死んだと思ってたキャラが続々と参戦してきてカオス
「ふはははは! よくぞここまでたどり着いた、勇者よ」
今、オレの目の前には魔王がいる。
大きな牙をむき出しにした魔王がいる。
魔王討伐の任を受けて5年。
ようやくここまでたどり着いた。
ここに来るまでに、多くの仲間が消えて行った。
ある者は崖から谷底へと落ち。
ある者は洞窟の崩落に巻き込まれ。
ある者は燃えさかる炎の中に飲まれて行った。
そんな彼らの犠牲のもと、今のオレがいる。
「魔王、ようやく追い詰めたぞ。ここに来るまで、たくさんの血が流れた。かけがえのない仲間を失った。けれども今日ここで貴様を討つことで、彼らの死は無駄じゃなかったことを教えてやる!」
オレはそう言い放つと聖剣エクスカリバーを抜いた。
邪竜が守る祠に封印されていた伝説の武器だ。
この聖剣を手に入れるため、さらに一人命を落としている。
「こ、この剣で必ず魔王を……」
最後にその言葉を残して果てたヤツの顔を今でも覚えている。
オレは剣の柄を握り締めながら叫んだ。
「覚悟しろ、魔王!」
「ふん、返り討ちにしてやるわ!」
魔王に飛び掛かろうとしたちょうどその時。
背後から声が聞こえてきた。
「おい勇者。一人で戦う気か?」
聞きなれたその声にハッとする。
「こ、この声は……!」
忘れもしない。
忘れるはずもない。
振り向くとそこには、死んだはずの戦士がいた。
「久しぶりだな、勇者」
「戦士! 戦士じゃないか!」
かつて崖から落ちそうになったオレを助けるため、自ら崖に飛び降りた戦士。
オレを引っ張り上げると同時に、彼は奈落の底へと落ちて行った。
「生きていたのか!?」
「ふ。不死身はオレの専売特許だからな」
どうしよう。
感極まって泣いてしまいそうだ。
死んだと思っていたのに、まさか生きていたなんて。
「勇者。今こそオレの力をお前に貸すぞ!」
「ああ、戦士。二人で魔王を倒そう!」
「ふん。ザコが一人増えたくらいで余は倒せぬわ」
戦士とともに飛び掛かろうとしたその時。
またもや背後から声をかけられた。
「おっと、二人とも。僕も忘れないでくれよ」
聞きなれたその声にハッとする。
こ、この声は……。
まさか……。
振り向くとそこには洞窟の崩落に巻き込まれて死んだはずの魔法使いがいた。
「魔法使い! 魔法使いじゃないか! お前も生きていたのか!?」
「うん、見ての通りさ」
あれは忘れもしない去年の暮。
洞窟最深部のボスを倒した衝撃で洞窟が崩壊。
魔法使いは最後の力を振り絞ってテレポートの魔法をかけてくれた。
しかしダンジョンから脱出できたのはオレたちだけ。
魔法使いの姿はどこにもなかった。
「てっきり死んだものだと……」
「僕はあんなところでくたばったりしないよ」
ドヤ顔で笑う魔法使い。
懐かしいその顔を見て、オレはまた泣きそうになってしまった。
「よーし。戦士、魔法使い。三人で魔王を倒そう!」
「「おう!」」
「ふん、ザコがもう一人増えたところで余は倒せぬわ」
魔法使い、戦士と共に魔王に飛び掛かろうとしたその時。
またもや背後から声をかけられた。
「三人とも、回復魔法なしで魔王に挑む気かしら?」
「こ、この声は……!」
クセのある懐かしい美声。
忘れもしないこの声は……。
振り向くとそこには、炎に巻き込まれて死んだはずの聖女がいた。
とある館に住まう魔物を倒したオレたち。
しかしその魔物はオレたちを道連れにしようと館に火を放った。
逃げ場を失ったオレたちに、聖女は癒しの加護をかけて館から脱出させてくれた。
だが彼女は自分に癒しの加護をかけられなかったため、燃え盛る炎の中へと消えて行った。
死んだと思っていたのに……。
「生きていたのか!」
「見ての通りよ」
不敵な笑みを浮かべる聖女に気分が高揚してくる。
さすがは神に選ばれし聖女だ。
「心強いよ、みんな! よーし、四人で魔王を倒すぞ!」
「「「おう!」」」
「ふん。ザコが二人になろうが三人になろうが変わらぬわ」
生きていた三人の仲間たちと共に魔王に飛び掛かろうとしたその時。
またもや背後から声をかけられた。
「おーっと。オレも忘れてもらっちゃ困るな」
「こ、この声は……!」
聞き覚えのあるその声。
振り向くとそこには漆黒の鎧を身に纏った暗黒騎士がいた。
聖剣を手に入れる時に邪竜の攻撃からオレをかばって死んだかつてのライバル。
「こ、この剣で魔王を……」
そう言って事切れたはずなのに……。
「暗黒騎士! お前も生きていたのか!」
「はははは。あんな攻撃でオレがくたばるわけがなかろう!」
「さすがだな、暗黒騎士。お前がいれば心強い。一緒に魔王を倒そう!」
「もちろんだ! オレの力、お前に貸すぞ!」
心強い仲間を得たオレたちが魔王に飛び掛かろうとしたその時。
またもや背後から声をかけられた。
「お待ちなさい。それだけの戦力で魔王と戦うおつもりですか?」
「こ、この声は……!」
威厳のある野太い声。
振り向くとそこには……えーと、確かレッドドラゴンに食べられて死んだはずの司祭がいた。
「司祭! お前も生きていたのか!」
「ええ、勇者どの。地獄の底から舞い戻ってまいりました」
「そうか! 助かる!」
言いながらオレは思った。
なんだかさっきから死んだはずのキャラ、復活し過ぎじゃない?
いいんだけどさ。
嬉しいんだけどさ。
ぶっちゃけ、これ以上登場されるとオレの記憶力の方が心配になってくる。
どこで誰がどんな死に方をしたかなんて、全部把握してるわけじゃない。
できれば早く魔王に攻撃をしかけたいんだけど……。
オレは後ろを確認しつつ聖剣を構えた。
……も、もう来ないよな?
死んだと思ってたキャラが生きてて参戦してくる展開はもう打ち止めだよな?
「…………」
背後に気配を感じないことを確認したオレは、「よし」と頷いてみんなに言った。
「みんな! 魔王に一斉に攻撃を仕掛けるぞ!」
「「「おう!」」」
意気揚々と魔王に飛び掛かろうとしたその時。
「待ちな! オレの存在も忘れてもらっちゃ困るぜ」
はい、来たーーーー!!!!
背後からじゃなくて横から来たーーーー!!!!
顔を向けると、そこには両手に銃を持ったガンマン風の男がいた。
「お、お前は……! えーと、えーと……銃士!」
「久しぶりだな、勇者! お前の背中、またオレが守ってやるぜ」
「そ、そうか。頼む!」
えー、どうしよう。
記憶があいまいだ。
でもガンマン風の男は当然のようにオレの隣に立った。
「勇者。また一緒に戦えるな!」
「あ、ああ、そうだな。よく生きてたな」
「ふん、オレがあんなのでくたばるわけがないだろ」
「そ、そうだな!」
まったく思い出せなかったが、頷いといた。
「よーし、みんな! 一斉に魔王に総攻撃だ!」
その時、また声をかけられた。
「待ちなベイビー。オレっち抜きで戦う気かい?」
うあああああああああ!!!!
もういいよ!!
来なくていいよ!!
見るとそこには弓矢を持った狩人がいた。
「お、お前は……えーと」
もはや誰だかわからん!
「魔王と戦うなら、オレっちの援護が必要だろ? 復活したオレっちの力、見せてやるぜ」
「あ、ああ、そうだな。助かる!」
ドヤ顔で現れてもさっぱり思い出せなかった。
いたような気もするし、いなかったような気もする。
すまん、狩人。
「よ、よーし、みんなで一斉に……」
「拙者も加勢するでござる!」
もういいよ!!!!
マジでもういいよ!!!!
今度は忍者の格好をした男だった。
「勇者どののために地獄の底から舞い戻ってきたでござる!」
「そ、そうでござるか……。よーし、みんなで魔王を……」
「おーっと! オイラもいるぜ!」
うおおおぉぉぉぉーーーーい!!!!
それから次から次へと死んだと思ってたキャラが参戦してきてカオス状態となっていった。
しまいには「最初の村でゴブリンに殺されたはずの村人A」まで参戦してきた。
「勇者様の盾となるべく、やって参りました!」なんて言ってるし。
嫌だよ。
村人を盾にして魔王と戦う勇者なんて嫌だよ。
ふと魔王を見ると、ヤツは憐みの目でオレを見つめていた。
オレの心情を察してくれているようだ。
心なしかオレに親指を立ててるようにも見える。
オレも泣きながら魔王に親指を立てた。
そこへまた声がかけられた。
「勇者殿! 我ら八剣士、地獄から生還しましたぞ!」
うおおおおおおお!!!!
もう勘弁してくれえええぇぇぇーーー!!!!
【奇跡の生還劇】
戦士……崖から落ちていく途中で岩の出っ張りに引っかかり生還。
魔法使い……洞窟の奥深くに外に通じる穴があり生還。
聖女……神が聖なる魔法をかけてくれて生還。
暗黒騎士……近くに住む少女がポーションをかけてくれて生還。
司祭……レッドドラゴンの体内で一か八か蘇生魔法をかけて生還。
銃士……奇跡が起きて生還。
狩人……奇跡が起きて生還。
忍者……奇跡が起きて生還。
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村人A……奇跡が起きて生還。
おわり
最後は勇者の精神が持ちませんでした(笑)
お読みいただきありがとうございました。