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最強派遣メイドさんVS魔法事件 ~ご安心ください。私、魔法はちょっと得意ですので~  作者: ゆーしゃエホーマキ
第2章 瞳を閉じる眼を開く

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第19話 デストラクション・デトレーゼ


 ――歪な羽を形成する不死蝶を睨みつける。


「テオ様、あとアリス。血をいただけますか」

「あら、わたくしもなの? ……あと舐めすぎじゃありません?」


 快く指を切って血を舐めさせてくれるテオ様と違って、アリスは嫌そうだ。

 ついさっきあなたがしゃぶっていた指を私が舐めて上書きしていることがそんなに嫌なのだろうか。


「あの害虫にはとびきりキツいのをくれてやりませんと、私の気は収まりませんので」

「そう。まぁいいけど」


 アリスは手のひらを傷付けると、拳を作って果汁でも搾るかのように血を滴らせる。


「ドリンクサーバーかなにかですか」

「女に舐められても嬉しくありませんわ」

「そうですか。まぁ、ありがたく頂戴します」


 アリスの手から流れ落ちてくる赤い血を、舌で受け止めごくりと飲み込む。

 テオ様の氷属性因子を含む血と、アリスの土属性因子を含む血。

 この二つで血醒魔法を発動させる。


「しかし、あの蝶……寄生せずとも飛べるのですね。あれほどダメージを与えたのに優雅に飛んでみせるとは、流石に不死と呼ぶだけありますわ」

「街中の魔力を吸収していたから、しばらくの間なら単独でも生きていけるのかもしれない……テレジア、気をつけて」

「ご忠告ありがとうございます、テオ様。ですがどうかご安心を」


 列車を走らせ街を離れたことで空間魔力も回収でき、さらに温存していた体内魔力も消費する。


「――刹那のうちに終わります」


 魔力を集束させると、不死蝶はその魔力に反応してこちらで一直線に飛んでくる。

 逃げられないようにするためだろう、伸ばした触手で私を囲い込んできた。


「【雷霆で悉くを(デストラクション)殛す魔法(・デトレーゼ)】」


 囲われようが関係ない。

 刹那轟くのは、超高電圧、超高熱を携えた()()()()

 突き出される一閃の赤雷は、周囲に迸る細かな稲妻で触手を穿ち、不死蝶の羽を塵とする。

 列車の天板は金属だけど、私達が感電しないようそこは魔力操作で調整している。

 赤雷槍本体は不死蝶の憎き目玉に突き刺さると、全身を百雷で焼き始めた。


「〝属性反転〟――――」


 魔力操作により、赤雷を氷と鉄に変換。

 全身が感電した不死蝶の身体は、内側から身を裂くように現れた氷と鉄によってバラバラに破け散る。

 魔物は死ねば魔力の残滓となって消滅する。

 後に残るのは、氷塊と鉄塊が混じり合った刺々しい大結晶だけだ。


「……っ」


 突然頭がぐらりと揺れ、足元がフラつく。


「ちょっ、と――!! あ、危な……しっかりしなさい、ここ列車の上ですわよ!」

「ありがとうアリス……少し無茶をしすぎたようです」

「……しすぎよ。あなたの属性反転魔法、これで見るのは二度目だけど……まさか魔法ですらないなんてね」

「魔法にも及ばない……単純な魔力操作ですよ」

「言うは易しというやつですわ。あの雷魔法もわたくし達に感電しないよう操作していましたし……あなたはとことん精密動作に長けているようですわね」


 私が本当に得意としているのは、属性魔法ではない。

 正確には魔法使いが当然に行える『魔力操作』――。

 もう二度と人を燃死させたくないがために、温度調節と言う名の魔力操作を極めた。


「契約魔法の解除、不規則に稲妻を迸らせる赤雷の制御、血に含まれる属性因子を元に行う属性反転――それら全てが単純な魔力操作……だが、テレジアほど魔力操作が上手い人間はそう居ない。あたしの自慢、ヴァラシエルのトップメイドだよ」


 さも自分のことのように自慢げなシルヴァは、魔導列車の操縦をしながら微笑んだ。


「さあ、このまま隣町までしばしの小旅行だ。あんた達、さっさと席に着きな」



  ■■■



 ――隣町に着くと、通信魔法を受けて待機していた騎士達があっけらかんとしていた。

 それもそのはず、散々先輩騎士から聞かされていただろう最悪な事件の元凶である《不死蝶》が現れ、身構えていたところに無傷の被害者が列車から降りてきたのだから。


 シルヴァが騎士達へ事の経緯を説明している間に、私達は最寄りの病院へセシリアを連れていき、エルドルドが状態を確認した。

 ……と言うのも、セシリアは一人で列車を降りたのだ。

 段差があるから目が無いセシリアにそんなことはできるはずがない。


「……目が……ある」


 見間違いかと思われたセシリアの目は、まさかの正常。

 ちゃんと人間の目をしていて、私と同じ、明るい金色の目だ。


「嘘だろ……完璧に治ってる。契約を解除して不死蝶の再生能力だけが残ったのか……?」

「セシリアは大丈夫なんですか?」

「大丈夫……ではある。恐らく不死蝶がボクの治癒魔法の魔力を吸収したことで、セシリアが治癒の因子を得たんだ。それで再生能力が劇的に向上……失われた目は新たに生成された……ってことだと思う」

「ということは……わたし、もしかして魔法使いになれるの?」

「そうだね……元々適性はなかったはずけど、治癒因子と不死蝶の再生能力が目に宿ってる。治癒魔法だけならボクと同等の魔法を使えると思うよ」

「まあ! じゃあ、じゃあ……! テレジアのお手伝いもできるのかしら!」

「ま、待ってセシリア、これが良い事とは限らない。不死蝶の再生能力が転移したってことは、セシリアが本来持ってる性質が変化しているということ……これも一種の魔蝕症と言えるはず……」


 そんな都合のいいことが起きるだろうか。

 セシリアの目は戻ってきたけど、それは言い換えれば魔物の力で生まれた《再生力の魔眼》と言える。

 もし、もし不死蝶がセシリアの体内に卵を植え付けていたら……再生力の魔眼は仇となるのでは――


「大丈夫よ、テレジア」


 思考を巡らせていた私を、セシリアはそっと抱きしめる。

 あぁ……いつもこうだ。

 ふわりとお日様の香りがして、柔らかい胸に顔を埋めると荒んだ心も否応なしに落ち着いてしまう。

 ほんと、ずるい。


「テレジアが頑張ってくれたから、わたしは何ともないのよ。少しくらいご褒美があったっていいじゃない」

「少しって……大きすぎるご褒美ですよ……ずっと目の治療費を稼いでいたのに、これじゃあお金が余ってしまいます」

「あら、それじゃあわたしのお願いを聞いてくれないかしら?」

「お願い……ですか?」


 セシリアがそんなことを言うのは初めてだった。

 いつも私のお姉ちゃんとして振る舞い、贅沢なんて言ったことなかったのに。


「イーグルス医院の子供達ね、魔蝕症のせいで捨てられてしまった子も居るの。エルドルド先生がそんな子供達を拾って、治療しててくれたんだけど……」

「あぁ……さっき看護師から連絡があって聞いたよ。不死蝶が魔力を根こそぎ吸収してくれたおかげで魔蝕が消えたらしい」

「でも、あそこは病院……治った子達は退院しないといけないわ。そしたら独りになってしまう……だからね、わたしが親代わりになろうと思うの」

「それって……まさか、孤児院を作りたいの……?」


 そう聞くと、セシリアはこくりと頷く。

 その目は力強く、昔……独りで遊んでいた私を引っ張っていってくれた目と同じだった。


「ケルス孤児院を……もう一度はじめよう、テレジア」


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