね。とまあ、そんな状況なわけだ。何とか僕の力でこの国を正したいと思ってはいるし、そのために水面下で動いてはいる。実際、少し前にも脱税の証拠をつかめた貴族のことを匿名で市井と皇城にばらまいてみたしね」
「ああ、そういえば去年、ちょっと騒ぎになってたっけ。あれアルフの仕業だったんだ」
「苦肉の策ではあったんだけどね。幸いにも無視されなかったけど、それで相手も警戒を強めたみたいでね。だからリナルタが逮捕されたのもたぶん、僕に対する牽制だと思う」
なるほど。ここ最近、アルフが私にアプローチしてたのは周知の事実だしね。私を逮捕することで、「これ以上下手なことをすればお前の好きな人がどうなってもしらんぞ」ってわけだ。
アレ? ってことは、だよ。
「もうアルフが色々やってるって相手側にバレてるってことじゃん」
「いや、そうでもない。調べてみると、他のいくつかの貴族にも似たような脅しを掛けてたみたいだ。だから疑われてはいるけれど、まだ僕だって確証は持たれてないはずだよ」
本当かなぁ? ちょっと疑わしいけど、相手が本気でアルフを潰そうなんて考えちゃいないってところは確かっぽい。今回の私の逮捕みたいに、誰かに濡れ衣着せれるくらい力がある存在なら、アルフ暗殺とか直接的な手段に出ることだって可能だろうし。
「僕はこの国が好きだ」アルフが窓辺に立った。「建国から三百年。今や大陸一の大国となった帝国に歯向かう国は少ない。でも人間と一緒で国も刺激が少ないと、容易に内側から腐っていく。このままだと遠くない未来に力を蓄えている他国に食い散らかされるだろう。
だから、僕は何とかこの国をあるべき姿に正したい。国を治める者たちが私欲ではなく、国民を思い、国民を守り、国民のために統治するという姿に。だけど……」
そこで一度ため息交じりにアルフが言葉を区切った。そしてこちらを振り向く。私に向けたその口元はわずかに微笑みを宿してるけど、瞳は何処か悲しいというか、悔しそうというか、そんな色を湛えているように思えた。
「いかんせん僕は所詮第三皇子だ。ミリアンのスペアでしかないし、権力も発言権も無ければ、味方してくれる貴族もほとんどいない。特に、この皇城内においてはね」
……ははぁん、なるほどなるほど。そういうこと、か。
「だから私に近づいたってわけか。皇城内で自由に動ける駒を手に入れるために。幸いにしてミリアン殿下のように下女を愛妃扱いしてる前例があるわけだし、恋した演技をしていれば頻繁に私と接触していても怪しまれることはないから」
「……まぁ、そういうことだね」
肯定しながらも、アルフが一瞬だけちょっと残念そうにした。ん? どっか間違ってた?
「いや、間違ってはないよ。ただ……」
「ただ? なに?」
「気にしないでくれ。君の言うとおり、皇城内で怪しまれず情報収集できる人材が欲しかったんだ。とはいえそこまで危険なことをさせるつもりも無かったのだけど……君が思ってた以上に優秀な人物だと分かったからね。今回の冤罪も自分で解決してくれたわけだし」
「え!? 彼女が自力で解決したんですか!?」
「別に私は何もしてませんよ?」
ジェフリー様が驚く横でシラを切ってみる。するとアルフが喉をクツクツと鳴らした。
「そういう図太いところも買ってるよ。だから、改めてお願いしたい。どうか、国を正すために、僕に力を貸してほしい」
「断ったらどうなります? 下女の仕事はクビで追放ですか? それとも別の新しい罪を被せて抹殺されちゃったりします?」
「はは、まさか! 断られたのならしかたない。味方につけられなかった僕の力不足だからね。今までと変わらず仕事をしてもらうよ。
だけども僕は本当に君を気に入ったんだ。だから力を貸してもらえるように、君に恋する一人の男としてアプローチを続けるよ」
「えー……うざっ」
「うざいって言った?」
「とんでもない。光栄です」
ついつい本音がこぼれちゃった。てへぺろ。
それはそれとして。演技とはいってもアルフにずっと付きまとわれるのはメンドクサイし、告白されるたびに他のご貴族令嬢方ににらまれ、下女仲間たちの噂話のネタになり続けるわけで。うん、受け入れても断っても結局あんま変わんないね。なら。
「オーケー。アルフに協力するよ」
考え込んだ末に私は了承の意を伝える。するとアルフは大きく安堵のため息を漏らした。
「良かった。本音を言うと、断らないでくれって祈ってたんだ」
「断っても断らなくてもあんまり変わらない気がしたからね。どうせアルフが近寄ってきたらこれまでどおり塩対応してればいいんでしょ?」
「一応聞くけど……素っ気なくするのは演技なんだよね?」
「さあ、どうでしょう?」
小悪魔な女性っぽく笑ってやると、アルフは「相手選びを失敗したかな……」とため息混じりに笑った。ま、こうやってアルフをからかうのは楽しいし、長い人生、こんな時間があるのも悪くない。
こうして、私とアルフの正式な協力関係が結ばれたのだった。
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