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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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25.アウロラへ

 ヌーア族の要塞で5日過ごした。その間、ウンブラとガリもカカルに呼び出され、それぞれの家族の記憶を語られた。


 ウンブラに至っては、父親を恨む心を完全には治癒するには至らなかったが。父の覚悟と守ろうとしたものには一定の理解を示すようになっていた。子供の頃には理解できなかったが、40も半ばに差し掛かるとわからんでもない、と言うのが正直なところだった。


 ガリは持ち前の人当たりの良さで、すっかり民衆に馴染み、作業の手伝いまでするようになっていた。どこでも重宝がられる彼は、このまま住めばいいのにと誘われている。


 ラウダは子供達相手に剣術と学問を教えるようになっていた。この地の子供達は知識欲が凄まじく、多くの子がラウダの周りに集まっていた。


 ラウダはいくつかのグループに分け、読み書きなどの基礎学力中心、簡単な数学と化学を学ぶ組、発展応用を考える組の間を行き来していた。


「ラウダ先生!次は俺!!」


 簡単な計算の子供が声を上げると、ラウダは上級組の子に声かける。


「君がやっていることの根本は、あの子が今躓いているところだよ。君が行って簡単にわかるまで教えてあげなさい。そうすれば、君の課題の解き方が見えてくるはずだよ」


 ラウダの提案に、少年は頷くと下の子の元へ向かう。それは的を射たアドバイスで、2人の子供達はお互いに納得する結果を得た。


 ラウダが声をかけた少年は聡明な子供である。最初の段階で多くの潜在能力を感じさせた。


「ラウダ様。子供達を見て頂き、ありがとうございます」


 この地で読み書きを教えている女性が話しかけてきた。


「いえ……この子達の意欲が凄まじいので……」


 ラウダは苦笑いをする。


 ヴィサスの生き残りだと聞きつけた子供達に囲まれたのだ。この子達にとっては、ヴィサスの知性は伝説であり、信仰に近いものになっていた。


「カマルは聡い子で、学びが深く、私ではもう手に負えないのです。できれば、もっと良い環境で学ばせてやりたいのですが……」


 カマルの瞳は真っ黒であった。強い言霊の力を持って生まれていた。


「不憫だな。才能があるがために、外に出れないとは……」


 女はキョトンとした表情を浮かべた。


「貴方様は()()()を才能と呼ぶのですか?」


 それは信じられない言葉だった。この地の外では穢れた力だと恐れられ、この地では障害として見られている。


「そうだろ?立派な才能だ。他の者にはない力ではないか?」


 ラウダはカマル少年を優しく見つめながら、さらに言葉を吐いた。


「力というのは使いようだろ?お前達の作る薬と同じでは?」


 ああ、そうか。


 女は腹落ちする。使い方次第では薬にでも毒にもなる。要は使い手の問題だというのだろう。


「この国はまだ出すには危ないか……。何とかしてやらねばな……」


 ラウダはカマル少年に自分を重ねていた。隠れて暮らさなければならない身の上。そこには見通せる未来は少ない。


「数年前に1人、カマルのような子をアウロラに留学させたのですが……行方不明になってしまいました」


 アウロラは良心的な国だが、それでも普通には受け入れられなかった。この地の存在を知られぬために、連絡を取らないのか、取れないのか……。そもそも、生きているかもわからない。


「それでは心配で出せなくなるな……」


 こんなに長い時間が経っても、彼らはまだ安全に国の中を巡ることはできない。その現実が胸に重たくのしかかる。


「ラウダ様はどうやって多くを学んだのですか?」


 この人は流浪の日々を送ってきた、と他の者がしていた噂話を小耳に挟んだ。主家の血を引くが、酷く苦労した方だと。


「幼い頃は母から学んだ。母が亡くなってからは、祖父から学んだ……」


 父のエクセンは、家庭教師を自分にはつけさせなかった。幼いながらに、父は母に対して何らかの嫌悪感を持っているのを感じた。


 自分がエクセンの父、コンサス家の祖父の前で学問について問答をすると、父のその嫌悪感が自分にも向かってくるのを感じたものだ。


 今から思えば、あれは嫉妬に近いものではなかっただろうか。


「ラウダ様?」


 何かを考え込むラウダに、余計な質問をしてしまったのかと女は気をもんだ。


「あ、いや。何でもない。ある程度基礎が固まれば、後は書籍などから学ぶこともできる。書籍を多く仕入れるといい。おすすめの本は後でメモで渡すよ」


「ありがとうございます」


 女は深々と頭を下げた。


 そして、聞いてもいいものかと悩みながら、控えめに口を開いた。


「これはあくまで、私の希望に過ぎないのですが……」


「なんだ?言ってみろ」


「私はラウダ様が主力になってくだされば……希望が生まれると思っています……」


 深々と頭を下げる。相手にその気はなく、むしろ負担に感じているのは重々承知だが。諦めるには惜しく、未練が残ることである。


「……そうか。そう願うか……そう言って貰えるのなら……考えねばな……」


 ラウダは苦しげに微笑んだ。


 そして、頭を下げる女に声をかける。


「行方不明の子供の名前を聞いてもいいか?」


 不意の質問に、思わず女は顔を上げた。


「……タオ……タオと言います……」


 ラウダは小さく頷く。


「我々は明日、アウロラに向け発つ。向こうでその名の子供がいないか調べてみるよ。歳は?」


「……今は21歳になっていると思います」


 女の目に涙が溜まっていた。


「……私の……息子です……」


 ラウダはやはり、と頷く。その子供の話をするこの女性があまりにも悲痛な表情を浮かべたので、もしやと思ったのだ。


「タオだな。わかったよ」


 女は再び頭を大きく下げた。その肩は小さく震えていた……。


 


 

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

読み進んでくださり、感謝です。


次はアウロラに向かいます。

サラストス家のイエロズやら、息子のファミリアが出てきます。


引き続きよろしくお願いします。

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