ひまわり畑の人
次の日颯太は会社に連絡をして休みをいただいたことの感謝を伝えると共に恵那と仲直りしたこと、次の日から出勤できることを伝えた。
その報告を聞いた高野さんと渡辺さんはとても喜んでいた。そして恵那とも話したいことだったので次の出勤日に恵那も颯太の会社についていくことになった。
「颯太くんの会社の人には迷惑かけちゃったしパラレルワールドの研究をしているから私の体験が研究の手助けになればなんでも手伝うよ。」
「恵那ちゃんの前の世界の記憶とかも触れるかもしれないけど大丈夫なの?」
颯太は少しだけ不安だった。今の恵那からは過去のことは全く気にしてないようだが過去のことに触れるとまた恵那の精神的に何か及ぼすのではないかと思っていた。
しかし恵那はそんなの全く気にしていないようだ。
「大丈夫。いつまでも過去に囚われないから。過去に変えられない事実があったとしてもそれは未来につながる糧にすればいいだけだから。未来が幸せであれば過去はもうなんとも思わないから。」
恵那の言葉から固い意志が見える。その言葉を聞いて颯太も確信した。
恵那なら大丈夫。未来に向け過去を糧としている人間は強い。恵那からその強さが滲み出ているのがわかる。
「うん。なら二人とあって話をしよう。二人も興奮すると思うよ。」
「うん。なんか楽しみ。」
「なんか俺もドキドキしてきた。」
二人はベッドで寝転びながら会話をしていた。このたわいもない会話が今まで以上に落ち着く空間を作り出していた。
そして出勤の日となった。二人は颯太の車で会社に向かった。久々の会社で颯太は少しだけ緊張していた。
「久しぶりの会社だとなんか緊張してきた。」
「ウソ。私は何も緊張してないけどなんで颯太くんが緊張しているの?」
「だってひさびさなんだししばらく行ってないってだけで緊張するよ。」
「それは私のせいでもあるけどゆうて五日間だよ。インフルエンザで出勤停止になったと思ってたらいいよ。私も去年インフルになったし。」
「恵那ちゃんインフルになってたのね。去年は災難だったね。」
「本当に死にそうだったんだからね。でも今年はならないからね。」
「何その自信どっからきてるの。」
「異世界から。」
二人は車の中で愉快に話しながら会社へ向かっていた。恵那と一緒に会社に向かうことがとても新鮮に感じる。これもまた楽しくていいなと颯太は思った。恵那も同じことを思っていた。彼氏と一緒に出勤することはなかなか出来ないことでありそれがとても新鮮に感じられた。
そうしているうちに会社についた。車から降り会社の前に行くと高野さんと渡辺さんが待っていた。
それを見た颯太は一目散に駆け寄り深々と頭を下げた。
「お二人とも長い休みをありがとうございました。そしてご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げる颯太を見て二人はにこやかに見守っていた。
「颯太くん。そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。これも颯太くんにとって必要なことだったからね。」
「そうですよ。恵那さんと仲直りしてこれからを歩んでいくって選択をした颯太さんはまた人間として成長していくと思います。」
「二人ともありがとうございます。」
二人の優しい言葉に涙が出そうになった。
そして横にいた恵那も二人に頭を下げた。
「初めまして。恵那と申します。お二人には色々とご配慮していただいてありがとうございます。そしてご迷惑をおかけして申し訳ありません。」
「恵那さん初めまして。颯太くんから話はある程度聞いているよ。そんなに畏まらなくて大丈夫なので今日はお願いします。」
「初めまして渡辺と申します。恵那さんも大変な思いをしている中来ていただいてありがとうございます。恵那さんの答えられる範囲でよろしいので今日はお願いします。」
「ありがとうございます。」
そうして四人は中に入っていった。
会社の中に入りいつもの研究室に行き応接室の中で話を始めた。
まずは軽く世間話をして本題のパラレルワールドについての話をした。
恵那は二人が質問していくことに自分のわかる範囲のことを話していった。
颯太はその様子をずっと横で見ていた。高野さんと渡辺さんはメモをとりながら大事そうな部分をまとめていた。
そしてある程度して話が終わった。恵那の話を聞いた二人は何かを確信したようだ。
「恵那さんの話を聞いて改めて確信したことがあってパラレルワールドに転生される時にやっぱりひまわり畑の人に合っているのは実験の通り本当なんだなと確信したよ。ただ単に負荷がかかっただけでは転生されずその人が影響を与えて転生されると見て間違いなさそう。」
「私もそう思います。」
高野さんと渡辺さんは二人で同じ結論を出していた。
転生される前に会う人。それは一体誰なのか。そこまではまだわかりそうでではない。強いてわかっているのは若い女性ということだけだった。
「あとお二人に大事な話があります。これまでの研究結果を学会に提出したところなんと内閣総理大臣の目に留まったらしく総理大臣直々に二人とお話がしたいとのことで数日以内に総理大臣とお話しすることになると思います。」
「な、内閣総理大臣」
颯太は驚きで顎が外れそうだった。
「総理大臣とですか・・・」
恵那も驚きを隠せていなかった。まさかパラレルワールドのことで総理大臣と話をすることになるとは思っていなかった。いや普通に考えれば一般人が総理大臣と話をする機会なんてありえないことだ。
「二人にとっては急で申し訳ないのだが総理の中にひまわり畑の人だと思われる人がいるそうだ。だから話がしたいらしい。」
高野さんは涼しい顔で話していた。まるで総理大臣と会うのになれているかのように。
今の総理は31歳の時に国会議員に初当選しその後政党を作り立った四年でその党が内閣の過半数の議席を取って35歳で総理大臣になった日本最速で総理大臣になった人だ。政策も国民のことを第一に考え国民からの支持率も非常に高い。そんな方と話が合うのかと颯太は疑問と不安があった。
「私総理とお話しします。それで何かがわかればさらにパラレルワールドについて研究が進むと思います。
恵那の言葉を聞いて颯太も話す覚悟が決まった。
「そうなったら話がはやい。総理大臣とアポを取ってくるよ。確か総理は明日ちょうど我々の県に来県されるらしいから空いている時間がないか確認してみる。」
高野さんは携帯を取り出してどこかにメールを送信した。
颯太は高野さんと総理大臣が友達かのように思えてきた。この際聞いてみることにした。
「高野さんさっきから気になっていることがありまして。」
「ん?どうした?」
「高野さんと総理って何か接点ありますか。」
「ああ。総理大臣の平野太陽くんとは前の会社で一緒に働いていたんだよ。そして仲も良かったんだよ。」
颯太はまた顎が外れそうになる。平野さんの交友関係は広すぎて頭の理解がおっつかなかった。
「二人で前の会社にいて私は前の会社の意向でこの会社に出向き平野くんは正解の道に進んだんだよ。だから友達に近いと思う。」
「総理と友達なんてすごいですね。」
恵那は笑顔でいった。恵那も動揺しているかと思ったがそんなことはなかった。
そんな会話をしていると高野さんの携帯にメールが来た。高野さんはそれを確認した。
「うん。平野君もおっけいだって。明日の18時すぐ近くの個室のお店に来てくださるそうだ。」
「はい。かしこまりました。」
そうして総理と面会することになった。
そして次の日の平野総理と面会をする時間になった。颯太と恵那はスーツを着て目的地に向かった。
颯太はずっと心臓がバクバクしていた。その一方恵那はワクワクしていた。
「なんで恵那ちゃん楽しそうなの?俺心臓が破裂しそうなのに。」
「だって総理と話せるなんてそうそうないことよ。普段と違うことってワクワクするじゃん。」
「それもそうだけど今回は普段と違いすぎるよ。」
「あれ?颯太君はもう普通の人とは違うことを体験しているのに。」
「まあそうだけど。それを言ったら恵那ちゃんもそうでしょ。」
「まあね。」
そして目的地についた。すでに高野さんと渡辺さんが店の前に待っていた。四人は店の前に合流して軽く挨拶をしていた。
そしてすぐに黒塗りの車が四人の目の前に止まった。そこからスーツに身を包んだ男性が降りてきた。その人は霊感がない人でもわかるくらい強いオーラを纏っていた。
「平野君久しぶりだね。元気にしてたかい?」
高野さんが車から降りてきた人に話しかけた。この人が内閣総理大臣平野太陽。颯太は唾を飲んだ。
「高野さんこそお元気そうで何よりです。そして今日はわざわざありがとうございます。」
平野総理はそう言って四人に頭を下げた。総理大臣たるものが一般人にお辞儀をしている光景が異様だった。
「は、初めまして、わ、私秋山颯太と申します。」
颯太は緊張のあまり口が回っていなかった。総理大臣を前にして平常心でいられる一般人なんてこの世にいるはずはない。そう自分に言い聞かせていた。
「颯太さん。初めまして。平野太陽と申します。高野さんから話は聞いております。今日はよろしくお願いします。」
平野総理は総理大臣なのにものすごく丁寧な口調だった。テレビの前でも丁寧な口調で話しているのを見ていたので想像と全く同で驚きも隠せなかった。
「平野総理初めまして。内藤恵那と申します。本日はよろしくお願いいたします。」
恵那はやっぱり普通通りだった。颯太は恵那の強心臓が羨ましく感じた。」
「恵那さんも初めまして。本日は色々と質問してしまう時がありますがよろしくお願いします。」
「はい!こちらこそ総理が気になっていたことが解消されるようにできる限り答えていきたいと思います。」
「平野総理お久しぶりです。学会ぶりでしたでしょうか。本日もよろしくお願いします。」
「渡辺さんも総理とお知り合いでしたの?」
颯太はまた驚かされた。いったいこの人たちはどんな生活を送ってたら総理と面識ができるのか不思議でたまらなかった。
「渡辺さんもお元気そうで何よりです。パラレルワールドの研究の第一人者として常に最前線で研究を進めてくれてありがとうございます。さて。ここでもアレですので中でお話ししましょう。」
そう言って五人は店の中に入った。
店の中に入った五人は早速パラレルワールドについての話をした。総理の質問に恵那はどんどん答えていき話が進んでいった。
少し話したところで総理がひまわり畑について質問をしてきた。
「恵那さんがひまわり畑で見た人ってどんな感じの方なのか覚えていますか。」
「はい。その人は私と同じくらいの歳の方で黒髪がよく似合う綺麗な方でした。そして笑顔が素敵な方でした。そしてとても優しくて話していると安心感もありました。」
「なるほど。やっぱりあおちゃんか・・・」
恵那の話を聞いて平野総理がつぶやいた。
「あおちゃん?」
恵那が不思議そうに聞き返す。
「あおちゃんって葵さんのことか。」
高野さんがそういうと平野総理は頷く。
「はい。あおちゃんというのは私の彼女だった人です。日向葵。ひまわりがよく似合う本当に素敵な方でした。」
「総理の彼女がなぜそこにいるのですか?」
颯太が総理に聞く。
「あおちゃんは私と付き合う前から色々な問題があり統合失調症になっていました。そして私と色々な問題に立ち向かっていきだんだんと良くなってきましたがある時事故でなくなりました。」
颯太と恵那は何も言えなかった。大好きだった人が突然この世からいなくなるのが想像できなかった。前の真奈の話を聞いた時もそうだったが颯太はこういう時どんな言葉を言えばいいのかわからなかった。
「そして私も深い悲しみの中苦しんでいました。その時に仲間や友人、そして高野さんが助けてくださり今総理大臣としてここにいます。」
平野総理の話を聞き恵那が総理に話した。
「平野総理は葵さんと出会ってお互いに良い影響を与え合って幸せだったんですね。その気持ちよくわかります。私もこの世界での颯太君と出会って今幸せに暮らしています。私が転生される前にあった人は葵さんだと思います。その人も平野総理みたいに優しい人でしたから。」
「恵那さんありがとうございます。私も葵だと思っています。」
二人の話を聞いて渡辺さんが一つ質問した。
「総理。もし今後パラレルワールドの研究をして行って葵さんと話せるとしたら話しますか?」
総理は少し間を置いて話した。
「たとえ話せたとしても私は私の未来を向いてあおちゃんはあおちゃんの未来があると思います。私は今この世界の日本、そして世界を平和にしていくことが役目です。そしてあおちゃんは転生される人の幸せを願うために動いていると思います。その思いは話さなくても通じています。」
総理の目は自信に溢れていた。その話を聞いた四人はうなづいた。
「平野総理。私と恵那も未来へ向かって進んでいきます。総理のようにはなれないとは思いますが少しでもこの国のために、そして周りの人々と自分自身のために幸せになります。」
颯太は力強く語った。
「それは嬉しいことです。けれど一番は自分自身と周りの人を大切にしてくださいね。自分を大事にできない人が人を大事にはできない。人を大事にできない人は自分を大事にできない。矛盾しますがこれが一番大事だと思っています。そういう方が多くなって初めて国が良くなっていくと思っています。」
「さすが総理。いいこと言いますね。」
「これも高野さんたちから学んだことです。」
「ははは。なら私が総理を育てたことになるね。」
高野さんの発言で場が和んだ。これも総理が目指している幸せな時なのかもしれないと颯太は思った。
そうして五人はその後も色々な会話をして店を後にした。総理はこの後の予定がありあまりゆっくりできないそうだが久しぶりに帰ってきた地元で有意義な時間を過ごすことができてとても喜んでいた。
四人もそれぞれ帰路についた。
「ねえ颯太君。ちょっと今から散歩しない?」
「うん。散歩しよ。」
二人は夜道を散歩することにした。