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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
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9.庶民の希望

  インフィニタは6つの地区に分かれ、主要民族が各地を治めている。いや、正確には5つだ。ヴィサス区は消滅し、主要民族であったヴィサス族は滅んでいる。


 今はアルデナ区、アウロラ区、ボオラ区、ドゥーリ区、ラカス区の5区がインフィニタを支えている。


 立地的にはドゥーリ区がアクア国との最前線に位置し、ラカス区はスノウ国に近い。その2区の後ろにボオラ区とアルデナ区が構える。アウロラ区は北上に位置し、広大な農地と森林に囲まれていた。その森には限りがなく、奥に進めば戻っては来れない。


 アルデナ区、アルデナ族は武闘民族と言われ、戦闘能力の高さが特徴的だ。体格も大きく、パワーにも恵まれ、戦闘能力の高さには一定の評価がある。5区のリーダーであり、そのアルデナの主家、コンサス家は大きな権力を持っている。


 そのカンサス家の主領が、1人の男をインフィニタ軍の主力に引き上げ、7人の主力にしか渡さない宝刀グロリアを渡した。他民族、それも名もない庶民の出身の男にだ。


 その異例の行為に周りは騒ついた、その男の出身ラカス区は尚更だった。主家のブスクラ家は顔を潰されたと怒る派と、嬉々として歓迎する派に大きく分かれた。


 その男の名はチェリと言う。


「チェリ様、只今戻りました」


「ご苦労、あの男の情報は得られたか?」


 インフィニタ軍の若き主力、チェリは大きな椅子に座り、側近のグリアの方に向きを変えた。グリアはドアの近くで待機している。


「あの男はアクア国から入国したようです。入国申請書には傭兵と書かれていました。市場の情報屋に当たりましたが、ハッキリとしたものはなく。ただ……」


「ただ?」


「数年前に3人くらいで来ていた観光客に似ている、と言うものがいるようです」


「ほぉ、観光客ねぇ」


「命を救われたとはいえ、側近とは如何でしょう?敵のスパイかも知れませんよ?」


「それはない」


「どうしてそんなこと……」


「アイツの動きを見たか?あの視線の動きと判断力、体技、スピード、只者ではない」


「それなら、なおさら怪しいのでは?ウチに潜り込もうとしているのかも」


「それはない、あの男はあの場で判断し、私を救ったのだ」


「はい?」


 チェリは腰に携えた宝刀に手をかける。


「このグロリアを所持するから、助けたのだろう」


「その刀の意味を知るものは身内しかいないでしょう?」


「そうだ、この刀の意味を知るものは少ない。そして、私の瞳をアイツは真っ直ぐ見た。助けるべき命かのどうかの選択をしたのだ」


「まさか……そんなこと。何者です?」


「それを調べろと言ったのだが?」


「……あの者には見張りをつけています。確かな者なので見失うことはありません」


「良くやった」


「あんな他国の身分が不確かな者を貴方の側に置くのは賛成できません」


「そうか?よほど同じ民族の方が危ないだろ」


 チェリは面白そうに微笑む。今回の刺客達もどうせ、主家から依頼されたものだろう。この区の支配権を取られると恐れているのだ。


「まぁ、検討はついてる。どうせスノウ国の犬だ」


「諜報員ですか?」


「多分そうだ、主人に飼われている身だろう」


「それなら、なおさら難しいですよ」


 チェリはフワリと微笑む。グリアは嫌な予感が走った。


(こんな表情をする時は、大抵、ろくなことは考えてない……)


「犬は餌を与えれば、尻尾をふって主人に従うものだ」


「はい?」


「アイツには欲しいものを与えてやる。で、私はアイツを使い、インフィニタの力を得る」


「そんなこと……」


「お前はわかってるだろ?今のインフィニタではアクアには勝てない」


「そうですが……」


「それぞれが内部で争っているから、国はまとまらず。国民は飢えている」


 グリアはチェリの言葉の意味をよくわかっている。戦争孤児として育った自分達は、勝手な大人達の行為の結果を引き受けてきた。自分達には踏み(にじ)られ死んでいった仲間の血が流れている。


「ヴィサスはもう居ないんだ」


 ヴィサス族、インフィニタの知性、その民族は人々を率いた。その民族がもたらした恩恵に気付いたのは、失って初めてだ。


 アクア国の思い通り、ヴィサスを失ったインフィニタは大きく乱れている。


「今の主家の奴らはダメだ」


 チェリは足を組み替えると、グリアに微笑みかける。


「たぶん、アイツは起爆剤になる。私の勘は当たるだろ?」


 軽く後退りするグリア、主人がこんな目をする時はもう心を決めてしまっている。


「一生までとは言わない、とりあえず、私の側に置けるようにしろ」


「えーーーっ!!」


 もう数歩下がるとドアに背中が当たり、グリアはビクリと震えた。


「わかってるな?どんな手でも使え」


「勘弁して下さいよ……」


「お前、スノウにツテがあるよな?」


「いやぁ……スノウ国のレイの諜報員だったら厄介ですよ」


「それなら、尚更だろ。優秀じゃないか」


「無理でしょ、ホント無理ですって」


 チェリはニッコリと微笑んでいるが、目は決して笑ってない。その鋭い瞳はグリアを突き刺していた。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、紫色の瞳を細めると、有無も言わせない覇気を醸し出した。


「グリア、頼んだよ」


「……はい…わかりました」


 圧倒され、ノーとは言えなかった。もちろん、勝算がないわけではないが……。


 その答えにチェリは満足そうに微笑む。


 実は市場を視察している時に、あの男には目をつけていた。そつのない動きと、人の本質を見破る確かな目、相手の心を開かせ誘導する能力。そして、あの身体能力の高さ。それに、あの男と瞳を交え、奥深くに持ち合わせている信念の強さを感じた。


「レイの犬だったら、面白いなぁ」


「……」


 チェリはクスクスと笑っている。


(それだったら、困るんだけど……)


 グリアは背中にドアの冷たさを感じながら、その顔は引き攣っていた。






 

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