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落し物3

音響浮遊、音によってまるで物が浮いているかのように制御出来る方法だ。物体の間を音が補完する。方法は簡単だ。色々と条件があるが超音波を作り出して波の谷部分に物体を挿し込むことで可能だ。

「いや待って、でも普通の音域じゃだめだけども」

「いいやいける。俺が開発した疑似モデリングプラグインでなんとかなる」

 尾椎に収納していた黒く平らな四角の疑似プラグインを取り出して見せる。

「開発しただって?」

「実機なのが玉に瑕だけどな。で、二人ともどの方法なら現実的だ?」

「う〜ん……定在波(定常波)音響浮遊かな。ここと、ここから右斜め上の層の、あの階段!」

 テルムは特定位置を指さしてポジションを指定した。

「時間がねぇし、さっさとやるぞ。音域は俺がテコ入れする」

 疑似プラグインを起動させて、二人の出す音を40kHzのみに調節した。

「なんだか不思議な感じだ……」

「超音波だもんね」

「よしテルム、あんたは向かいの層から階段を登って作戦のポイントまで行ってくれ」

「了解、行ってくるね」

 モーグとテルムが位置についてお互いを見合わす。場所はサイクルポイントを挟んで、ゆらゆらと進みゆくプラグインより先の場所ならどこでもいい。とにかくテルムとモーグの位置を直線に結ぶことが出来れば十分。

「揃ったか?合図をしたらお互い音を出せ」

 定位置に着き、二人とも腕を互いに向け合う。

「ファイヤ!」

 掛け声と同時に二人が超音波を結び合わせた。アナライザーで波形を見ると、二人の波形が重なり合って長い鎖のような形を作り出していた。

「よしそのまま。俺があんたらの定在波にゴミ挿し込むから!」

「なんだか、そのままの意味なんだけれども!嫌な例えね!例えじゃないんだけれども!」

 テルムは真剣な表情で波形を出しながら僅かに抗議した。自分たちの体内に異物を放り込まれている、そんなイメージがあるのだろうか。

「インサート」

 ゴミにプラグインの効果を適用して、予告した通り定在波に投げ入れた。サイクルポイントには遠く及ばないが、二つ、三つとゴミを投げ込んで、ゴミをゴミで押し出した。ゴミが次へ次へ、波形の谷へ飛び移る。そうして最初に投げ込んだゴミが定在波の中で移動し、徐々にサイクルポイントへと近付く。

「ソル!来ちゃうよ!」

「今だ、Ping Pong Delay」

 すると、ゴミによって押し出されたいくつかの落し物と目的のプラグインが、サイクルポイントから抜け出した上でテルムに近い定在波の谷で留まった。それを見て二人はつい気を抜きそうになっている。

「まだ気を抜くな。テルム!そのまま階段を降りて橋の手前で止まれ!」

 指示通り波形を保持したまま移動し始めた。

「よし、ゆっくり橋の上に置くんだ」

「もう音を止めても大丈夫か?」

「もういい。よくやったな」

 モーグは今まで隠していた疲れを露わにして腕を下ろした。感染者であるモーグは綺麗な波形を出し続けることに対して非常に体力を消耗しただろう。正直なところモーグがどれだけ耐えられるかによってこの作戦が成功するか否かが決まると思っていた。初めて会ったあの時俺と自分自身を見捨てようとしただけはあるなと、素直にその根性を認めた。

「頑張ったねモーグ!これでもう大丈夫よ。ありがとうね、ソル」

「ソル……君にも姉さんにも迷惑をかけてすまなかった」

「謝罪は最初に聞いた」

 テルムがモーグの背中にそっと手を添えて労りつつ、視界に入った物を見て驚く。

「ちょっと待って、これ」

 落し物と一緒に拾った物の中に"MONARK(モナーク)"と書かれてある黒く丸みを帯びた物体が転がっていた。これはバーチャル合成音タイプのロストプラグインだ。アディサリが装備して真価を発揮する遺物のようなものであり、俺には扱えない。だがテルムはどうやらもう一つの"美しい落し物"を見て固まっていた。赤色の宝玉が黒い四角の土台の上に乗り、土台から生えている黒い帯や突起にがっしりとつかまれている。これがロストサウンドならさぞ綺麗な音が出るのだろう。

「えらいもん拾っちまったな」

「あ、そうね、こんなものが手に入るなんて、宝物よね」

 テルムはすぐさまMONARKへ視線を移す。

「どっちかと言うと兵器だね」

 モーグが興味深くMONARKをいじっている間、テルムは例の宝玉を手にとっていた。

「それ、どうすんだよ」

「……せっかくだから飾ろうと思って」

「まあ綺麗だもんな」

「そ、そう?」

「……?」

 綺麗だから持ち帰ろうとしたのでは無いのか?

 テルムはまるで意図していなかった言葉が聞けたと言わんばかりの顔をしながらいそいそと宝玉を学会支給の黒く硬いケースに収納した。


 プラグインは無事回収できおまけの品まで手に入ったのだ、たまには俺も何かを落として見てもいいかもしれない。

「ソル、助かった。君がいなかったらプラグインは回収できなかったよ」

 その目元からモーグのポーカーフェイスが少し崩れていることがマスク越しにでもわかる。

「今回の依頼料は戻り次第あなたのスタックに入れておくから、コードを送ってくれない?」

「……取引だ」

「え?」

「今回の報酬として音を少し分けて欲しい。金はいらない」

「……ソルになら良いんだけれども、またどうして?」

「安心しな、悪用はしねぇ。自衛のためだ」


 某スラムの路地裏にて

 

 コツコツと硬質な足音が響いている。配管とケーブルがウネウネと波打つ人1人が歩けるほどのトンネル。ライトの光だけが足元を照らすこの道にわざわざ来たのには理由があった。

「はぁ……。静かだな(うるさいな)

 反響定位を行った。先程受け取った音を使ってプラグインから超音波を発して周囲の物体を捉える。

 所謂エコーであり″検知器″だ。

 素知らぬ顔をしながら来た道をもどり、足を進め、


 目に見えぬ追跡者の顔面を思い切りぶん殴った。

 

「……さっきから、いや随分前からずっと煩わしかったんだよお前」

 あまりの怒りに声が震える。

「あれ…なんでバレたんだ?」

 胸ぐらを掴まれたM型は素っ頓狂になりながら自らの失態を少し笑う。

「存在だけは把握してたんだよ、俺のコンソールがそのちいっせぇ音を把握してた。けど場所までは捉えられなかった。ああクソずっとイライラしてたんだ、さっきも、この前も、俺をアディスフォリッジに売りやがった時も!」

 M型は無言のまま不敵な笑みを浮かべている。

「あの四年分の負荷おかげで俺の記憶領域が所々破損してんだよ!お前、今この場で分解(バラ)されても文句言えねぇぜ、なあ」


「ゴーストノート」

補足


1600Hzをブーストした特定の波形

 ラウドネス曲線というものが存在します。

 我々人間の耳にとってどの音域が聴こえやすく、聴こえにくいかというものを視覚的に表してくれている曲線です。

 調べてもらうことを前提にお話しますが、1600Hz地点で少し山型になっているかと思います。この山になっている点が人間にとって少し聴こえにくい、耳が敏感ではない点です。

 なのでこの1600Hzを少しEQなどで押し上げたりします。

 逆に言うと2000から4000辺りは耳が敏感な音域なので、上げすぎると耳が痛くなります。黒板をキーーとすると耳が気持ち悪くなるのは、その音域が丁度耳にとって敏感な音域であるからです。

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