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戦いと戦いと戦い

魔法使いのお話の予定です。

魔法使いです。

――敵部隊目視、砲術隊に目標を指示しろ

――いいか新兵、炎魔法くらいは使えるな?よし、この葉束を燃やせ




――俺らが前線を張る、お前は後衛部隊に指示をだしてこい

――そうだ、合図はいつもの色の煙だ




――お前は十分やったが、今回は我々の負けだ

――今はただ、命あることに感謝しよう




――あの時の悲しみと血を、この戦いの勝利でもって注ぐのだ

――我々の献身と犠牲が歴史を紡ぎ、その名を残し、語りつがれ・・・




「隊長!!ソールロッド隊長ッ!目を覚ましてください!!」




 悲鳴にも近い緊迫した声で喚き散らされているのがわかった。

 どうなっている?となんとか声を出そうとしたのだがうまくしゃべれず、ウウだのオウだのまともにしゃべることができない。


「よかった!生きてる!」


 入隊したばかりの新人の声と、ツバか涙かなんだかわからない液体が顔にかかっているが、まともに声もでない状態でも記憶は線でつながってくれた。同時に激しい頭痛と胸部の鈍痛にも気が付いてしまい、フウと一息入れてみたものの気分が悪くなる。まだ意識がはっきり覚醒できないが、両手を見て、両足を見て、おぼつかない手つきでわき腹と胸をまさぐり、特に出血や欠損がないことを確認した。


「ゴホッ・・・何、がどう、なった・・・?」


 せき込みながらしゃべっていると、壁に背をもたれているせいか、口からこみあげてきた血が漏れ出てキュイラスに滴った。まずい、内臓にダメージを負っているかもしれない。


「あまりしゃべらない方がいいかもしれません・・・!副長が対応中ですが、敵襲です!!」


 敵襲・・・?おかしいな、前線で戦っていたんだから、正面に敵がいるに決まっているし、側面からの襲撃にさらされる状況だったとは思えない。


「戦況は、どうだ」


 なかなか明瞭にならない思考の中から、辛うじて自身が”隊長”であることを理解し状況を聞き出そうとする。


「戦況・・・?・・・わかりません!とにかく襲撃されています!!」


 新人には荷が重かったか、と思いながらもようやく手足に力が入るようになってきて、わずかばかり意識の回復も実感し始める。


「回復、魔法か・・・ポーション、はないか?」


 そうだった!と言わんばかりに驚きの顔を披露しながら、慌てて薬液を腰のベルトから取り出し手渡してくれる。明らかに外傷用の応急傷薬だったが、昔やったことがある経験からおそらく内臓の損傷にも効果はあるはずだ。今日一日気分悪いまま過ごすかもしれないが、血で溺れて死ぬよりマシだろう。


 心の中で新兵に5ポイントマイナスを付与しながら中瓶を呷り、口の中が地獄のような痛みと苦みに襲われる。喉にも激痛、鼻孔には刺激臭が走り吐き出してしまいそうになるが、何度かやらかした経験を活かして無理やり飲み込む。むせることなく”外用傷薬”を半分ほど飲むことに成功すると、たちまち痛み(だけ)が引き、のどのつかえも消えてかなりの即効性を感じた。どうやら最近の外用ポーションは性能がいいらしいな。


「このことは、忘れないからな、新兵。――ゲホッ」


「は、はい!!」


 明らかに声が上ずり、良い評価がもらえると思っているようだが、さておきとにかくこの状況を把握しなければならない。生きて帰らなければ何の意味もない。


 鼻孔に残った刺激臭に耐えながら、ようやくはっきりした意識で今の状況を思い返す。


 国境付近にある遺跡の残骸を拠点に、偵察任務を実行するはずだった。簡易拠点を設営し、遺跡の内部調査と拠点化の改造を実行するために部隊とともに周囲の散策中だったが、気づけばこのありさまか。投げ込まれた爆発物に気づいて障壁魔法を展開したが・・・。


「――そうか――――ここは前線ではない。任務中に奇襲されているのか。)


 余計なことを言いそうになって慌てて口を閉ざす。どうやら爆発の衝撃で過去の情景と現在の記憶が混ざってしまったらしい。柄にもなくセンチメンタルな気分になっていた自分に少し呆れつつ、即応即決の思考に何とか切り替えてとにかく立ち上がろうとする。


「こりゃひどくやられたな!生きてるか?」


 聞きなじみのある逞しい声が突然、頭の上から響いてきた。騒ぎを聞きつけて集まった別動隊のリオネルが声をかけてくれたようだった。


「あぁ。リオネル殿か、助かる。」


 運がいい、爆発物の音はなかなか大きかったようだ。駆け寄ってきたリオネルが肩を貸してくれる。


「シモンとアランはあの石像付近で交戦中のコンラッド副長たちに加勢するんだ。マルとフィルは休憩中の別部隊を呼んでこい。」


 リオネルの隊員は静かにうなずくとそれぞれの指示を素早く実行しに行った。


「わ、わたしはどうすればよいでしょうか!」


「お前はソールロッド隊長を拠点に避難させろ、ここの指揮は俺が引き継ぐ。」


 リオネルがそう言って俺を新兵にパスしようとするが


「いや、避難はしなくていい。もう大分良くなった。」


 肩を借りずに一人で立ち、近くに落ちていた木盾を拾いあげる。

 フゥ、ともう一度一息入れて、気分の悪さをグッとこらえながら


「コンラッドに合流する。新兵、付いてこい。」


「ハ、ハイ!」


「リオネル殿、付近の指揮は頼む。」


 リョーカイと別動隊にあれこれ指示を出し始めるリオネルを尻目に、交戦中と思われるコンラッドたちの方向へと新兵とともに走り出した。


「なぁ新兵。お前には教えてやりたいことが山ほどあるんだ。」


「なんでしょうか!私、がんばります!」


「ハハ、そうだな、まずはコンラッドに合流するまでにポーションの種類についてからだな?」


 新兵は手持ちのポーションを確認すると、だんだんと青ざめていってくれたので、一旦ソールロッドの嗜虐心を満たすことはできた・・・のかもしれない。お互い別の意味で青ざめた顔をしながら、二人は合流を急ぐのであった。


魔法・・・魔法どこ・・・・?


登場人物

ソールロッド隊長:主人公

新兵:新兵

コンラッド副長:副隊長

リオネル別動隊隊長:主人公の同期

そのほか


アイテム

外用傷薬:ポーションその1。わかりやすく緑色をしている。即効性は高いが内服時は悪心などの副作用や吐き出してしまうことがあり昔から忌避される。

内用回復薬:ポーションその2。出番がなかった赤色ポーション。違いは味と香りと内服時の副作用がないことや精神安定作用もわずかに含まれる。

木盾:対魔法使い用に加護が付与されている。火にはあんまり強くないが、熱され続ける鉄を持ち続けるよりマシ。

キュイラス:胴体用の鋼板。隊長の着用はどちらかというと儀礼的な意味合いのほうが強い。裏面にはポータルの転送紋が彫られており、緊急用ポータルポイントとつながっている高級品で、半分コンセプトモデルじみている。

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