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第8話 休日はやはり突然に終わりを告げて

初レビューにてシリーズ化してほしいという嬉しいお声がありまして、これはやるしかないだろということで、もう少し続きます!


 白いカーテンから漏れてくる朝日に優しく起こされる。


「ふぁ……ぁ……9時ですか、ようやくしっかり睡眠が摂れた気がしますね……」


 うんと身体を伸ばし、ベッドから立ち上がる。

 死を引っ張るという魔眼を持つ令嬢――アリステリアの事後処理やらなにやらで後回しになっていた休日、今日はその3日目。

 よく寝れはしたがまだまだ寝足りないらしい顔に冷水をぶつけ、ふかふかのタオルで労る。

 《ヴァラシエル家政》のメイドはほとんどが寮生活をしていて、依頼がない時などはそこで生活をしているけど、私は稼いだお金で小さいがログハウスを購入した。

 私が大金を使ったのはこの家くらいだ。


 キッチンに向かい、ヤカンを置くと【綺麗な雪解け水を出す魔法】でヤカンに水を入れて、さらに魔法で小さな火を作る。

 その火を魔力操作でゆっくりと大きくしていき、ちょうどいい感じになったらそこで維持。

 薪を買うお金を節約できるので、私はいつも魔法で料理をしている。


「おっと……少し強すぎましたか」


 寝起きだとどうしても火加減を間違えてしまうけど、おかげでお湯はすぐ沸騰した。

 寝ぼけた頭を起こすためにも、先月派遣に行ったロスティフ邸で依頼主のキリオス卿からいただいたお礼のコーヒーを淹れる。


「――はぁ……いい香り。さすがに良いものを飲んでいますね」


 白いカップに注いだコーヒーはしっかりと黒く、朝日の光をゆらりと浮かべていた。

 味は……うん、とても良い。

 酸味はひかえめ、コクがあり、寝ぼけた頭も冴えてくる。

 休日の朝にはやはりこれですね……。


「そうだ。スコーンが余っていたはず……それで朝食にしますか」


 なんと優雅な朝だろう。

 小鳥はさえずり、花は咲き誇っている。

 こんないい日には趣味のボトルシップでも作って……


『あーあー。聞こえるかいテレジア。あたしだよ』


 優雅な朝は終わりを告げる。

 聞き慣れたしゃがれ声、唐突な通信魔法。

 もしかしなくても、クソババ……シルヴァだ。


「なんですか。まだ休みは1日残っているはずですが」


 私は声のトーンを落として威嚇する。

 が、当の本人は気にすることなく話を続けた。


『悪いがすぐ来てくれ。緊急の要件だ』

「また緊急ですか……」

『アリステリアの引渡し日がようやく決まってね。今日だとさ』

「それはまた急ですね。で、必要ですか? 私」

『そりゃ必要だ。あんたに与える報酬としてアリステリアの身柄をこちらで預かることにしたんだ。それに、あの令嬢を抑え込めるのはあんたくらいしか居ないだろう? もう令嬢ではないかもしれないが』

「はあ……まぁ仕方ないですね。わかりました。すぐ向かいます」

『ああ、魔法協会で待っているよ』


 通信魔法を終え、私は大きなため息を吐いてコーヒーを飲み干した。

 スコーンとの相性診断はまた今度だ。



  ■■■



 マグナルカス魔法協会は、私の家やヴァラシエルから魔導列車で西側へ、三駅過ぎた先の《王都》にある。

 城より高い赤屋根の塔には第三級以上の魔法使い達が大勢居て、日夜研究に勤しんでいるそうだ。

 が、私は塔の上には興味がない。

 向かうのは地下にある《魔獄》――。

 魔法を用いて罪を犯した罪人達は全て魔法協会の地下に収容される。

 つまるところ、魔法犯罪専用の刑務所だ。

 アリステリアは魔眼の危険度から、ここの最下層に収容されていた。


「おい、来たぞ」

「あれが例の……? ただのメイドじゃないか。魔力も感じない」

「本当に深海色の魔眼を出していいのか?」


 魔獄の看守達は紺色の帽子を深く被り、隠した視線でこちらをジロジロと見てくる。

 それらの声を無視して、私はシルヴァが待つ客室へ向かった。


「遅かったじゃないか」


 扉を開けた途端、シルヴァの声が聞こえてくる。

 扉を開けるのが私ではなく看守かもしれないのに、よくわかったものだ。

 中に入れば、「やっぱりあんただった」となんでもお見通しの薄青い瞳がメガネ越しに向けられる。


「これでも急いできたつもりですよ。……なんですかこの有様は」


 私は客室の床に突っ伏している看守達を一瞥(いちべつ)する。

 皆、酷く疲れているようだった。


「なぁに、あんたが来るまで酷く暇だったものだからチェスで遊んでいただけさ。まるで相手にならなかったが、それなりに楽しめたよ。無双感と言うのかな」

「それは良かったですね」

「だが飽きた。やはり手応えのある奴と()りたいものだ。今度、一戦どうだい?」

「そうですね。私が休みの日ならいいですよ」

「ふむ。先になりそうだね」


 先にしないでもらいたい。


「――コホン。雑談はそれくらいにしてもらおうか」


 扉の方で咳払いが聞こえ、振り返る。

 そこには周りの看守より手の込んでいそうな厚手のコートを着た男が立っていた。

 恐らく、彼が看守長だ。


「深海色の魔眼の移送届を受理した。目は封じているが、彼女がどんな行動をするか予測できない。共に来てもらおう」

「まさか、目を潰していたりはしませんよね」

「そうしたいのは山々だが、目を見れば死ぬとなればそう簡単にはいかない。潰して膨大な魔力が噴き出せば二次被害も考えられる。扱いも慎重にならざるを得ない」

「そうですか」


 さすがに目が見えないとなると、メイドの仕事をしろは酷な話だ。

 目を移植するドナーも、そう簡単に見つかるものではない。

 私は密かに胸を撫で下ろし、看守長の案内でシルヴァと共に魔獄最下層へ向かう。


 ――冷たい石の階段、僅かな光源は古いランタンの明かりのみ。

 空間の魔力が(よど)んだ最下層。

 その一角にアリステリアが囚われた牢がある。


「アリステリア」


 そう声を掛けると、拘束衣に身を包んだアリステリアがピクリと反応した。

 看守達が言っていた《深海色の魔眼》は、革の眼帯で閉ざされている。


「テレジア・ケルス……いったい、何をしに来たのかしら」


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