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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第4章 天陽の冥暗
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2.ひと時の別れ

 コンサス家の嫡男、ラウダを探す者達は困難を極めていた。彼を探すのはエクセンだけではない。グアバ、カラン=ブロディはもちろん、ソリア=コンサス、ヘルメース=ブスクラも探している。懐柔しようと企む者、純粋に会いたい者、命を奪おうとするもの、その目的は多岐にわたる。


 目立つはずのラウダを見つけることはできなかった。その存在を隠すのは3人の主力であった。ガンジスはガリを匿い、ラウダが存在するかの様に振る舞い。ウンブラの身柄はイエロズが引き受けていた、と言おうか、アウロラの兵が喜んで協力している。


 そして、ピーノとラウダはエレクトロに保護されている。厳密にいうと、チェリとエレクトロだ。2人が隣接して設置している野営の中で守られていた。レオナルドはルシートとしてチェリの下で働き、影ながらラウダを守っている。


 エクセンが動くよりだいぶ前に、ガンジス、イエロズ、チェリ、エレクトロの間には、ラウダを通じて協力関係に近いものが出来上がっていた。


 しかし、そもそもは別々の存在として存在する者達。必ずしも全ての協力が得られるわけではない。レオナルドの待遇はそのうちの一つだった。


 ルシートと呼ばれるチェリの側近、レオナルドは主力会議の当日、チェリに呼び出された。


 他区を信用しないチェリは、ホテルには宿泊せず、兵士と共に野営で滞在している。その中の何の変哲もないテントの中に主力の部屋が用意されている。テントの中には絨毯が引き詰められ、過ごしやすいように準備してされていた。


「ルシート、お前にはホント驚かされる」


 チェリは黒塗りの椅子に腰をかけ、長い足を組んでいる。軽く腕組みしながら呆れた顔をしている。


 レオナルドには呼び出された理由が大体わかっている。情報を財産とするラカス地区、ラウダと自分達の動きなど筒抜けに近いだろう。


「業務上の報告をあげています。それほど驚かれるとは」


 金髪碧眼のその男は、あくまで惚けた態度を崩さない。


「アメリお嬢ちゃんを上手くあしらったのは合格だが……。いろいろと歩き回り、コンサスの宴にまで顔を出したようだな?どこいらの姫君と勝手に婚姻までして、大活躍だったとか?」


「……」


「私の名は動くのには充分、役に立っただろう?」


 主力の赤い瞳が、冷ややかに向けられている。レオナルドは言い訳をするつもりはない。


「それらは見方を変えれば、チェリ様の利にもなることかと」


「ルシート、口を慎め」


 チェリの右腕、グリアがすかさずレオナルドを牽制する。


「ホント面白い奴だ。その通りだよ、ある意味な」


 表情を変えることなく、僅に頭を縦に振る。


 ラウダがどこかに取り込まれれば、力の均衡が崩れる。0番を継ぐ者とは予想しなかったが、大して力がないヴィサスを継ぐなら脅威にはならない。それも、教会で婚姻に署名してしまっている。 


 これで、他区のどことも血縁関係は結べない。その相手は表沙汰にできない相手、スノウ国の血統書付きのイヌだ。面白すぎるネタにチェリは吹き出した。


「ルシート、お前を主力会議の出席メンバーから外すことになった」


 グリアは事務的にレオナルドに言い渡す。本題はここからだった。


「……えっ?」


 主力会議には、主力と共に3人の側近が入れることになっている。ルシートは外国籍ではあるが、参加は許されていた。


「お前には、スノウ国から指名手配が出ている。我々は、拘束及び強制送還の協力要請を受けることにした」


 グリアは淡々と話す。その様子から、この先良い話になる見込みはかなり薄い。


「反逆罪、こんな強力なのを出されては無視はできない」


 チェリは冷ややかな視線をレオナルドに向けていた。惜しい男だが、スノウ国を敵に回すわけにはいかない。


「今ここで拘束し、すぐにスノウ国に送る」


 グリアはレオナルドから武器を取り上げると、待機していた兵を呼び寄せた。レオナルドは3人の兵士にあっという間に拘束された。


「大人しく国に帰れ、そうすれば0番の主力の支持をしてやる。抵抗すれば、俺はエクセン側に寝返るからな?」


 チェリは淡々と語る。そこには何の情も含まれていない。レオナルドの首根っこを見えない手でガッチリと掴んでいる。


「どこぞの姫君に会わせてやる情も持ち合わせてないからな」


 軽く手を払い、グリア達に指名手配犯を連行させた。静かにドアが閉められると、小さなため息をついた。


「頭がいい奴だと思っていたが、案外、馬鹿だったな。ヴィサスの姫君に心を奪われたか……本当に馬鹿な奴だ」


 黒塗りの椅子の背もたれに体を大きく預けると、上を見上げた。


「スノウ国の王族の関係者か?」


 チェリは思考を巡らせていた。


 無傷ですぐに強制送還をと、今までにない強い要請だ。多分、教会を通じ、婚姻の記録がスノウ国に回り、厄介事を引き起こしたと問題になっているに違いない。


 単なる諜報員なら国籍を抹消し、別の諜報員に始末させるだけだろう。


「単なる駒ではないということか」


 それほどの者なら、戻されれば国から出れなくなるだろう。それなれば、下手に情を残させるのは酷と言うものだ。


「ヴィサスの0番の主力は、国のために生きる定めか……」


「哀れだな」


 必ずしも人は最適な選択をするとは限らない。


 側で守りたかったのなら、手に入れるべきではなかったのかもしれない。失う結果になることもある。


 それは、この男の見る世界ではあるが。


 

 




 


 



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