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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第4章 天陽の冥暗
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7.同じ顔の男

 レオナルドはラカス区の兵士に拘束されると、その日のうちにスノウ国に輸送された。国境に到着したのは夜中であるが、入国はスムーズに進められた。


 特例にあたることだが、スノウ国の近衛兵がレオナルドを引き取り、王宮に運んだ。通常であれば、警備兵がでてくるはずである。しかし、そこは暗黙の合意。王家に繋がりがある者ゆえの対応だ。


 王宮の地下には牢屋がある。それは遥か昔の負の遺産で、前女王のザイバイの統治以降は使用されていない。


 レオナルドが、かなり久々の収容者となった。


 鉄格子と冷たい石、漂う冷気が容赦なく身を蝕む。出される食事も冷めた味気ないものだった。体を温めるのは薄い毛布のみ。牢屋の見廻りに来る近衛兵が、このあまりの処遇の酷さに異議を唱え出した。


 牢に入る男は紳士的で礼儀正しく、とても罪人には見えなかった。


 この男のことは内々の話にされてはいたが、次第に頻繁に話題にあがるようなり、近衛長のマリオには部下からの嘆願が次々と届いていた。レオナルドをよく知る者もいたが、そうでない者も同じ反応を示す。


 近衛長は王妃の性格をよく知っていた。何があったかは知らないが、勾留は長引くと見込んだ。温情に溢れた女性だが、それと同時に厳しさも持ち合わせ、身内にはいっそうな所がある。


 王が動いたのはナイスタイミングだった。


 近衛兵の疑念が溢れ出す手前、レオナルドが体を壊すギリギリ前だった。


「レオナルド、大丈夫か?」


 レオナルドを迎えに来た、兄のロナウド=ロイドだ。


 大学の研究室に籠り、外には出ない男だが。弟が死にそうだと聞くと、一目散に駆けつけた。


 衰弱した弟を担ぎ、自分の車に乗せ、自宅に向かっている。


 先程、叔母のフィリアの所に寄り、一通りの話は終えてきたところだ。機密情報だと詳しいことは伝えられず、ただ規律に反した結果だと言われた。それに対し、誰よりも弟のことを理解するロナウドは、このような扱いをうける言われはないと静かに抗議した。


 公務員の仕事だと聞いている。そもそも叔母が頼み込んで引き入れた道だと言うのに。


『王妃として、公平に対処しなければならない』


と謝罪の言葉はなかった。


 それに対しロナウドは感情を乱すこともなく、ただ一言、言い返した。


「王妃、多くを勘案しなければならないお立場でしょう。だからこそ、実にシンプルな見方が必要な時もあると私は思いますよ」


 その言葉はフィリアを黙らせた。批難する言葉ではなかったが、王妃の心にズッシリと圧をかけた。


 王妃とレオナルドは、どちらも頑固だ。お互いに引けない何かがあったのだろう。叔母の性格もよく知っている。話しぶりから大体の想像はできた。


 王が介入しなければ、意地の張り合いは終わらなかっただろう。


 ロナウドは車を運転しながら、ミラーで後部座席の弟を確認する。息はあるようだが、痩せ細り、発熱している弟はボロ雑巾のようだ。


「レオ、パプチで何があったんだ?お前は立ち回りが上手いはずたろ?」


 そんなことを問いかけても返せないとわかっているが、言わずにいられない。こんな酷い状態の弟を見るのは生まれて初めてだ。


「……ラウダ……」


 レオナルドはうめき声をあげた。


 その瞬間、ロナウドの脳裏に1人の女性が浮かんだ。紅髪と深緑の少女……。


 紅髪の少女が悪戯っぽく微笑む。まだあどけなさが残る、美しい人だ。しかし、その瞳からは意志の強さを感じる。


 レオナルドの視点でのイメージだ。自分達、双子の兄弟でしかシンクロできないものだ。


 この兄弟は幼い頃から、お互いの強い頭の中のイメージを共有することができる。


「……レオ、お前……同性愛者だったのか?」


 ロナウドは鏡越しに、弟へ温かい視線を送った。


「フィリアはお前のこと可愛がってたからな……ちょっとだけ心配しただけだ」


 レオナルドの視点のイメージをロナウドの視点として見直すと、その少女は少年であることがわかった。


「お相手も同じ気持ちなら、家族に迎えよう。お前がここまでして守りたかった人だからな……」


 レオナルドの今を見れば、その必死さはわかる。ここまでして貫きたかった愛なのだろう。弟の願いを何としても叶えてやりたい。


「レオ!兄はお前の味方だからな!!」


 車のハンドルを力強く握った。


 レオナルドとフィリアが揉めた件は、この少年のことに違いない。


 何でもそつなくこなす弟、今まで大きな問題を起こすこともなかった。いや、むしろ上手くやり過ぎていた。そんな男でも、愛の前では無力なのだ。


 せめて、弟だけでも愛する人と一緒にさせてあげたい。障害だと思われることは、実はそうでもないのだ。


 ロナウドの瞳には、薄っすらと涙が浮かぶ。


 サン国とは異なり、この国はまだまだ古い考えの人が多い。レオと少年の進む道は容易なものではないだろう。せめて家族は2人を守ってやらないと!


 ロナウドは兄としての使命感に燃えていた……。


 ロナウド=ロイド、スノウ国が誇る天才。その明晰な脳は他国からも狙われている。レオナルドと同じ顔を持つ、おとぎ話の王子のような容姿も与えられた男。性格は温厚で上品。誰もが羨む、完璧な男。


 しかし、弟が呆れるほどのド天然だった。


 






 

レオナルド兄のロナウド、久々の感じです。

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