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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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20.隠れた村

 ディセプティオを先に発ったラウダ達は、アウロラ区に向かっていた。ウンブラ達の最後の調査地である。


 アウロラ区は広大な穀倉地帯を持ち、インフィニタだけではなく、他国の食糧庫も支えている。北に向かって伸びる果てしない森林、豊富な木材はこの世界の市場価格を動かしていた。


 長年に渡るアクア国からの侵攻は、これらが深く関わっている。


 ラカス区を抜け、ボオラ区に入り、アウロラ区へと抜けようとするその中間地帯は、荒地と呼ばれている。果てしない枯れた土地が続き、雨も滅多に降らない地域だ。それ故に命あるものは存在しない。


 生気に満ちたアウロラ区の目の前に、死の地と称される荒地が存在することは、誠に奇妙なことである。それらはクッキリと区切られるかのように分かれていた。


「ウンブラ、まずいよ……荒地に閉じ込められる」


 ガリは空の行方を見ながら、車をひたすら走らせている。ウンブラも後部座席から空を見上げた。


「珍しいな、嵐が来るか?」


「多分ね。大きいやつだとヤバい」


 割れた地面だけが延々と続く、避ける建物や木などは何処にもない。このままでは、暴風をダイレクトに受けることになる。


 空模様は奥に進むにつれ、さらに悪化していく。行く先は真っ暗闇だ。そして、不運にも、アウロラ区まではかなり距離がある。


「戻らないの?」


 助手席からラウダが後方を覗いた。


「無理だね。後ろは既に真っ暗で、むしろヤバい。俺達、完全に嵐に囲まれてる」


 バックミラーも注視しながら、ガリはハンドルを握る手に力を込める。


「前も後ろも囲まれたか……八方塞がりってやつか。車を止めて、中でやり過ごすか?」


「やめた方がいい。あの空の様子と広がりの速さから考えると、かなりのエネルギーを帯びている。この車では持ち堪えられない」


 ラウダは頭の中で計算式を組み立てていく。何度解いても、破壊的なエネルギーを弾き出した。


「天に祈るしかないのか……」


 社内に重苦しい空気が広がる。人は英知を得たとしても、自然相手にはどうもできないことは残る。


「北北東に向かってください」


 ウンブラは横に座る男に目をやった。


 黒髪とエメラルドの瞳を持つ、色白の男。先日、ラウダとレオナルドが神殿から連れてきた。人に見えるが人ではないらしい。アンドロイドだというが、その形を自由自在に変えることができるという。


「ピーノ?どこに向かわせるつもり?」


 ラウダは後部座席に振り返る。無表情の男は普通に口を開いた。


「北北東先に、村があります。ウルティマーテ様の視察地の1つです」


「え?聞いたことないけど?」


「はい、ラウダ。地図にはない場所ですから」


「地図にはないって、どういうこと?」


「ウルティマーテ様が隠した村です」


「どうして?どうして隠すの??」


「闇の言霊の民が身を寄せている村だからです」


 ウンブラは横に座る男を驚いた目で見返した。


「呪われた民族か?」


 伝承レベルの昔話だと思っていた。いや、おとぎ話程度かもしれない。今ある5民族とヴィサス族の他、実はもう一つの民族が存在したと言う話だ。


 呪いの言葉を操る穢れた民族、ヌーア族だ。あくまで人々の話の中だけで存在する民族で、実際に確認したという事実は聞いたことがない。


「まさか……誰にも知られずに存在することなど不可能だ」


 ウンブラは信じれないと口から溢す。


「ウルティマーテ様が隠したのですから、見つかるはずがありません」


 ピーノにとっては、これは単なる事実。驚く人間達を理解する方が難しい。


「わかった。そうだとして、私達にも見つけることはできないのではない?」


 ラウダの質問にピーノは頭を振る。


「いえ、ヴィサス族、0番の主力なら可能です」


「俺?」


「そうです、ラウダ。貴方ならその村に我々を入れることができます」


 ガリは言われるまま、ひたすら北北東に車を走らせる。


 この訳の分からない男に従うのは癪だが、他に道はない。それに、不思議なことに、この北北東ルートは思いの外快適であった。嵐はココを避けるかのようであり、道を空けてくれるかのようでもある。


「ウルティマーテ……」


 祖父にあたる人だという。彼の記憶の一部を持っているが、未だに知らない人だ。彼が隠したという村。何を隠したかったのだろうか……?


 ラウダが目を凝らすと、遠くの方に高い壁に囲まれた大きな要塞が見えた。嵐の中にあっても、その場所の空だけ緩やか流れている。異様な光景だ。


「見つけた。ガリ、そのまま真っ直ぐだよ」


 ガリが何もない先に目を凝らす。


「どこ?何もないけど??」


 ラウダはそうだ、と思いつく。誰に教えられるわけでもなく、それを今はわかっていた。そっと自らの左手をガリの左肩に乗せた。


 ガリの目が一瞬ぼやけると、次の瞬間、それは現れた。


「えっ!いつの間に!?確かになんかある!!」


 ガリが興奮する姿をウンブラは訝しげに見つめる。気でも触れたか?と心配になった。


 ラウダは右手をウンブラの左膝は乗せる。


「なっ……」


 急に膝を触れられ、一瞬驚いたが。その意味はすぐにわかった。


 ウンブラの目にも、それが見えた。


 大きな要塞のような場所、隠された村である。


 


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