表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

綻び2

 博音学会 宿舎にて


 数々のロストプラグインやロストサウンドが飾られたとある一室。あれから数日が経った。プラグインたちに囲まれるようにして在る赤い宝玉を見てテルムは呟いた。

「どうしてこれがループ区域に……」

 宝玉に触れると静電気に襲われたかのような衝撃と同時に座標が流れ込んでくる。

「うっ」

 持病の痺れで動きにラグが起きた。まるで何かを訴えかけているかのようだ。

 座標はまさにこの施設を指している。幾ばくかの恐怖に勝る探究心が行かないという選択肢を消した。

 宿舎から出て別館施設の中の物置にたどり着いた。灰色を基調とした空間であり、向かいの壁には研究資材の箱がぎっしりと積まれている。物置というにはあまりにも整頓されていた。

 送られてきた座標と数ミリ単位で位置が揃った。あとは高さだけだが、ここから真下に何かあったという記憶はない。

「曲がりなりにも会長の娘なのに、把握していない部屋があるなんて」

 座標へ続く道を知らない。壁でも壊せば良いのだろうか。そう思い音を出してみて初めて気付く。

「音が出ない、どうして」

 何度も同じ動作を繰り返した。

「出力は感じるのに。あれ、この感じ」

 それは先日経験した出力感、可聴域外で不思議な感覚。

「私の音、超音波のままになってる……ソルに擬似プラグインの不具合報告をしないと」

 しかしそのバグが功を成したか、持っていたアナライザーが妙な音の捉え方をした。一部音域のみ帰ってくるのが早い、そんな波の動きを見せている。つまりはこの平らな壁のどこか、目に見えない凹凸があるということだ。おおよそ予測して壁を触ってみると何かの取っ手があることに気がついた。ガチャリ、開かれた扉の先には昇降機があった。恐る恐る乗り込みB115のみ書かれたボタンを押すと、波形認証システムが作動した。簡単には行かせてくれないことに秘匿性を感じる。今日は、ここまでだ。何しろ今の波形は超音波できっとこのシステムに弾かれてしまう。ただ一つ……

「私の知らない、父さんの管轄の隠し部屋」

 禁じ手ではないだろうか。あの人は肉親を駒として見る傾向がある。モーグが以降父と会ってしまえば音割れ病にて歪に形成されるマスクの形状からすぐに事情を察するだろう。そして、研究対象としてみなす。そんな父の隠し部屋だ。システムの前でしばらく佇み、モーグの元へ行くことにした。こういったことがあった時、一人で考えてはいけない。恐怖、探究心、思想が邪魔をしてしまう。ただしあの宝玉、あれだけは。

 あれをモーグに見せても良いの?モーグは、今の私を信じてくれるのだろうか。

 そう迷っていると、モーグがから通信が入った。

「姉さん、今どこにいる?」

「あ、えっと別館だよ。モーグはどこ?そっちに行くよ」

「不可逆構造空間が出現したんだ。来てくれるなら助かる。今から座標を送るよ」

 不可逆構造空間は都市の記憶に基づく地続きの異世界だ。自身のマスクの設定を可逆状態にしておかないと、異世界の理から解放されない、要は異世界の生態に書き換えられて元の世界に適応できなくなってしまう。そこはただ不思議なだけの空間ではなく、そこで生成されている物にも可逆の設定を挿入すると元の世界へ持ち帰ることができる。

「不可逆構造空間か。多分イリバーシブルも来るよね……」

 厄介なことが起きそうだと座標を目指して歩きながら思っていたが、その嫌な予感が的中してしまった。


 座標位置は切り断たれた広い道だ。周囲に隣接した壁面は存在せず、遥か遠くに建物の壁がうっすらと見えているだけであり、足を滑らせると奈落の底に落ちてしまう。その道の先にある赤々とした異世界の前でなにやら言い争っているような人影があった。一人はモーグで、言い争うというよりもモーグがM型から一方的に責められているようにも見える。

「あなた方学会にここを預けると碌なことにならない!荒らすだけ荒らして保全は皆無だ、株式会社イリバーシブルは共同調査の権利を主張する!」

「私に主張されても困ります。ここを先に見つけたのは学会です。学会の事務局に連絡を入れてもらって、手続きを踏んでください」

 学会は不可逆構造空間において記録を心がけているため「証拠は」という文句は通じない。

「……それだけじゃない、感染者のあなたにここを汚されては困る」

 いつものことかと歩いて近付いていたが、モーグにぶつけた心ない言葉を聞いて怒りがこみ上げて来た。

「株式会社イリバーシブルの社員の方々は皆このように心ない言葉を人に向けるのでしょうか?」

「ね、姉さん」

「先ほどの発言は感染者への差別であり、いつあなたに降りかかってくるか分からないことでもあるんです。現にそちらの社員の方で我々学会の治療を受けたものもいます。謝罪を要求します」

 私情で怒っては立場が悪くなる。何とか濁らせて言い争いに参戦した。彼は負けじと反論する。

「しかし彼が感染者であることは事実です。感染者による被害が視覚化されていない以上、この貴重な場所を踏み荒らされては困る」

「であれど学会がこの不可逆構造空間を最初に見つけたことに変わりはありません。正当な手続きをお願いします」

「……その間に感染者がここへ踏み入らないよう――」

「黙って聞いてりゃ何だよ今の。同じ種族同士でも粗を探して攻撃すんのか?そりゃ差別主義者が生まれるわけだよ」

 そろそろ怒りが爆発しそうだと思っていたその時、背後から聞き慣れた声がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ