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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第3章 儼乎なる玉桂
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16.主家の奥さま

 コンサス家はアルデナの太陽と言われている。代々、アルデナ区を守り、インフィニタにおいても影響力を保持している。一族の統制も堅固でお家騒動なんて有り得ない話だった。


 しかし、エクセンの代になってからは、それも揺らいできている。病死とされている正妻の死因は怪しまれているし、長男は継承者から外され、コンサスを引き継ぐ者は空席になっている。その空席を巡って一族内で争いの火種が燻り始めている。


 既にこうなることは予兆されていたのかもしれない、本来、当主の妻は裏方の存在であるが。エクセンの妻、グアバは表舞台でその存在感を誇示している。そもそも、愛妾が正妻に取って代わったことも歴代には無かったことだ。


 派手な生活を好み、散財する女は一族の統制を少しずつ壊していた。


 年に一度開かれるグアバ=コンサスの誕生会。恒例行事だが、今の代になってからできた行事に過ぎない。主家への忠誠度を測る催しと内々で言われているが、その本質はグアバの信頼を得る場であった。


 主席者のリストを検討していたグアバは、来客者の何気ない一言に表情を変えた。


「え?アメリがどうしたって?」


 グアバに問いかけられた女は、コンサス家に出入りする商人だ。命じれば何でも用意してくれる便利な女、物だけでなく重要な情報も持参する。


「お嬢様はドゥーリ区で他区の武人と噂になっております……」


「どうして、あの子が屋敷から出ているの!?あり得ないでしょ……」


 グアバはキッと睨むと、女に早く情報を出せ!と促す。女は頭を下げた。


「どうやら……ある男に会うためだったようです」


「誰なの!?」


「ラウダという、ドゥーリ区の宰相のようです」


「ラウダ……って、もしかして」


「はい、ラウダ=コンサスで間違いないでしょう」


 死んだと思っていた人間の登場に、グアバの顔が大きく歪んだ……。自分と息子の存在を脅かす子供……カランは殺したと断言していた筈だが……。


「どうして、アメリがあの子供に会うの!?」


「カラン様はお2人を婚姻させたいのかと……」


 グアバはそういうことか、と先日の弟の態度に納得した。自分と息子を侮辱し、切り捨てる発言をしたのは、娘を利用してコンサスを乗っ取るつもりだったからか……。


「噂とはラウダとアメリの恋仲の話か……」


「いえ、別の男です」


「なに?別の男!?」


「はい、ラカス区の主力チェリの側近を務める男が相手です。お嬢様はその男に片思いしているようです」


 街の噂になるほどだ、箱入り娘の姪は完全に心を奪われているのだろう。


「そうか、それなら姪の幸せを助けるべきね」


 ニタリ、とグアバは笑みを浮かべた。正直、姪がどこぞの男と駆け落ちしようが興味はない。あの憎々しい弟の子供など、どうなっても構わないのだが。脅威になるなら、芽は摘むべきだろう。


「相手の男の詳しい情報を用意して」


「承りました」


 グアバの頭の中で面白い計画が浮かんできていた。


「今回の誕生日の食事会は豪華にするわ。招待客も大幅に増やすから、その準備もお願いね」


 商人の女はニッコリと笑う。大量の受注が入った瞬間だ。


「毎度ありがとうございます」


「それと……ラウダの情報も用意して」


 その名前を出すのも腹立たしい、とばかりに吐き捨てた。


「カラン様の方はどうします?」


「あの男は別にいいわ」


「縁談のために動いているようですけど?」


「いいのよ、アメリは噂の男と婚約させるから」


「え?それは……どういう」


「宴会の場で、私が大々的に2人の婚約を告知するわ」


「カランは激怒しますよ……」


「アイツより私の力の方が強いことを思い知らせてやるわ!」


 グアバは鋭い目で女を制した。このコンサス家の内政を動かしているのは自分だ。自分に逆らえる者がいるはずがない。


「出過ぎたことを……失礼しました」


 女はしずしずと後ろに下がった。その様子を確認すると、グアバは満足げに腕を組み直した。そうだ、自分がこの家の権力を握っている。


「いいのよ?お前にはいつも良く働いて貰っているから。今回も良い働きをしてちょうだい」


 商人の女は深々と頭を下げながら、そのままその部屋から退室した。目で確認しなくても、ここの女主人の傲慢さは手に取るようにわかる。


 愛妾グアバ、正妻におさまって長いが、陰ではそう呼ばれ続け、蔑まされている。それはこの傲慢さゆえもしれない。蔑む者の多くはかつての正室、グロリアを悼む者は少なくなかった。控えめで表舞台には姿を現さなかったが、その聡明さは群を抜いていた。


 グアバが正妻についてから、一族が主家に贈る金品が増えた。散財する当主の妻への視線は冷ややかだ。おまけに長男は母親に似て、精彩を欠いている。弟のラウダが現れれば、コンサス家の断絶はさらに進むだろう。


(っーか!レオナルド……お前、無理矢理結婚させられるぞ……)


 商人の女は心の中で大きな舌打ちをした。さっさと帰国しない友、レオナルド=ロイドが心配でいられなかった。


 商人の女としてコンサス家に出入りしている、クラウド。美しく化粧をした男は、その姿とは裏腹に荒々しい思いを隠していた。


 全てはレオナルドの読み通りに事が運んだ。あの女はレオナルドが扮するルシートに招待状を送るだろう……。


(こんなクソみたいな家に関わるなよ!レオナルド)


 大切な友をあんな女に好きにさせるわけにはいかない。


 何としてでも、ぶっ潰す!


 クラウドは強い思いを胸にコンサス家を後にした。



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