桜、花 落ちて
“月曜真っ黒シリーズ”
本日2作目です。
月並みな話だが、桜が見られて良かった。
病室の窓から見える桜並木を目指し、杖を突きながらではあるが自分の足で辿り着いた。
ほんの少しの達成感とそれに伴う喜びもつかの間の事。
私が……
いろんな事や人に不実を重ねた末に得た物は、誰も見舞いには来ないターミナルケアの病床。
自分の砂時計の残量に怯え、諦め、恐怖し疲れ果てる日々を繰り返し、自分の口座の残金と命の残数をにらめっこして冷や汗をかく。
何も救いが無く、『そんなものではお前の罪は拭えはしない』との亡者達の呻きに苛まれる日々。
夜、灯りが落されて目を閉じると、恐怖がじんわりとこの首を絞めてゆき、私がもがき苦しむと少しだけその手を緩め、息をつかせてはまた絞める。
一晩中、私は弄ばれて……息も絶え絶えに白くなったカーテンに辿り着く。
そっと割った視界から覗き見たのが、晴れない空の下に佇む薄ピンクの桜並木だった。
けれどそこに辿り着くまでには更なる時間を要し、今、私の足元は雨に濡れた路面を覆う花びら。
そして花のそこここから黄緑の角が生え花の儚さを体現している。
こうやってまた1年
桜は花を忘れ、人は桜を忘れる。
いや、それは正確では無いか……
虫が湧くと鬱陶しいのでお義理で世話をされ、秋の紅葉は落ち葉掃きの対価には見合わない。
ひょっとして梢に何も持たない冬が
桜にとってはいちばん良いのかもしれない。
そんな事を考えながら私は桜へ背を向けた。
私自身は
もう杖無しでは
歩けもしないのだけど
おしまい
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