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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第3章 儼乎なる玉桂
78/150

追伸 2

 明日は主力会議。カルティマの戦略をたてた軍師への聞き取りが行われる。そのため、アルデナのスメリアは活気を帯びている。主力全員が集まるということは、その側近達や部隊も集まるということだ。それぞれが威厳をかけて集結する。規模もなかなかである。


 ラウダ達はただ単に召集に応じるわけではない。それを機に主力として名を上げるつもりだ。そのための前夜、この大切な一夜は思いがけずに迷走している。


 一同は予想もしなかった事実を告げられ、各自が理解するのに時間を要した。


「ラウダ様!なぜ、私に相談もなく手続きをしてしまったんです!!」


 ピーノは表情は崩さないが、不快感を隠さない。相談していたら、真っ先に止めていたのは明らかだ。旧ヴィサス地区に赴き、下準備をしていてことを心の底から悔やんだ。主人から目を離してはいけなかったのだ。


「はぁ?マジか……ただモンじゃねえな……頭と行動力はピカイチ、つぅーのはマジだったか」


 ぶっ飛んだ新人だと思っていたが、ここまでとはウンブラも度肝を抜いた。こちらは事前に相談していても、その立場は不明……。


「まあまあ……とりあえずは、おめでとうでしょ!ラウダ、レオ、結婚おめでとう!」


 ガリは純粋に心から祝っている。この人は事前に相談しても応援してくれる派なのは聞かなくてもわかる。


「えー!結婚って!先寄越された!!彼女いないって言ってたよな?おい!抜け駆けか!!」


 旧友クラウドは悔しくてしょうがない!と床を踏み鳴らす。こちらは嫉妬から反対派か?


「いいじゃない!!久々のロマンス!!男はこうでなくっちゃ!!やっぱり?私のドレスが女を引き立てるのよねぇ〜痺れちゃったってやつ??」


デザイナーのカナメはこういう類の話は大好物。事前の相談を受けたら、基本、盛り上がる方重視だ。


「相談もなく悪かったと思ってる。最高のタイミングだった、後悔はしていない」


 レオナルドはピーノに向かって真っ直ぐに立つと、真っ直ぐな目で語りかけた。


「最高のタイミング?最悪のタイミングの間違いでは?我々は今から事を起こそうとしているのに」


「ピーノ、俺はこの国に残り、役割を全うするつもりだ。結婚は最後のワガママだ。認めてほしい」


 ラウダはピーノを見上げた。レオナルドと話し合い、インフィニタの主力としてこの地に残ることを認めてもらっている。


 ピーノは大きなため息をついた。結婚は契約だ、そんな簡単なものではない。まだ幼さが残る主人を恨みがましく睨め付けた。しかし、最も腹立たしいのは、我が君をさっさと手に入れた目の前の男である。


「まぁ、考え方によっては良いんじゃねえの?」


 ウンブラは酒を口に含むと面白そうに笑った。長年の連れのガリはその意味をすぐに汲み取る。


「あ!確かに!!アルデナのコンサス家、アウロラのサラストス家が縁談を持ち出さなくなるし!何だったら、女ってバラしてもいいんじゃない?もう、結婚してるんだし!!相手は明かさなくても、結婚証明は出せるでしょ」


「なるほどねぇ〜なんか政治的よね〜」


 カナメは政治的なことはわからないが。主力の結婚相手は重要事項なことだけはわかった。


「確かに、そういう面もありますが……相手がこの男では……」


 ピーノは目を細めると、レオナルドを値踏みする。才、色、体、技、揃っていると言えばそうだが、どことなく気に食わないものも感じる。


「レオは買いだと思うよ。優秀な男だし。堪えがきかないとこあるけど」


 ガリは軽口を叩くと、面白そうにその本人に目を向けた。


「で、レオナルド。お前はどうするつもりだ?帰国命令が出てるぞ。なおかつ、本業では処分ものだぞ」


 ウンブラは呆れると、恐れ知らずの元部下を戒める。


「処分は潔く受け入れます。その上で最善の道を探すつもりです」


 元上司としては扱いに困る男だ。この男のことだ、数手先のことまで予想(よん)でいることだろうが……。決断力の速さについていけない。


 自分にはない行動力。これだけの思い切りの良さがあれば、ウンブラは愛しい人を王に奪われることはなかったかもしれない————-。


 と勝手に後ろで解説を入れているガリ、ウンブラは酷い顔で睨みつけた。えへっ、と笑い返した。


「ラウダ様との結婚は認めます。しかし、夫婦としては控えてもらいます。貴方は娶っただけでも有難いと思いなさい」


 ピーノの小姑のような態度に、カナメは興味津々だ。愛憎劇の匂いがプンプンする。


「ラウダが女性であることを明かすのは得策ではないな。この国はまだまだ男が優位に立つ。戦場の命令系統で不利に働くのは目に見えている」


 ウンブラは真面目に意見する。


 自分がこの国で生きると選択した以上、ラウダの下にいることは遊びではない。主人に女を意識させることは歓迎すべきではない。戦場では鬼でも邪にでもならなければ負ける。


 しかし、ウンブラはそれとは違った見方もしていた。全く別の意味でもこの結婚を捉えている。17歳の少女。聡く意志の強い子だが、重圧に耐えるのは孤独だ。もし、その心の支えになるなら、伴侶がいてもいいのかもしれない。


 そういうこともあるだろ?と、ピーノの意識に働きかけると。ピーノは諦めたように溜息をついた。ウンブラの意見もよくわかっていたのだ。


「とりあえずさぁ、おめでたいことは置いといて。明日の申し合わせした方がいいんじんじゃない?」


 ガリの掛け声で皆の意識が明日へと向かう。



 明日は、主力会議だ。




 




ここまで読み進んでくださり、ありがとうございます。

次はいよいよ主力会議です。

この先もご一緒できたら幸いです。

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