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 次に読み上げられたのは、レムシャイト侯爵のロートゲン家の追放だ。家財一式、クレーフェルトのものになり、先代の作った借金は帳消しにする代わりに、今後一切、関わらないと誓約するものだ。文字通り着の身着のままの追放だ。

 ロートゲン夫妻は騒ぎ立てたが、文面を読み上げた王太子殿下の側近が、レムシャイト侯爵に同行し、リーナについて命令していた事を確認している。それに従わない者を使い続ける意味はないし、取り立てて優れたものがないのだから、代わりはいくらでもいる、と冷静な指摘に青褪めていた。

 漸く自分の娘がした事の意味が理解出来たようだ。

 表面上は一組の婚約を壊しただけだが、婚約を決めたのは王太子殿下だ。潰された面子は一貴族だけではない。

「サインをしたくないというならそれでも構わない。ならば、借金を背負ったまま追い出す」

 レムシャイト侯爵の一言に慌てて夫婦はサインをした。当然、爵位もレムシャイト侯爵の物となった。ロートゲンの領地は暫くレムシャイト侯爵が管理し、ゆくゆくは一門の者に爵位と共に管理を任せるのだろう。

 その瞬間、リーナの一家は貴族ではなくなった。

 衛兵につまみ出されるようにして部屋を出されたリーナの両親は、どうなるのだろう?気にはしないのかとエミルを見るとクレーフェルト侯爵夫妻に口を塞がれ、腰掛けたソファーに押し付けられていた。

「レムシャイト侯爵、ご苦労だった」

「いえ、お手数をおかけし、申し訳ございません。クララ嬢、我が一門の者が迷惑をおかけし、本当に申し訳ない」

「いいえ。レムシャイト侯爵様、色々とお気遣いを頂きましてありがとうございます」

 エリアスによく似た顔が幾分和らいだ。

「では、次に。クレーフェルト侯爵、後継はどうするのか」

 王太子殿下の問いかけにクレーフェルト侯爵はエミルから手を離し、王太子殿下のいる上座を向いた。

「は、その事ですが、ご提案頂きました親族から養子を取るのではなく、娘ガリアナの生む子に継がせたいと考えております」

 ガリアナの子は順調であれば、来月に生まれる予定だ。お腹の出方から男子ではないかと言われている。

「ふむ。ドルトムントを継ぐのではなく、クレーフェルトか……」

「そんなっ、父上、私がいるでしょう⁉」

「もし、継ぐ子が成人前に私が死亡した時には、ガリアナの夫に成長まで侯爵代理になってもらいます」

「父上!」

「懐妊中の娘の前で言ってはならないと思いますが、万が一の場合は長女の生んだ子を養子にもらいます」

「そうか。分かった。ルイス、そなたも覚悟の上か?」

「はい、無論です」

 王太子殿下と長兄ルイスは寄宿学校が同じだったそうだ。よく無茶振りをされたと苦笑していた。ガリアナを娶る話が出た時、グネルはどうなるんだ、と恐れ多くも王太子殿下に詰め寄ったと聞いた。そなたならなんとかするだろう、としれっと言われ、殴りたい衝動を抑えるのに苦労したと言っていた。

「分かった。ではそのように手続きをしておこう。そうそう、クレーフェルト侯爵の息子よ、あの娘はリーナと言ったか。二人で住む場所と職場を用意しておいた。せいぜい励むがよい」

「え、卒業式はまだですが……」

 女子の寄宿学校はローゼ女子学園の他にもあるが、全て男子の寄宿学校より卒業式が早い。一月近く差がある。エミルは寄宿学校にまだ通わなければいけないが、もう王太子殿下は説明する気もないようだ。

 つまり、退学処分なのだろう。

「クララ嬢、今後、困った事があれば、申し出るように。出来る限り手助けをしよう」

「ありがとうございます」

 主に婚姻の事だろう。同年代はほぼ、婚約済だ。相手を見つけるのは難しいかもしれない。だからといってエミルと再び婚約し、クレーフェルトを継ぐ未来だけはない。二人の間に信頼関係が結べないし、ミランを始めとする次世代の家臣団の信頼を得られないからだ。

 王太子殿下が退出するのを見送った後、ガリアナがエミルに歩み寄った。

「エミル、これでもう二度と会えないだろうから、聞いておきたい事があるの」

「姉上?何故、もう会えないなんて」

「当たり前でしょう?だってあなた、王太子殿下のご不興をかったのよ?それが全てじゃない。ねえ、今、どんな気分?一時の感情に任せて、クレーフェルトにとって価値のない女を選んで。ねえ、その選択でお父様やお母様にどれだけ迷惑かかったか、姉のわたくしがどのような立場になるのか、考えもしなかった?」

「いや、だって、結婚はクララとしてやると」

「まあ、クララほど価値のある女性はなかなかいないのに、してやる、ですって?」

 くすくすという笑い声が段々と高くなる。

「あなたなんて、死んじゃえばいいのに」

 ガリアナの両腕が伸び、エミルの首を掴んだ。

「あ、あねう……」

「駄目だ、ガリアナ。落ち着いて。体に障る」

 クララの長兄ルイスがガリアナを後ろから抱き、喉を圧迫している指を外させる。

「だって、旦那様」

 ポロポロと涙を零したガリアナはルイスの腕の中で気を失った。


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