好きって何?
次の日颯太は真奈と待ち合わせした個室の居酒屋にいた。
「颯太くん相談事って恵那さんのことだよね?あれから何か進展があったの?」と真奈が聞いてきたので昨日のことを真奈に全て話した。
真奈はその話を真剣に聞いていた。
一通り話すと真奈は少し間をおいて話した。
「恵那さんの記憶を知ったのね。確かにすごい記憶だとは思っているよ。これを颯太くんが向き合わないといけないとなると相当大変だと思う。」
真奈は颯太の目をみて話していた。
「話を聞く限り客観的にみると恵那さんが重いみたいに受け取られるのは間違いないけどここからは私の主観も話させてね。」
そう言って真奈は話を進めた。
「まずね。恵那さんは違う世界の颯太くんに殺されたわけじゃん。その時も恵那さんは颯太くんのことが好きだったのは間違いないと思うのよね。そうでなかったら転生先で颯太くんにあっても一緒にいたいって思わないもん。」
「それに恵那さんはその世界での颯太くんの態度が変わっても好きなままだったんでしょ?その時点で重いって感じるかもしれないけど好きな気持ちってなかなか消えない時があるんだよね。ちょっとスピリチュアル的な話になるけど酷いことをされても好きって感情が消えないのって魂での結びつきが強くなっている時があるんだって。もしかしたら恵那さんは颯太くんと魂的に結ばれちゃってる可能性もあるかなって思うの。」
真奈の話を聞いて颯太は疑問がさらに生まれた。
「なんで酷いことされてまで好きでいられるの?魂で結ばれてたとはいえ流石に逃げると思うけど。」
「普通なら逃げるよ。けど魂まで結ばれちゃうとそれよりも好きぅて感情が勝っちゃうんだよね。不思議なことなんだけどさ。うまく例えられないけど心に残る歌って忘れててもふと思い出す時あるじゃん?それって記憶からは薄くなっても心の奥底ではちゃんと消えずに残ってるからふと思い出していい曲だと思えるじゃん。それと似ているのかなと思ってる。」
「心の中で残っている。か。」
「そう。それが魂まで結びついていることなのだと私は個人的に思ってるよ。酷いことされてても前の世界の颯太くんといた嬉しい時の記憶がずっと心の中に残っててそれが忘れ慣れなくていつまでも好きでいられる。まあ世間一般的には早くそんな奴と別れたほうが言っていうと思うけど好きなものはしょうがないじゃん好きなんだから。」
颯太は真奈の話を聞いてもまだ納得できていない部分があった。好きという気持ちが消えないのはある程度理解できた部分もあったがそれはもはや依存ではないのかとずっと思っている。好きと依存は何が違うのか真奈に聞いてきた。
「うーん。好きと依存ね。正直にいうと似ている気がするんだよね。好きっていう感情の中には一緒にいたいとか支えたい支えられたいとかっていう感情もあるわけじゃん。もうその時点で依存といえば依存なんだよね。そもそも人って依存しなきゃ生きていけないと思うのよ。」
「うん。」
「スマホだって今では当たり前に使われているけどそれってスマホの便利さに依存しているとも言えると思うのよね。それによってさまざまなことができるしこうやって私が話を聞くことだってスマホで連絡したからできるわけじゃん。」
「けどそれって世間一般的には依存って言わないんじゃないの?依存ってやめたくてもやめられない状態になることを言うし。」
颯太は真奈のいったことに反論をする。
「そうだよ。ならさスマホを今すぐ手放せと言われても手放せないじゃん。私は絶対に無理。」
そう言われて颯太は確かにと思ってしまった。
「でしょ。なら依存しているわけじゃん。けどさその依存って悪い方向に働いているのかって考えてみて?確かに仕事とかに支障が出るくらいに依存しているのはいけないと思うけどそれを便利に利用できるくらいの依存はむしろいいことだと思う。」
「話がずれたけど恋愛だってその人と一緒にいたい楽しい時間を過ごしたいって依存の気持ちがあるから成り立っている部分は多いと思ってるよ。じゃなきゃ恋愛なんでできないし。確かにそれが悪影響を及ぼすことも確かにあると思う。恵那さんが前にいた世界では恵那さんが殺されちゃっているから悪影響かといえばそれは否定できないけど今の世界で考えてみると恵那さんがいて颯太くんが悪影響を受けたことって何かあった?あったとしてもいい影響の方が大きかった気がするけどね。」
颯太は考えてみた。確かに恵那と出会って記憶の違いなどで恵那との関係に疲れていた部分があった。それが原因で恵那と距離を置くことにもなった。
しかし冷静になってみれば恵那がいなければパラレルワールドの研究にも携われていない。これは紛れもない事実だった。恵那がパラレルワールドから来たという可能性がなかったらこんなにもパラレルワールドについて研究することもなかっただろう。そうしたら渡辺さんとも出会いもなかった。
そして一番は恵那と過ごした時間が楽しかったということだった。思い返してみると初めて恵那と出会った飲み会の次の日。その出会いが衝撃だったけど一緒にご飯を食べたこと。温泉に行ったこと。ゴーヤチャンプルを食べたこと。旅行に行ったこと。一緒の布団で毎日寝ていたこと。そして恵那が自分のことを好きと言ってくれたこと。
それらの記憶が急に脳裏に映像として映り込んできた。その記憶はどれも楽しく幸せな記憶だった。そしてなぜか込み上げてくるものがあった。
その様子を真奈はそっと見守っていた。そして言葉をいった。
「今颯太くんの中には恵那さんとの楽しくて幸せな記憶が蘇ってきてるでしょ。嫌なことも確かにあったと思う。けどそれ以上に幸せなことがたくさんあった。その記憶は忘れかけていても心の中に残ってるものよ。それが好きってことなんじゃないかな。」
颯太は何はハッとするものがあった。
「颯太くんがそう思うなら恵那さんはそれ以上のものを感じているんじゃないのかな。そしてその記憶は前の世界の好きもあると思うけど今の世界の颯太くんに対しても絶対にあるはずだから。いやここにいる颯太くんに対して好きって気持ちの方が大きいよ。じゃなかったら恵那さんとっくに颯太くんと関係を別れていると思う。」
「矛盾したことを言うけど今の颯太くんは前の世界の颯太くんと似ているだけであって違う人間。恵那さんが最初であった時は前の世界の颯太くんと重ねていたけれど今はこの世界の颯太くんが好きだと思う。だから必死に記憶の違いを隠していたりしてたと思うの。だから・・・」
真奈が言い切る前に颯太は立ち出しこういった。
「恵那に会いたい。」
そう言った颯太を見て真奈は微笑んだ。
「ならやることは一つ。今すぐにでも会いに行こう。」
「うん。」
そう言って颯太は店を飛び出した。そして携帯を出して恵那に電話をかけた。
恵那はでてくれると確信していた。そしたら電話から出た。
「もしもし・・・颯太くん?」
恵那の声が聞こえた。
「恵那ちゃん。今から会いに行って話すことがある。今すぐ向かう。」
そう言って颯太は恵那がいる自分の家へ駆け足で向かっていった。
その様子を真奈はずっと見ていた。
「この世界での役目は終わったようだね。颯太くん。恵那さんと幸せにね。私も幸せにならないとね。この世界で。」
そう言って真奈は空を見上げた。空はとても澄んでいて清々しかった。