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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第3章 儼乎なる玉桂
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1.深き森の民

 ヌーア族を後にし、荒地を難なく過ぎると、木々に囲まれた地にたどり着いた。ウンブラ達の最後の情報収集の地、アウロラ区に入った。


 荒地とは打って変わり、その地は雨だった。インフィニタでここまで雨と緑に恵まれた地はない。この国の穀倉地帯と言われるだけあって、田園風景が広がり、延々と森が遠くまで広がっている。


 時折、家畜が草を食べる様子が見える。


「豊かな地だ……」


 ラウダの口から思わず溢れた。


 とても美しい地だった。生まれて初めて見る光景だった。豊富な水が土地を潤し、青々とした植物が生い茂り、虫や動物がふくよかに育つ。道が開けてくるとアウロラの豊かさがさらに良くわかる。


「この区とドゥーリ区では格段の差がある。この区で普通の暮らしをしている者の生活水準は、ドゥーリ区の上流の民に並ぶ」


 ウンブラはラウダを面白そうに見ている。物珍しそうにキョロキョロしているのが可愛いようだ。


「この地は本当に美しい……」


 街の井戸を覗きながら、ラウダはその水の清み具合に驚く。こんなに美しい水なのに奪い合いになっていないのが不思議だ。


 しばらく様子を見ていたが、誰が汲んでもいいようだ。それも無料で。現にラウダ達、余所者が水を飲んでいてもお金を取られることなく、叱られすらしない。


 ドゥーリ区では金を出さなければ飲み水は得られない。余所者となれば、さらに困難になる。ツテを頼らなければ水源まで行き着くことすらできない。


「地の利でこんなにも違うものなのか……」


 このような地がインフィニタに広がれば、貧しくて命を落とすものはもっと減るに違いない。


「この街の先には俺たち余所者は進めない」


「え?」


 ガリの言葉にラウダは聞き返す。この街の先にも広い石畳の道が続いている。これだけの広さの道があるのは、この先はさらに開けているということだろう。


「この区は豊かな場所だが、閉鎖的で管理されている。お前の住んでいた街のように出入り自由の地とは違うんだ」


 ガリはラウダを諭す。


「この先はアウロラの民と主家から許可を得た余所者しか進めない。俺達はここで僅かなアウロラの情報を得ているだけだ」


 ウンブラは面倒臭そうに煙草をふかしながら、補足する。さらにラウダを諭す。


「見えるものだけを真実だと思うな。本質はそんなに簡単なものではない」


 ラウダは目を開く。


「なぜ?この地だけがこんなに豊かなのか?」


 なんと聡い子だろうか……。ガリはラウダがウンブラの真意の核心に早くも触れようとしていることに舌を巻いた。


「……そうか。その恵みを他区に分け与えていないともいえる……」


 ラウダは口を指で押さえた。


 アウロラは中立だと聞いたことがある。いや、むしろ他区とは一線を隔し、主力会議も滅多に顔を出さないとボオラ区の主力、フォルテからの話を思い出した。アウロラは自区外のことに関心を示すのほとんどない。


 ラウダに会うため、ファミリアが来たのはアウロラにも関係がある人物だったからだ。そうでなければ、わざわざ赴くことなく、その命を守ろうとはしなかっただろう。


「お前はこの地に来るべきではなかったかもな」


 ガリは気の毒そうな表情を浮かべている。少なくとも、なるべく早くこの地を去るべきだろう。


 街の様子を注意深く見ていると、通常とは違う動きに気がつく。いつも以上に身分確認が厳しく、平装をしているが、何人か軍人が街のものに紛れていた。


 だからといって、自分達を拘束するわけでもなく。追い出すわけでもない。何らかの情報を得ており、誰かを探しているのは明白だった。


「ガリ、()()は終わった。さっさとズラかろう」


 ウンブラは着いて数時間でそれを感じとったようで、予定より早く帰る支度を始めていた。ラウダも嫌な予感がしたので必死に手伝った。


 その読みが当たったようで、区を出る直前に車を止められた。


「そんなに早く戻られなくても」


 礼儀正しく挨拶をし、和やかに微笑む男。とても見覚えがある男が、従者と共に道を塞いだ。


「父イエロズが、ラウダ様にお会いしたいと申しております」


 正装に身を包み、とても美しい男。


 アウロラ家の主家の長男であり、次期首領であり、主力を継ぐ者。


 ファミリア=サラストスは、真っ直ぐにラウダを見つめていた。



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