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魔王の儀式 ~ギルドで副業してる皇城の下女ですが、突然第三皇子から告白されました。そして断りました~  作者: しんとうさとる
第1部 皇城の下女兼ギルドのお仕事

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5-2 にこやかに笑う私と目が合った




 一足先に自室に戻っていたアルフは、着替えを終えてコーヒーを堪能していた。

 仕事をほっぽり出した挙げ句、顔面がボコボコになって帰ってきたことでジェフリーから小言を頂戴したがそれを聞き流し、頭の中でリナルタの舞う姿を反芻して一人ニヤニヤと笑う。

 そんな主に、ジェフリーは「いよいよ頭がいかれたか」と失礼な感想を吐いて部屋を出ていく。だがすぐに慌てて戻ってきた彼の報告に、アルフは思わず拳を叩きつけた。


「リナルタが逮捕された、だと……! 本当なのか、ジェフリー!」

「はい。城内中で噂されています。おそらくは間違いないかと」

「罪状は? 彼女がいったい何をしたと言うんだ?」

「それが……宝物庫と貴婦人方からの宝石窃盗、それに国庫の窃取だそうです」


 それを聞いてアルフの頭には疑問符ばかりが浮かんだ。

 これまで彼は数々のアプローチをリナルタにしてきた。その中には当然高級な宝石やドレスなどの金銭的な攻勢も含まれている。だがいずれにも彼女は一切の関心を示さなかったし、金品でのアプローチを毛嫌いさえしていた。

 そんな彼女が金品を盗んだ? 冗談にも程がある。アルフはギリ、と奥歯を噛み締めた。


「アルフレッド様に言われて私も彼女の様子を観察してみました。主観的な印象ではありますが、彼女は見た目に反して思慮深く、そのような愚行を犯すようには思えません」

「当たり前だ。彼女がそんな性格ならとっくに僕だって見切っている」


 つまり、彼女はハメられたということ。そしてそれが示す結論は一つだ。

 この国に巣食う病巣。腐敗した皇族や貴族。それらを正すためアルフは密かに動き続けてきた。これは、そうした動きが不快な連中からの「警告」だ。アルフはそう受け取った。


「殿下が動いていると確信までは持たれていないとは思いますが……」

「疑われてはいる、か……何にせよ、連中にとって僕らの行動は相当に邪魔なようだね」

「手を引きますか?」

「一旦は、ね。不本意だけど」


 しばらくは大人しくするが、いずれ相手の警戒も緩む。その頃に再び動き始めよう。


(これが……)


 リナルタに出会った当初であれば、彼女をこのまま切り捨てて不正調査を進める、なんて事も選択肢としてあり得た。だが、今のアルフにとってそんな選択肢はありえなかった。


「それにこれは好機だ。わざわざ相手から動いてくれたんだ。何かしら向こうに繋がる証拠だってあるはず。それを何とか見つけよう。それが彼女への疑いを晴らすことにもなる」


 ジェフリーが指示を受けて部屋を後にし、アルフは一人残された部屋で天井を見上げた。


(リナルタ……)


 胸の内で彼女の名をつぶやく。果たして彼女は今どんな気持ちで、牢屋で過ごしているだろう。想像するだけでアルフは胸の疼痛を覚え、うなだれた。彼女は、自分が城内で動きやすくなるための手駒のつもりだったのに、どうしてだか想うだけで胸が苦しい。


(早く……助け出してあげなければ)


 迷惑を掛けてしまった以上、それが今の僕の責務だ。ため息とともに不安を胸の奥深くに押し込め、アルフは深く思考の海へと埋没していったのだった。




 目をパッと私は開くと、いかにも寒々しい石造りの天井が目に入った。ああ、そういえば逮捕されて牢屋にぶち込まれてたんだっけ。

 体を起こして伸びをしたら背骨が「ボキボキボキィッ!」とすんごい音を立てたけど、気分は快調。粗末なベッドでも野ざらしに比べればずいぶん快適な部類だし、思ったより熟睡できたね。この頑丈な体に感謝感謝だよ。


「んじゃ行くとしますか」


 「フンッ!」と少し力を入れたらあら不思議、硬いはずの鉄格子がグニャリと飴細工みたいに曲がっちゃった。いやぁ、不思議なこともあるもんだね。

 隙間からスルリと抜け出ると、地下牢入口のドアに耳をつけて門番さんの気配を探る。どうやらまだ起きてるらしい。うん、今日の門番さんは仕事熱心だね。


「よっと」


 指先でゴリッと壁の一部をもぎ取る。それを鉄格子に投げつければ、「カァンッ!」と小気味いい音を奏でてくれる。当然それは真面目な門番さんの耳に届くわけで。


「おい! 今の音は何の音だ――」

「はーい、おやすみなさーい」


 壁際で息を潜めて、飛び込んできた門番さんの頭を「ごきっ!」とちょーっとだけ不自然な方向に向けてあげると、バタンと倒れた。ゴメンね、このまんま朝まで寝といてね。

 門番さんを椅子に座らせると地下を脱出して、いつも仕事で使ってる通路に出る。

 物音はまったくなくて、城内は真っ暗。良かった、ちゃんと夜中に起きれたみたいだ。

 近くの階段を上って、使用人たちの部屋があるフロアを、足音を殺して進む。下女の仕事は激務だし、関係ない人たちは起こさないようにしないとね。


「えっとぉ、確かあの二人は……」


 同じ部屋だったはず。各部屋の入口に掛けられてるプレートを眺めていけば目的の部屋にあっという間にとうちゃーく。

 ヘアピンを髪から外して鍵穴に差しててきとーに動かせばカチャリと音が鳴って、あっさりと扉は開いた。下女の部屋の鍵なんてこんなもん。ここらへんはちょっと年季の入った下女なら誰だって使える「技」だ。だから私の部屋にしたみたいに、忍び込もうと思えば誰だって入り込み放題ってわけ。


「……気持ちよさそうに寝てること」


 私が侵入したのは――フリーダとハンナの部屋だ。ベッドから揃いも揃って幸せそうな寝息が聞こえてくる。下級下女の時代からリズベット様に同調して散々嫌がらせしてたから期待してなかったけど、人を貶めといて健やかに寝てられるってどんな神経してんだろ。

 消してた気配を醸し出し、寝てるフリーダにまたがって寝顔を覗き込む。するとさすがに寝苦しさを覚えたのか、彼女がもぞもぞし始めた。

 そして彼女の目がゆっくり開いた瞬間、にこやかに笑う私と目が合った。





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