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劣化ロストサウンド

 アディスフォリッジ

 やつらがスラムを牛耳って数十年が経つ。スラムそのものが巨大であるせいか、組織も随分と大きな存在となった。身内に甘く囁き外部に対して無関心、つまり外部を気にせず組織のやりたいことをやる、例えそれがスラム外にとんでもない影響を及ぼすとしてもだ。学会は過去に一度アディスフォリッジと共同で何かしらのプロジェクトを進めていたことがあったが、それはある日突然崩壊したのだという。テルムやモーグとは全く別の管轄であったために、彼らは事の顛末を詳しくは知らない。どれだけ調べても、塵一つ残さぬ程に徹底されていたそうだ。ただアディスフォリッジとは決別したのだという事実のみがそこには存在した。

 やつらについて知っていることと言えば、スラムに潜んでいるということ、独自の自警団を持っていること結成していること、目的のためなら手段を選ばないということ。これがテルムとモーグの見解だ。

「ま、俺の知ってる内容とほとんど同じだな。ただ学会があいつらと手を組んでたってのは初耳だ。崩壊したって話もな」

 2人に廃棄物を漁るのを手伝ってもらっている最中にアディスフォリッジに関する話をして、ついでやつらに狙われていると言うと2人は大層驚いていた。迎え撃つのだから、より迎撃素材の発掘に力を入れている。少し遠くでは不可逆構造空間が異質な色と風を漂わせていた。

「正直、不気味だよね」

「俺もずっと不思議に思ってる。他の研究員に聞いても誰一人として知ってる者はいないんだ。でももう風化し始めていると思う」 

 モーグが言い終えた後、ゴーストノートの言っていた言葉をふと思い出したため2人に問うてみた。

「それさ、学会であった粛清と関係あんのかよ」

「粛清!?そんな事件聞いたことないよ。でも学会の風通しは……かなり悪いから、私が知らないだけかもしれない」

 この波形の揺れから彼女が嘘をついていないことが分かる。

「学会の風通しか。想像に難くねぇな。なんかでかい事件はとかおきてねぇのか?」

「粛清かは知らないけど、一時的に大規模な停電が起こったことはある。ソル、こんなのはどうだ?」

 モーグは廃棄物群から網状のものを取り出して見せてきた。

「それじゃ厳しいな。もっと網目の細かいやつを探してくれ」

「分かった」

「あっモーグ、その奥にあるのはどうなの?」

「これか……」

「ああ、それいいじゃねぇか」

 モーグから細かい網目状の金属板を受け取った。それにイコライザーで穴を開けたりボルトやナットでとあるものを作った。ざっと10分ほどかかっただろうか。

「よし、完成した」

「すごい!開閉式になってる。ねぇ、そろそろ何に使うのか教えてもらえない?始めは音を摩擦で弱らせるためかと思ったけど、アディスフォリッジは精鋭ぞろいって聞くし、この厚い網だけじゃ防げないと思うのだけど」

「音は俺の力でどうにかできる。問題はそこじゃねぇよ。見たほうが早い。今からアディスフォリッジをおびき寄せる。大人数ならまあ、リトライだな。少人数できたら実行する。俺が合図を出したらアディスフォリッジのやつらに向かって音を出力してほしい」

 開閉動作の確認をしながら言うと、どうもテルムが何かを言いにくそうにしている。

「どうしたんだよ」

「実は……私の音、超音波から治ってなくて」

「あっ俺もそうなんだ」

「あっじゃねぇよ早く言えよ」

 音の変化が声に反映されないように設計したが、それが裏目に出たようだ。

「言い出すタイミングが無くって」

「まあそれもそうか。次何か作る時は不具合のレポートを自動で送れるように設計する」

 作りたいものは疑似プラグインだけではない。他にもっと快適なユニットやらモジュールやら、色々あるのだと言いながら2人の音を元に戻した。

「ありがとうソル。それにしても凄いね。ソルって何でも作れちゃうんだね」

「作らなきゃ俺の文明が進まねぇからな」

 アディサリとコンソルジャーは規格が違う。同じ知的生命体ではあるが、音があるか無いか、尾骨を進化させているかそうでないか、音割れ病にかかるか否か等といった違いが多々ある。故に今や多数派となったアディサリに合うものは様々あって、俺に合わない物は多い。大多数がたったの数名に合わせられるほどユニバーサルなやつは残念ながらこの世界には少ないだろうし、それはもう仕方がない。当たり前のことだと思いながら言ったがテルムとモーグは少しバツが悪そうにした。

「ヤメロそれ、あんたらが俺の種族のほとんどを滅ぼしたわけじゃねぇんだよ。気にしすぎたらどのやり取りも進まねぇだろ」

 そう言うと、テルムは優しく仄かに微笑んだ。

「そうだよね。言いたいことを言い合って、怒ったり笑ったりして……」

 テルムの言葉を聞いてモーグがハッとする。

「なんだかそれって仲間みたいだ」

「なっ……よくそんな恥ずかしいこと言えんな」

「恥ずかしいことなのか?」

「全然!個人差があるんだよ。いいじゃない、仲間」

 過度な気遣いの居心地が悪いと思って放った言葉だったが、気の置けない存在と捉えることもできた。恥ずかしいなどと言っておきながら今脳内では地震が起きていた。"仲間"なんて、はるか昔に忘れた概念だったのだ。

 とっさに否定寄りの言葉を発してしまったが、モーグはいたって真面目に言っているらしい。この姉にしてこの弟、この姉弟はどうも人たらしの質がある。

 軽く深呼吸をしてゴーストノートに座標を伝えた。

この三人、頻繁にゴミと対面しているな

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