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最強派遣メイドさんVS魔法事件 ~ご安心ください。私、魔法はちょっと得意ですので~  作者: ゆーしゃエホーマキ
第2章 瞳を閉じる眼を開く

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第10話 イーグルス医院にて


 眼帯で目を隠したアリスを街に連れ出して、私達はある建物に到着する。

 扉を開くと、アリスはすんすんと匂いを嗅いだ。


「この匂い……病院?」

「えぇ。《イーグルス医院》――世にも珍しい、第二級魔法使いの資格を持つ医者が居る病院です」

「お医者様はほとんどが第三級か四級だったはずだけど、そんな人も居るのね」

「魔法使いから医者に転職したパターンで、彼はシルヴァに負けず劣らずの胡散臭(うさんくさ)さがあります」


 だけど、腕は確かだ。

 看護師に会釈した私は診察室に案内される。


「胡散臭いだなんて人聞きの悪いこと言うなぁ。ボクは君に信頼されてると思ってたのに~」

「尊敬はしていますよ。尊敬はね」


 診察室の椅子に腰掛けていたのは――少年。

 10歳にも満たないんじゃないかと思うほど小柄な少年だ。

 ただし、それは外見だけの話。

 中身は年齢不詳、私より歳上であることは確実の怪しい男だ。


「初めまして、君がアリスだね。シルヴァから聞いているよ。ボクが医院長のエルドルド・イーグルスだ。よろしくね」

「……で、この胡散臭い声の少年が何をしてくれるのかしら?」

「初対面なのに酷い言われようだ」


 エルドルドは苦笑しながら青い髪を掻く。


「まぁその反応はテレジアで慣れているけどね。ここに君が連れてこられたのは、魔眼を抑制するためさ」

「……魔眼を、抑制……? そんなことができるの?」


 さすがにアリスも驚いたようだ。


「治すことは残念ながらまだできない。……が、ボクは個人的に魔蝕症を研究していてね。魔眼の力を抑えることなら可能になった」

「そ、それは……! それが……もっと、早く……できるようになっていれば……わたくしは……っ」

「そうだね。すまない。ずっと苦しかっただろう。君と同じ、魔蝕症を抱えて産まれてきた子ども達を大勢うちで預かっているが……皆、魔法に卓越していると同時に魔力に蝕まれている。そして、人にも蝕まれる」


 ふぅ、と息を吐いて、エルドルドは天井を仰いだ。


「感染症でないことは確かめたのに、魔蝕症がもたらす性格や能力の()()は人に危害を与えかねない。魔物の脅威が薄れた今、やはり人間は力ある人間を恐れる」

「なかなか上手くはいかないものですね」

「あぁ……上手くいかないことだらけだよ。けど、話が少し逸れたが、なにも全部が上手くいなかったわけじゃない」


 彼がおもむろに取り出したのは、銀縁のメガネ。


「ようやく魔眼を抑制するレンズの開発に成功した。とはいえ、量産できないから実用段階には至っていない。でも効果は折り紙付きだよ」

「開発って、あなたお医者様ですわよね?」

「うん、第二級魔法使いの資格を持つだけのお医者さんだよ」


 そう言いながら、エルドルドはアリスの眼帯を解いた。

 銀縁のメガネを掛けてやり、「さあ、目を開いてごらん」と優しい声色で促す。


「……うそ」

「本当だとも」


 目を丸くして、視線がエルドルドと私の顔を行ったり来たり。

 その反応が嬉しいのか、エルドルドはにんまりと自慢げに笑う。

 私自身も、アリスから滲み出ていた魔力がピタリと止んだのを確認している。

 魔眼の力が完全に抑えられていた。


「気に入ってくれたかな?」


 その声に、アリスは海色(みいろ)の瞳いっぱいに涙を浮かべる。


「えぇ……っ、えぇ……! もっと早く、出会うべきだった……っ! わたくしは…………わたしは、ずっとこの力が嫌いで、憎くてっ、胸を抉るような憎悪が止められなくて……! ぁあ……」


 溢れ出す涙を懸命に手で拭おうとしても、拭ったそばからポロポロと流れて止まらないようなので、私はシルクのハンカチを彼女に渡した。


「罪人が……こんな言葉を言うべきではないのかもしれない、そんな資格はないことも、わかってる……けれど……っ!」


 ハンカチで涙を拭ったアリスは、私達に深く頭を下げるのだった。


「……っ、ありがとう……ございます……!」



  ■■■



 涙で歪んだ視界には、医師である青髪の少年が自慢げに笑っていた。

 その隣で、彼女――テレジアは表情ひとつ変えることなく、姿勢を正したままこちらを見ている。


「魔眼の件はこれで片付きましたね」


 力が抑制されたのを確認して安心したのか、テレジアはほっとしたような表情に……なった気がした。

 まったくこの人は……表情が全然わかりませんわ。

 仏頂面にもほどがあります。


 テレジアは身を翻し、長く、艶やかな茶髪をふわりとさせる。

 その時顔をこちらに向け、その明るい色の瞳を向けてきた。


「ずっと座っているつもりですか。行きますよ」

「え、えぇ……わかっていますわよ」


 本当に、何を考えているのかこれっぽっちもわからないですわね。

 わたくしが立ち上がると、テレジアは何か聞き忘れたのか声を上げる。


「エルドルド、()()()()は今どこに?」

「……あぁ、彼女なら今は中庭かな。お昼を食べ終えてゆっくりしている頃だと思うよ。ボクも行こう」

「ありがとうございます」


 テレジアはエルドルドに軽く会釈をして、共に診察室を出ていく。

 わたくしも二人の後を付いて行く。

 魔眼抑制メガネの具合は、歩いても問題なかった。



  ■■■



 病院内の庭は思っていたよりずっと広かった。

 真ん中に一本の大きな木がどっしり構え、青々とした葉が木漏れ日をつくる。

 そんな木の下に、暗いブロンドヘアーの女性が座っていた。

 風が吹き、髪がなびくと木漏れ日の光でちらちらときらめく。


「セシリア、久しぶり」


 驚いた。

 この仏頂面も笑えるんですね。

 ブロンドヘアーの女性――セシリアに声を掛けたテレジアは、小さな花でも愛でるかのように心底優しい笑顔をしていた。


「その声……テレジアね! 本当に久しぶり。ようやく会いに来てくれたのね?」


 セシリアはパッと弾けるような笑みをして立ち上がろうとする。

 彼女の傍に付いていた看護師が手を貸そうとすると、それをテレジアが代わって、セシリアをゆっくりと立たせた。


 ――セシリアには、両目に包帯が巻き付けられていた。

 少し前のわたくしと似たような姿。

 もしかして、この人も魔眼を……?

 でも、そうだとしたらどうしてここまで穏やかな顔をしていられるのだろう……。


「ごめんなさい。休日はどうしても眠くなってしまって……」

「そういうだらしないところは昔のままね」


 くすりと笑うセシリア。

 その様子に、テレジアはどこか恥ずかしそうにはにかむ。

 なんだか仲のいい姉妹を見ているかのようだ。


 ――なんてことを思っていると、セシリアはこちらに顔を向けてくる。


「他にも誰か居るの?」

「えぇ。エルドルドと、今日は職場の後輩が居るの」

「まあっ! テレジアの後輩!? はじめまして! わたしはセシリア・ケルス。テレジアのお姉ちゃんみたいなものです」


 ぺこりとお辞儀するセシリアは、ふわりと風に揺れる花のような雰囲気を纏っていた。

 その透き通った声色に、なんだかわたくしまで穏やかな気持ちになってきてしまう。


「ごきげんようセシリアさん。わたくし、アリステ……あぁいえ、アリス・シエルと言いますわ」

「顔が見えないのはちょっぴり残念だけど、とても綺麗なお声ね!」

「あ、ありがとうございます」


 こうも素直に褒められてしまうと、どうにも調子が狂ってしまいますね。


 それでも、どこか引っかかる。

 セシリア・ケルス……彼女が魔眼を持つのだとしたら、なぜ包帯程度のものに巻いただけで一片の魔力も感じないのだろうか――と。


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