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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第4章 天陽の冥暗
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1.選ばれし者達

 アルデナ区のスメリアは祭りの様な賑やかさだ。普段よりも人の流れは多く。店はどこも繁盛にしている。宿はどこも満杯であり、野営をする土地も多く貸し出されている。


 普段では考えられない人の多さ、それは、インフィニタ軍の大きな集まりがあるからだ。各区の代表である主力が一堂に会し、1週間、主力会議を行われる。


 それぞれが力を誇示するため、競う合うように多くの兵を引き連れて来る。同じ国だが、区により兵の色は大きく異なる。


 エクセンが率いるアルデナ区は主催地なので、街の宿に泊まる者は少ない。体が大きく、見栄えの良い、戦闘能力が高い者が選りすぐられ、主力の周りを固まる。


 エレクトロが率いるボオラ区は、必要最低限の武官を連れてきていた。女性の主力のだけあって、メンバーの中には数名の女剣士が混ざっている。他区の無知な新兵が女だからと舐めて絡めば、特殊な闘刀を操る彼女達の餌食になる。


 ドゥーリ区のガンジスは国境に多くの兵を残しながらも、沢山の仲間を引き連れてやってきた。インフィニタ軍の中でも規律は緩く、兵の中には歌や踊りを楽しむ者が多い。アルデナの兵と比べると華奢な者が多い。しかし、彼らは軽い身のこなしと効果的な力の使い方を得意とし、決して侮られる者達ではない。


 ラカス地区からは2人の主力が出席する。チェリとヘルメースだ。チェリは主家の出身ではなく、庶民からの輩出である。その率いる兵は庶民出身者が多いが、主家から逃れた者も含む。厳しい統制が取られており、一糸乱れぬという言葉が相応しい。チェリの意向が末端まで共有できている。


 ヘルメースはラカス区の主家の出身。主家の内部がゴタゴタし乱れている。兵は多いが主力を守るのは10名にも満たない側近である。ヴィサスのグロリアをどさくさに手にしたと影で囁かれ、その存在を認めない者が多い。


 そして、今回、イエロズが率いるアウロラ区が珍しく参加している。今までは代理を数名しか派遣していなかったが、今回は大量の兵を引き連れている。品行が良く、紳士的なその集団はスメリアの民に尊敬されている。その美しさも多くの人々を惹きつけた。


 各区の主力が中央部に入った瞬間、政治的な駆け引きは開始される。それぞれの利権を巡り、協力関係を作ったり、陥れるために情報戦を繰り広げる。


「エクセン様、我々の分がかなり悪い状況です」


 エクセンの側近、シモンは自分達の動きが後手後手に回っていることを報告している。


「ラウダ様をガンジスから引き離し、中央部に置くことに賛同が得られない見通しです。いくつか怪しい動きもあるようです」


 エクセンは渋い顔をする。妻の誕生会以降、頭が痛いことが続いている。叔母のソリアが孫のタントウセイを次期主力に指名したと噂が流れたことから、それに合わせる様に、内部で忖度が始まっているのだ。エクセンの影響力が格段に落ちている。


「ラウダは見つかったか?主力会議の前に何としてでも会わねばならん」


「この地には到着しているようですが、ガンジスが隠しているのでしょう。ドゥーリ区の兵の中にはおりませんでした」


「我々の区なのだから、兵を動かし探せぬのか!?あの紅髪と瞳の色は1人しかいないだろ」


 エクセンは苛立ちを隠せない。ここ最近は、自分の思い通りにならないことばかりだ。


「各区が引き連れてきた人数が多すぎます。ドゥーリに至っては規律が緩いため、身だしなみが統一されておらず多様化が酷いです」

 

 捨てた息子に縋るしかない状況の父。因果応報とはこのことだろう。今や主力の座から落ちる間際だ。


「主力会議の場で会うことになるかも知れんな」


「一時的にもコンサス家に戻せる様に取り計ります。規律に従わせましょう。念のために教会にも手を回してあります」


「チェリとヘルメースに会議前に会えるようにしてくれ。エレクトロもだ」


 シモンは静かに頭を下げる。


 ガンジスには先に働きかけたが、早々に断りの返事が来た。むしろ、ラウダはエクセンと関わりのない者とまで言ってきた。向こうが欲しがる利権を餌にしたが、全くなびかなかった。


 父の記憶に残る息子は、まだ幼い子供のままで止まっている。触れ合ったこともなく、見知らぬ子供と言っても過言ではなかった。


 



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