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ローゼ女子学園。
王族女性が中心となり創設した、貴族女子の為の寄宿学校だ。
貴族男子の為の寄宿学校はいくつかあったが、女子は各々の家庭で教育するのが一般的だった。高位貴族ならば、家庭教師を雇い教育を施したが、雇うのが難しい場合は、主家を始めとする伝手を使い、行儀見習いとして奉公に出し、働きながら貴族女性としての必要な事を学び、二、三年で実家に戻る事が多かった。
この国では王家が直接領地を治める王家直轄地と、公爵、侯爵そして辺境伯が治める領地がある。そして彼らに代わって領地を采配したり、事業したりする伯爵以下の貴族がいる。
主家と家臣。関わり方は密接であったり、反対に希薄だったりとする。
よって当然として教育の差があった。
それを憂いた王族女性達が支援と寄付を呼びかけ、出来た全寮制は当初の生徒数は定員に満たなかったが、やがて王女や公爵家の娘までが入学するようになり、ローゼ女子学園出身の高位貴族夫人が少しずつ増えた。
ここまで人気になったのは、王族女性が学園長となり、自ら社交について直接指導し、また大使夫人達が自国について語ってくれるからだ。
そのような教育などどんなに裕福であっても、個人では受ける事など無理だろう。
当然、入学金、授業料は高額なものとなった。
これらの支払いが難しい場合、主家が負担し、寮費のみその家、もしくは婚約者の家が負担した。
寮費は、四人部屋で下働きが一人つく部屋から、自宅から使用人を二人まで連れて来る事が出来る部屋まで様々あった。因みに王族女性は基本的に小さいが独立した住まいが与えられている。
寮は三棟あり、それぞれ学園長直属の部下の寮監が生徒たちを見守っていた。
生家や婚約者の家、学年、寮、といくつもの関係を保護者のいないところで渡り合うのは、成人していない子供には厳しいものがあったが、ここではまだやり直しが出来る。何度もぶつかり合いお互いを認め合い、生家の派閥が違うのに、親友となる事は珍しくなかったし、問題が起きれば、派閥を超えて解決に尽力する事も珍しくなかった。
それが卒業後も続いた。
学園外の人間に絆の強さを知らしめたのは、卒業生が家の事情で住み込みの家庭教師になった事から始まった。
最近では入学前に基礎的なマナーの為に家庭教師を呼ぶ事が多くなったが、今回の場合は、生徒が不慮の事故の為、休学しているが、勉学の遅れを取り戻す為にと呼ばれたのだった。
楚々とした美貌の家庭教師に心を奪われたその家の当主は、妻と娘の目を盗み、家庭教師に言い寄った。時には贈り物をし、時には脅した。
家庭教師は躱し続けるのが難しいと感じ、寮の同室だった女性に助けを求めた。その女性は自分の手に余ると生家の主家の一つ年上の女性に助けを求め。
最終的には王太子妃まで話が伝わった。
激怒した王太子妃とその仲間たちは家庭教師を助け、所業を知り離縁を考えている妻の後押しをし、娘の復学をサポートした。
その一件が明らかになると、ますますローゼ女子学園の名前は有名になり、入学希望者が増えた。
ローゼ女子学園の卒業式は学園内に建てられた講堂で行われた。前日には寮の退寮式があり、卒業式が終わってしまえば、もう大人の仲間入りだ。デビュタントを済ませている者もいるが、半数はこれからだ。
三日後には王都の学園長の自宅にて卒業パーティーが行われる。現在の学園長は王兄妃だ。
王族の所有する邸宅での夜会に参加する。
これもまた、入学希望者の多い理由の一つだ。
本来ならばデビュタントを済ませていないのに夜会に参加するなど、あり得ない話だが、卒業パーティーを兼ねた夜会だ。行事の一環として入学前より知らされている。
定期的に開催される茶会や懇談会の時には、露出の少ないクラシカルな制服の着用は禁じられ、場に合ったドレスと装飾品を身に着ける。これもまた行事でありながら、授業の一貫でもある。
裕福な家では毎回のように新調するが、そうでない家は、学園、もしくは主家や婚約者の家、後見人などが用意する。無論、新品ではないし、流行のものではないが、オーソドックスなものできちんと手入れしているからさほどみすぼらしくはない。学園で用意されたものは、主に高位貴族女性のお下がりだ。
しかし卒業パーティーだけは、生家、もしくは婚約者の家が用意する。たとえそれが姉妹のお下がりであっても。
卒業パーティーは学園の行事ではあるが、卒業式は終わっていて生徒ではないからだ。
王都のタウンハウスでは、主家の娘、もしくは家臣の家の娘達が精一杯に着飾り、期待感で胸を膨らませている。
婚約者やその日のエスコート役を仰せつかった親族の男達が迎えに行き、賑やかに馬車に乗り込み、王兄殿下夫妻が待つ邸宅を目指す。大半は王族の住まいに招かれるなど、もう二度とないだろう。高揚感ではしたなくも走り出したくなるほどだ。
しかしそんなうわついた様子が一切ない屋敷が一軒だけあった。
「お兄様、お願いいたします」
「ああ、我が妹よ、戦場へ参ろうか」