新たな発見
次の日颯太は会社用のお土産を持っていき会社に向かった。3日ぶりの会社なので少しだけ新鮮さもあったがすぐに仕事モードへと切り替わっていった。
少しすると渡辺さんと高野さんが出勤してきた。
「お二人とも昨日までお休みありがとうございます。こちらお土産になります。ぜひ食べてください。」
颯太はそういうと二人にお土産を渡した。
「わざわざありがとう。旅行は楽しかった?」
「はい!とても楽しめました。ありがとうございます。」
「それはよかった。ところでなんだが颯太くんが休みの間こちらから颯太くんがいっていた県で時間軸と空間の歪みが観測されたからそこを渡辺さんに詳しく解説してもらおうと思う。」
颯太は高野さんの話を聞いて少し疑問に感じた。そもそも時間軸と空間の歪みを観測できるんだなと驚いていた。」
三人は席に座ってその件について話を始めた。
「颯太くんがそっちへいっている間のちょうど二日目の夕方くらいと三日目の午前中に比較的大きな時間軸と空間の歪みを観測することができました。観測方法は私が作った機械で行うのだがそこの説明は省くとします。」
「はい。」
「それでなんですが颯太くん自体もその歪みを感じていた可能性があります。旅行の間クルマの移動スピードが遅くなったり同じ場所を歩いたけど前より長く感じたといったことは感じられましたか。」
颯太は渡辺さんの話を聞いてハッとなった。確かに二日目の夕方神社から海辺に行くまでの時と3日目の午前中ショッピングモールで買い物をしているときにショッピングモールがさっきよりも広く感じていた時があった。
「はい。確かにありました。クルマの運転中速度がやけにゆっくりとしていたり買い物をしているときにさっきよりも施設が広くなったなど感じ取れました。」
颯太の話を聞いて渡辺さんは頷いた。
「やっぱりそうですか。普段から小さな時間軸と空間の歪みは起きていますが今回観測されたのは比較的大きなものでしたのでやっぱり普通にしていても感じられましたね。」
「なるほど。ではもし自分たちがそこで心理的または外傷的に大きな負荷がかかっていたとしたらパラレルワールドに転生されていた可能性があったんですね。」
「そうですね。時間軸と空間の歪みの大きさからして確率的には高確率でパラレルワールドに転生されていた可能性があります。私と高野さんはそれを少しだけ不安視していましたがこうして無事にお話ができてよかったです。」
颯太は少しだけホッとしていた。もしあのタイミングでなんだかの負荷がかかっていてパラレルワールドへ移動していたと考えるとゾッとするものがあった。颯太自身この世界でやりたいことはたくさんあったので移動しなくてよかったと心から思った。
「颯太さん。あと聞きたいのですが時間軸と空間の歪みが発生していた時間帯に恵那さんに何か変化がありましたか?」
渡辺さんにそう聞かれ颯太は旅行での記憶を辿った。そしてその時間付近で恵那が泣いていたことが蘇ってきた。それを渡辺さんに説明する。
「なるほど。恵那さんが泣いていたんですね。それなんですが颯太さんがいない間に分かったことなんですがパラレルワールドから来た人が大きな時間軸と空間の歪みを受けると過去の記憶が一時的またはそれ以降から蘇ったりたりする現象が発生することがわかりました。」
「はい。それは何かで確認できたのですか?」
「私のコンピューターでそれは確認が取れています。ただ気になるのが恵那さんはなんでそのときに泣いていたのかということです。泣いていたということは決していい記憶とは言えません。」
颯太は考えた。確かに旅行の時も恵那は時間軸と空間が歪んでいる時間帯に急に泣いていた。2日目の時は海岸に行った時であるがそれもほぼ数分前後のズレであった。少なくともこのズレが生じた時恵那は良い記憶ではなく嫌な記憶が蘇ったことは間違いなさそうだった。
二人の話を聞いて高野さんが話を始めた。
「颯太くん。今後も時間軸と空間の歪みが発生するときは恵那さんの様子も見といてほしい。もしかしたら恵那さんの記憶の中に何か大きなものが隠されているかもしれないからね。けど颯太くんも無理はしないでくれ。」
高野さんは颯太を気遣ってくれているのが目に見えていた。高野さんは本当に周りに気を配れられる素晴らしい人だなと改めて感じた。
「よし。話はこのくらいにして研究に取り掛かろう。颯太くんには新たにパラレルワールドに転生した際に引き継がれる記憶についての実験などを渡辺さんとお願いする。」
「はい。渡辺さんお願いします。」
「こちらこそお願いします。一応ベースとなるものはできているのでそこから実験を繰り返していって本格的に仕上げていきましょう。そうすれば転生された人の記憶も辿れるかもしれないので頑張りましょう。」
そう言って三人は研究を進めていった。
颯太は渡辺さんに実験の方法を学び何回も実験を繰り返していた。渡辺さんが作り出したコンピューターで何回も実験をしていくうちに少しづつであるがコンピューター上に作り出した物体に記憶が書き込まれていったり消えていったりするのが確認できた。
それを見て颯太はだんだんこの研究が楽しくなっていった。そうしているうちにあっという間に1日が終わった。
仕事が終わった颯太は帰路につき家に向かった。今日も旅行前と変わらず恵那からのLINEが来ていた。旅行から帰ってきたばっかなので恵那に早く会いたいという感情が高まっていた。
そして家に着くといつものように恵那がげんかんんで待っていてくれた。
「颯太くんおかえり!」と恵那の元気な声が玄関に響く。
「恵那ちゃんただいま。」と颯太が返すと恵那が抱きついてきた。そしてそのまましばらく二人は抱き合っていた。
少しすると恵那が颯太の手を引きリビングへ案内した。そこには旅行で買ったお皿の上に様々な食材が盛り付けられていた。
「美味しそう。これ全部準備したの?」
「そうだよ。今日は仕事が早く終わったからさ本格的にしてみたの。」
「ありがとう。嬉しい。」
「喜んでくれてよかった。冷めないうちに食べようよ。」
そうして二人は食事を楽しんだ。
食事が終わり二人は色々済ましてベッドに入っていた。いつものように恵那と颯太は寄り添って寝ていた。二人だけの空間に温かさが広がっていく。二人は無言であったがお互いを見つめあっていた。喋らなくてもお互いの気持ちが伝わってくる。二人はその感覚がたまらなかった。
しばらくそうしていると颯太は恵那の体の下に手を回した。その手で恵那の体を颯太自身の体に近づけた。二人の体がさらに近くなった。
寝る時は大体こんな感じになるのだが今日は何故か二人ともドキドキしていた。普段通りのことなのに理由はないがドキドキしていた。
恵那も颯太の頭に手を伸ばし颯太の頭を近づけた。恵那と颯太の顔がほぼゼロ距離になっている。そしてそのまま一回キスをした。
キスをすると両者体をくっつけあいそのまま眠りについた。
颯太と恵那は次の日もまた次の日も仕事日励んでいた。颯太はパラレルワールドに転生された際の記憶について渡辺さんと熱心に研究していた。そこでいくつか分かったことがあった。
まず一つに転生するとき物体に記憶しといた記憶が一瞬ゼロになることだった。全ての記憶がパラレルワールドに転生するときに全て消されるのが確認された。
そして二つ目にその消された記憶が転生された後に一気に書き込まれるのも確認できた。このことによってパラレルワールドに転生されたときに記憶が戻ることが確認できた。
そして最後にパラレルワールドに転生される際記憶の書き込みが完全に行われない時や完全に記憶が消されたまま転生されるケースもあることが実験で確認された。このことにより過去の記憶が引き継がれたり引き継がれられなかったりするケースがあることが確認できた。
颯太はこの実験結果のおかげで渡辺さんが言っていた理論が本当なんだなと思った。
しかしこれはもうすでに渡辺さんが証明していることなので何故この現象が起きるのか証明したかった。渡辺さんもその証明をしたがっていたがなかなかできないでいた。一応心理的に強い衝撃が加わることが転生後の記憶に関与していることまでは分かっているがそれがどの程度影響し作用するのかはまかっていない。そこが今回の研究の一番重要な部分だと渡辺さんも平野さんも言っていた。
「颯太くん。ここまでの実験を通して何故記憶が転生されたりされなかったりしたと思います。」
渡辺さんの問いに颯太は心理的要因のことを話した。
「心理的要因で起こることは確かに分かっていることなんだがそれをこのコンピューター上で証明するとなるとどうしたらいいと思いますか。今までの実験ではコンピューター上の物体に記憶というものを書き込んでその書き込んだものの物体に外的な衝撃を加えることしかできませんでした。それを心理的要因で起きるのを再現したいんです。」
颯太は考え込んだ。今までの実験で物体に与える衝撃は全て外的なものだった。それを心理的なものに置き換えるにはどうしたらいいのか颯太自身も本気で考えた。
颯太はふと周りを見渡した。その目線の先にメモリーカードがあった。そのメモリーカードには「内部破損。データーにエラーあり。」と書かれていた。
それをみて颯太はある案を思いついた。
「渡辺さん。思いついたことがあります。」
颯太のその言葉に渡辺さんは目を光らせた。
「どんな案でしょうか。説明お願いします。」
渡辺さんの声を聞いた平野さんもこちらへやってきた。
「物体に書き込む記憶というのはいわゆる普通のパソコンとかでいうハードディスクに保存したりとかそういうのと変わりないと思っています。」
颯太の言葉に二人は耳を傾ける。
「ハードディスクとかもコンピューターウイルスに感染させると記憶したものが消えたりしますよね。この実験に使っているコンピューター上の物体にもハードディスクと同じように記憶を書き込んでいます。そこに壊れたデーターかコンピューターウイルスのようなものを入れて記憶としているのもを中から壊したりするのはどうでしょうか。」
颯太の案に二人も何か閃いたようだった。
「颯太くんそれだよ。物体の中の記憶にウイルスを使って記憶自体にダメージを与えれば人間の心理的ダメージのようになるかもしれない。本当にありがとう。颯太くん流石だよ。」
「颯太くんありがとうございます。こんなことが思いつかなかったとは私もまだまだだと実感しました。早速プログラムを組んでみます。」
二人の嬉しそうな声に颯太は安心した。まさか壊れたメモリーカードがヒントになるとは思っていなかったので颯太自身も驚きがあったがこれで実験が進むと考えると楽しみがまた増えていった。
そうして三人はコンピューター上の物体に心理的要因をかけるために専用のコンピューターウイルスを作るプログラムを作ったり新たなプログラムを書くことに専念した。そうしているうちに1日が終わっていった。
その後も来る日も来る日も颯太は研究に勤しんでいた。颯太はすっかり研究にのめり込んでいた。研究が楽しくて本当に充実していった。
一方恵那との関係も順調だと思いたかったが最近また記憶のすれ違いが多くなっていった。この前も颯太が嫌いな食べ物を好きな食べ物と勘違いしていたり颯太の兄弟構成の相違があったりと小さいことからやや大きなことまで様々な記憶のすれ違いが起きていた。
颯太もそれを受け入れようとしたが心のどこかで億劫さを感じていた。そのせいか恵那に対しての反応が以前より雑になっていった自覚がある。
颯太は恵那との関係よりも段々とパラレルワールドの研究の方に熱が入っていった。そのためか帰っても以前より会話が少なくなっていった気がした。恵那もそれを察しているのか前よりも会話をしなくなっていった。
晩御飯を食べる時も会話も必要最低限の会話になっていき寂しいものになっていった。それでも颯太はあまり気にならなくなっていて恵那と一緒にいる時も研究のことをずっと考えるようになっていった。
そんな日々が続いているとある時大きな事件が起きた。