序章 ゼロは始まりか終わりか
「ここはどこだ……」
光の中にいた。眩しくはない。そもそも肉体を感じない。
心地よい浮遊感の中、たぶん全て終わったんだなと言う安堵感に包まれ
どちらが上下左右かすら分からない不思議な空間に、ただただ浮いていた。
安堵感の次は何故か過去の記憶がフラッシュバックし
突然、当時と同じような恐怖や怒りや悲しみの感情が襲ってくる。
俺は 日山 光一まだ生きていたならば18歳である。
両親をとある事故で亡くし、親戚をたらい回しにされる日々。
学校はいつも転校生で何となく、すぐにクラスの子達とはさよならしなくてはならないんだろうなと思いながら、積極的に人と関わらないというような、生活を送っていた。
最初は優しい親戚達も数ヶ月すると、煙たがり会話もする事が無くなっていく。そのうち、また親戚同士の集まりがあり、
別の家へ引き取られる事になる。
この何処にいても余り人との関係性を持たない、干渉しないという幼少期が、今の何となく冷めた、自分自身の事も何処か他人事のように考える、人間形成が構築されたんだろう。
親の遺産が底を尽き、俺の存在価値が無くなりかけた頃、
いよいよ、ホームレスかと考えていると、
ふらりと現れた優しい遠縁の叔母さんに引き取られる。
俺の両親との関係を聞くと、いつもお母さんとは、凄く仲が良かったのよ、晩御飯は何食べたい?などとはぐらかし詳しくは教えてくれないが、いつもニコニコして笑顔の絶えない女性である。
学校に関しては常に初めましてだからか、話の輪に入らない様にしているのが、生意気に見えるのか、
幼少の頃からいじめられる事が多かった。
自分から声を掛けることはないが、話しかけられれば必要最低限の返答はしてきたつもりだ。別に暗い雰囲気という自覚も無い。
いじめに関しては色々あったが、高校生最後の日は人生最悪な日だった。
朝、登校するとまず上履きはいつも無くなってしまうので、
鞄に入れている上履きを出し、履いてきた靴を鞄にしまう。
靴も持っていないと放課後には無くなってしまう。
席に着くとクラス内でやんちゃな数人が、関節技や絞技などを
試す実験台となり、床で意識を取り戻す事となる。
この辺りの事は通常運転であるが、昼休みに新たな遊びが始まる。
「鬼ごっこ」だ。
通常、鬼ごっこは一人の鬼から子が逃げる
それを鬼が捕まえて子と鬼の立場が入れ替わるものだが。
我が校内で新たに生まれた「新・鬼ごっこ」は俺(鬼)を
やんちゃ組(子)が只々追いかけ回すゲームである。
各々、掃除用具入れから取り出したモップやデッキブラシを持って。
「それではGAME START!!!」
逃げ惑う僕、鬼のような形相でかつ笑いながら奇声を上げ、
追いかけてくる同級生たち。
「もっと早く逃げろよ! 退治されたくねーだろ!」
「ガハハ!○ねーーー!!」
「そっちに行ったぞーーーー!!追い詰めろーーー!!」
これどっちが鬼なんだ...
冷ややかな笑みを浮かべる同級生、注意はしない同情の表情の同級生。
ははっ、相変わらず救いは無いな。
「あの、これ…」
突然、視界に白いハンカチが現れる。
あ、永遠。。。
「キンコンカンコン♪」
呼鈴が鳴り昼休みが終わりを迎える頃、掃除道具でボロ雑巾になった僕を見て満足したのか、
やんちゃな同級生たちはダラダラと教室へ帰っていく。
その後は大きな厄災も無く、
ハードな1日がまた終わりを告げ、身体の痛みを感じながらもいつものように帰ったら笑顔で居ようと、気持ちをリセットし
帰路に着く。
叔母の家に向かう途中、救急車やら、消防車やらが
頻繁に横を通り過ぎていく。
「やべーよ!」
「静かにしろ!」
声の方を振り向くと、人混みの中にチラッと顔面蒼白なやんちゃ同級生数人が見えた気がしたが、気のせいか。
まさかな、と言う嫌な考えが、家に近付くにつれて
現実味を帯びていく。
「あまり近づかないで下さい!」
「危ないですよ!」
燃え盛る建物の周りに居る、消防士が野次馬に声をあげて
注意を促している。
俺は人混みをかき分け進む。
最前列に到着し前を見る。
燃えている、、、家が、、、
祖母さんの家が!
気が付いた時にはもう走り出していた。
「君!待ちなさい!」
消防士の静止も聞かず、玄関に飛び込む。
「叔母さん!叔母さん!」
リビングにも居間にも姿は無い。
2階に駆け上がる。
寝室からごほごほと咳き込んだ音が聞こえる。
「叔母さん!!」
「光一君…」
「叔母さん早く逃げよう!」
「うん…」
大分、煙を吸ったんだろう、返ってくる言葉に覇気がない。
どうにか叔母さんを抱え上げ、廊下に出る。
階段から一階を見下ろすと、既に火の海で降りれそうに無い。
向かいの部屋の窓から脱出しようと、扉を開けるがこちらも火が回り、どうするか考えていると、
「光一君、私を置いて逃げなさい」
「いやだ!」
「2人は無理よ…」
「どうにかなるよ!洗面所の水でこの辺の火消せないか試してみる!」
「………」
「光一君こんな事、最後に言うべきじゃないと思うんだけど」
「私、子供が居たの。男の子。」
「後でいいよそんな話!」
「若い頃に出産したから、生きていくだけで精一杯で」
「いいって!」
「聞いて!友人に預ける事にしたの」
「え!?」
「友人夫婦は子宝に恵まれなくて悩んでいて、養子を欲しがっていたの」
「それって………」
「本当にごめんなさい」
「何も言わずにいるつもりだったのだけど、どうしても最後かと思うと、黙っていられなくなってしまって…」
「最後なんて言うなよ!まだ終わってない!」
洗面所のタオルに水を含ませ、辺りの火を消そうとするが、
全く火の勢いは収まらない。
「本当に逃げて!最後のお願いよ!」
「嫌だ!」
天井からバキッと音がしたかと思うと、一瞬にして
瓦やら木材の下敷きになり、
それ以降の記憶は曖昧だが、洗濯して次に会ったらあの子に返そうとポケットに入れていた、白いハンカチがふわふわと宙に舞っていた。
わからない事だらけだった。
どうして家が燃えたのか、
叔母さんは俺の母親なのか、
ただ、最期に分かったのは、今までほぼ愛情なんて感じた事が無かった俺だが、実はごく少数ではあるが、愛されていたんではなかろうかって事だ。
父さん母さんごめん。叔母さんごめん。
いつも心配してくれていたあの子もごめん。
何もお返しすることが出来なかった。
気付く事が出来なかった。
後悔を感じながら意識をなくした後、
急に浮遊感に襲われ気付くと光の中にいた。
多分、この状態を鑑みるに
俺、生きてはいないよな???
そんなことを考えていると、
何もない光の空間で何か音が聞こえ始める。
〝 ガガガ... %!※?○!※○%?... 〟
始めたばかりでまだ右も左も分かりませんが
宜しくお願い致します。m(_ _)m




