この際ですので言わせて頂きますが!
何だかもやもやしたので、”すっきり”してみたくて書いてみました。
皆様にも”すっきり”して頂けたら嬉しいです。
ふわっとした設定ですので、そこはお気になさらず、さぁ~~っとお読み下さい。
さぁ~~っと、すっきりです!!
「ルティナ・シグヌム公爵令嬢、貴様の様な悪女との婚約は只今をもって、破棄する」
「・・・」
「そして私はここにいる心優しい、ミセラーテ・サテレス子爵令嬢と新たに婚約する」
「・・・」
王家主催の夜会で、決まったとばかりにドヤ顔の王太子シグニフィオ・スッテラルムは婚約者である公爵令嬢に向かって叫んでいた。
しかも、指差しながら。
その隣にはピンクブロンドの巻き毛を緩く纏め上げ、王太子の瞳と同じエメラルドの髪飾りをこれ見よがしにキラキラさせて、豊満な胸を王太子の身体にぐりぐりと寄せている子爵令嬢のミセラーテ・サテレスが、王太子の腕に腰を抱かれていた。
片や指差された公爵令嬢のルティナ・シグヌムは、淑女の鑑との評判通り毅然とし、冷ややかなアイスブルーの瞳を王太子に向けていた。
「突然の事で、流石のルティナも声が出ないだろう、既にお前の悪事は明白だ、こんなにか弱いミセラーテを虐めて、全く酷い奴だ、い・・・」
「殿下、証拠は何処にありますか?」
王太子の発言を遮って、ルティナが言葉を挟んだ。
「全く、貴様は、だから可愛げが無いのだ、今、俺が、発言している最中だと言うのに、何故、口を挟むのだ、しょ、証拠などミセラーテが俺に訴えてきたのだから、それで十分だ」
「では無いのですね、当然です、私はそんな事はしておりませんから」
王太子はさもルティナが可愛くなくて、ミセラーテが可愛いだろう、自分に相応しいだろうと、前置きをした挙句、証拠も無く、只ミセラーテが言ってきた事を鵜吞みにしただけだと、自らの迂闊さを露呈した。
そこへ、言質を取ったとばかりにルティナが念をおした。
周囲の貴族達は段々と冷やかな視線を王太子に向け始めた。
「そんな筈は無い、現に、ミセラーテは泣いて私に訴えてきたのだ」
「そうです、私はルティナ様に酷い意地悪をされました」
王太子の発言に乗り、子爵令嬢であるミセラーテも喚く。
本来なら子爵令嬢から公爵令嬢に対して許可も無く発言は出来ない。
「それは何時、何処で、どの様な事でしょうか?」
ルティナが発言する姿は、凛とした、高位貴族らしい佇まいだった。
「それは学園で私が一人で居る時に、教科書を破られたり、お茶を掛けられたり」
瞳を潤ませ、より一層、王太子に縋りつきつつ、背中にやや隠れる様にしながら顔をこちらに向けたミセラーテが叫ぶ。
「ですから、それは何月何日の学園のどの場所で誰がでしょうか?」
同じ様にルティナが問い質す。
その言い方は出来の悪い生徒に分かりやすく嚙み砕いて教える様だ。
「そ、それは・・・こ、細かい事は覚えていません、だって、とっても怖かったんですから!」
そう言うとそれ以上聞かれると都合が悪いのか、王太子の陰に隠れてしまった。
「可哀想なミセラーテ、よっぽど怖かったんだろうな、見ろ、貴様の様に冷たい悪女に言われて私の可愛いミセラーテが怯えているではないか、ミセラーテに謝罪しろ!」
王太子はミセラーテが小刻みに震えているのを、ルティナを怖がっているからだと、勝手に思い込み、庇う様に背に隠し、ルティナに圧を掛けた。
実際、ミセラーテはそんな細かい処まで嘘を用意していなかったので、言い返せなくて困っていただけだった。
「婚約破棄は承りました、しかし、してもいない事に対して謝罪は致しません」
毅然とした態度のルティナが王太子に向かって発言する。
「何だと、こんなに怯えているミセラーテが可哀想だと思わないのか、だから貴様の様に冷たい女は私に相応しくないのだ、いくら仕事が出来てもちっとも可愛げが無い女など、不要だ」
謝罪しないルティナに対して、顔を真っ赤にして怒っている王太子は、駄々をこねている子供の様に周囲の貴族の目に映っていた。
「そうですか、それではこの際ですので言わせて頂きますが」
右足を一歩前に出し、左手を腰に当て、右手を肩の高さで真っ直ぐ前に伸ばし、親指と人差し指でL字型にして人差し指を王太子の方へ向け、ビシッと指して発言を始めたルティナ。
「そもそもこの婚約は王家から公爵家へお申し出頂いた事でございます、王命として命じられたに等しい婚約の打診を公爵家が断れる筈が無いのです。それから私は王太子妃教育として、毎日、毎日休む事も無く、淑女のマナーから始まり、王家の歴史、王国の歴史、地理、貴族名鑑等、次から次へと増えて行く教科、殿下は如何程覚えておいでですか?」
「そ、そんな・・・」
ルティナからの問いに答えようとしたものの、その勢いにのまれ、しかも、自分は面倒だと逃げ回っていた勉強の話は分が悪く、答えを言い淀んでいるうちに、ルティナが話し始めた。
「学園に入る前に既に学園で教わる様な事は全て学習させられ、それからは領地経営に始まり、各領地の経済状況、貿易関係から外交問題まで留まる事無く次から次へと積み重なり、『そもそもこれは殿下の領分では?』と問えば、『殿下では荷が重いので』返されました、これは即ち殿下がさぼっていらっしゃったからではないでしょうか?」
「い・・・」
立て続けに自分の分が悪いところを責められ、言い訳を返す間も無くまた責められる。
この頃には既に、ミセラーテの腰にあった手はルティナの方へと弱弱しく伸び掛けて空を彷徨っていた。
「私が何も存じ上げないとお思いですか?当然存じ上げています、勉強をしなければならない時は剣の鍛錬がと逃げ、剣の鍛錬の時には勉強がと逃げ、それが通らなくなった時には王太子の権威を振りかざして講師や剣師を解雇しておりましたよね?そして、学園の課題は私に押し付けて出来上がったものを取り上げて提出なさっていましたわね、そんな事ですから文官達が纏めてきた資料がわからないのですよ、あれだけ丁寧に纏められたものが難しいなどと、ありえませんわ!」
「あ・・・」
「だから、文官達のそれぞれの省からの申し立てや、予算編成に必要な書類など、全ての省を見渡してそれぞれに相応しい予算配分や公共事業の順位など、組み立てて指示を出していくために、国王陛下に役立つ様な進言が何も出来ていないではないですか!」
更に一歩、ルティナが前に出る。
王太子は伸ばしていた手をだらりと下げ、体が強張り、後退りも出来なかった。
「また、国境沿いの警備においても、小競り合いなどの内に済むようにしっかりと戦略を持って、数少ない辺境伯とのお話合いに臨まないから、辺境伯からご不興を買うばかりで、相手にされなくなるのです」
更に一歩出る。
王太子が膝から崩れた。
「足りなければ補佐する者がいれば良いと言うのは、補佐される側が最善の努力をなさっているからこそ、補佐してもらえるのです、それを何の努力もしない方の補佐など誰がしたいものですか!!」
更に一歩出る。
「努力無し、知識力無し、剣術力無し、交渉力無し、折衝力無し、経営力無し、技術力無し、信頼力も無し、無い無い無い無い無い無い無い無い、何もかも無い、この無能が!!」
最後の声は日頃皆が見慣れている様な『淑女の鑑』と呼ばれているルティナでは無かった。
既に王太子の目の前にルティナは立っていた。
シンッと静まり返ったホールでルティナの声は良く通った。
ルティナに上から見下ろされている王太子には、最後の言葉が止めの様に刺さったらしい。
両膝、両手をついて俯いていた。
そんな様子の王太子にミセラーテは懸命に『そんな事は無い、気にしなくて良いのよ』としきりに宥めていた。
それはそうだろう、そこでわかっていても『はい、そうですね』等と言えば己の立場が無くなる。
「皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした、私はこれにて失礼致しますので、皆様は引き続きお楽しみ下さい」
美しい淑女の礼を周囲の貴族にして、くるりと踵を返すと、凛としてルティナはホールを後にした。
後日、当然、国王陛下は大激怒の末、シグニフィオを廃嫡とし、王族籍も剥奪した。
その身は辺境伯にと送られ、生涯一兵卒として国境沿いの厳しい環境の中、戦いに投じられた。
厳しい野戦の地では、娯楽も歓楽も無い。
そして、あまりに弱く、役に立たないと、ここでも言われていた。
逃げ出したくても、この戦場の不毛な土地から逃げる術などシグニフィオには無く、只、生きながらえているが故に、食べる、眠る、それだけの日々だった。
ミセラーテは子爵家ごと潰され、反対の国境沿いの寒い村へと一家揃って送られた。
そこで寒さに震えながら農民と同じ様に畑を耕し、自分達の食べる物を育てなければならなかった。
艶やかに輝いていたピンクブロンドの髪は直ぐにパサつき痛み、冷たい水によって手はあかぎれが絶える事も無く、夏の日差しに当たりながらの労働はシミと皺を作り、慢性的な栄養不足は張りのあった豊満な胸を萎み垂ませ、あっという間に老けさせていった。
王太子に見初められたと報告した時にはあんなに褒めてくれた両親も、お前のせいでこんな生活になったと日々ミセラーテを責め立てていた。
そんな両親は流行り病であっけなく死んでいき、生き残ったミセラーテだけが不満を抱えながら独りで生活していた。
村に来た時の態度が悪かったので、他の村人からは無視され、話す相手も頼る相手も無く、只、生きながらえていた。
一方、王太子を廃嫡した事により、国王陛下の実子はいなくなったので、王弟の系属であるキルクイト公爵家の次男が王太子となった。
本来なら長男の筈なのだが、既に公爵家を継いでいるので、次男のイルリタス・キルクイト公爵家令息に白羽の矢が立った。
キルクイト公爵家とシグヌム公爵家は長年ライバル関係にあったのだが、その元凶であるシグニフィオが廃嫡された事によって、ライバル関係が終わった。
そもそも、武に秀でているキルクイト公爵家は王族の警備や王宮・王都の警備などを主にしており、軟弱で無能なシグニフィオが国王になったら『この国が亡びる』と反対していたのだった。
一方、知に秀でているシグヌム公爵家では娘が王太子妃に選ばれてしまったので、『そうは言っても国王陛下の実子はシグニフィオだけ』と王太子を認めていたからだった。
内心、シグヌム公爵家の当主も『あれでは駄目だ』と娘から聞いてもいたので、反対ではあったが、婚約が解消されない限り、表立ってそうは言えない。
「いやー、本当に良かった、無事に廃嫡されて、シグヌム公爵もお嬢さんが無事に婚約解消出来て良かったですよね」
「いやー本当にそうです、あんな無能に娘を嫁がせるかと思うと腸が煮えくり返っておりましたから」
「そうですよね、否、しかし、あれだけ優秀なお嬢さんですから、王太子妃は是非続けて頂けませんでしょうか?」
「それはもしや、弟君のイルリタス王太子の婚約者と言う事ですかな?」
「ええ、是非にと思っております」
「それは有難いお話ではあるのですが、今回の事もあるので、嫁ぎ先は娘の望む所にしてやろうかと思っておりまして」
「そうですか、それでは是非とも弟に頑張ってルティナ嬢を口説いてもらいましょう、実は弟は昔から望んでいたようなので、だから今まで誰とも婚約しなかったようで、この機会は絶対逃さないと言っておりました」
「そうですか、それ程なら娘も喜びましょう、娘も全く気が無い訳ではなさそうでしたし」
「そうですか、少々、年が離れておりますが?」
「いえいえ、娘にしてみれば10歳くらい年が上の方が安心なのでしょう、昔から頼りになる方だと憧れておりましたから」
「では、是非」
「ええ、是非」
キルクイト公爵家当主とシグヌム公爵当主の話合い後、それぞれの兄と父の勧めにより、急速にルティナとイルリタスの仲は良くなり、婚約となった。
社交界でもあの時のルティナの態度が凛として美しかった事から醜聞とはならなかった。
相変わらず『淑女の鑑』として、王妃として、4人の母としてルティナは後々まで語り継がれる様な女性として生き抜いた。
勿論夫婦仲睦まじい国王夫妻としても、国民から絶大な支持と敬愛を受けていた。
了
如何でしょうか?
すっきりして頂けましたでしょうか?
さぁ~~っとすっきり、さぁ~~っと読んで頂けましたでしょうか?
貴方の気晴らしになりましたら良かったです。
もし、よろしかったら☆ぽちっとお願いします。
作者、とっても喜びます。