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「マリア様、マリア様、見守り下さいませ」

「なんだ、それは」

「まあ、ご存知ないの?政略を疎かにしない乙女には、マリア様が密かに助けて下さるのよ」

 馬車から降りる前に手を組み、祈りを捧げる。

 宗教とはまた別の、そうお守りの呪文のようなものだ。

「マリア様は、婚約破棄をされた女性の保護や、ご自分の侍女が虐げられた結婚をした時には、お助けくださったそうよ」

「そうなのか」

「ええ」

 ヘリサーの手を借り、馬車から降りると学園長夫妻、ここでは王兄殿下ご夫妻とお呼びすべきだろうか、出迎えて下さる。

「クララ。あの二人、来ているわ。わたくし、とっても怒っているのよ」

「申し訳ございません、わたくしが不甲斐ないばかりに」

「いいえ、あれらがおかしいだけだと思っているわ。さあ、行きなさい。王宮と学園には連絡しました。もうわたくしは庇いません」

 どんな時でも微笑みを浮かべている王兄妃殿下は一瞬だけ真顔になった。

「あの二人がもし騒ぎを起こしたら、卒業資格を剥奪、起こさなかったら、迷惑料を要求します」

「はい」

 玄関ホールに見知った顔を見つけた。

「クララさま。あの娘、緑のドレスにエメラルドのネックレスをしてましたわ」

「まあ、そうですの。……わたくし、もう緑のドレス、処分しましたの」

 エミルの瞳の色は緑色だ。従って婚約してからクララも緑色を選ぶ事が多くなった。しかし、三回、クララを招待せず、リーナを招待した事を知った時、緑のドレスは処分した。一回目の時、作成しようと思っていたドレスの色も変えた。念の為だったが、結果、変更してよかった。

 妃殿下も怒る筈だ。婚約者のいる男にエスコートさせるだけでも不愉快なのに、その男の色を身にまとっているのだから。

 学園長として、淑女の範疇から外れたリーナを最後まで見捨てず、寄り添い言い聞かせていたのに、淑女としては一番やってはいけない事を学園長の前でやったのだ。

 婚約者のいる男にみだりに近づくなど、愛人になるつもりか、と注意し、妾、愛人になるのならば、正妻をまず立てろ、とも。

「ブルーナさま、教えてくださってありがとう」

「いいえ、あと、アメリーさまのエスコートとしてエリアスさまがいらっしゃってるの。もうすごく怒っていらっしゃって、使いを自宅にやったそうよ」

 レムシャイト侯爵の長男エリアスはクララに会う度に謝罪してくれる。聞いたところによると、既に幾度もリーナの両親を呼びつけ、リーナを退学させるか行動を改めさせるか迫ったようだが、当の本人は一切、気にしていないようだ。

 迷惑を被っているのは、クララだけではない。レムシャイト侯爵一門の家臣で一番の忠臣と名高いシンメラット伯爵の娘アメリーは、リーナのお目付け役のような事を自動的に任され、以前はふっくらとしていた頬が見る影もなく痩けてしまった。

 因みにエリアスは婚約していたが、この問題が大きくなり始めた頃、婚約が白紙になった。いくら仲が良くとも、家門が傷つくような問題を抱えている所に嫁がせたくない、と。面倒に巻き込まれたくないと。

 カーンと鐘の音が響いた。メイン会場のホールに移動を促す音だ。もう一回鳴ればパーティーの始まりだ。

「クララ、私がここで君を庇う事は出来ない」

 ヘリサーの言葉に頷いた。ここはあくまで卒業生の為のもの。もしヘリサーがクララを必要以上に庇えば、クララは何も出来ない子供だと思われてしまう。

「ええ、分かっています。お兄様。わたくし、ドルトムント家の娘として、宣戦布告を受けたら迷わず戦います」

「わたくし達も加勢しますわ、だってあんな躾のなってない娘に最後まで振り回されたくないですもの」

「ブルーナさま、ありがとうございます」


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