表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
43/150

17.もう1人の上司

 ラカス地区の主要都市、ディセプティオ。4番の主力、チェリが統治している地である。そこの4流宿屋に4人の男達が集っていた。1人は身なりの良い軍人、ルシート、チェリの側近である。あとは外国人2人とこの国の少年1人。


「変わった組み合わせの奴らだね」


 タバコを吹かしながら、その宿の主人である老婆は数日滞在している客を思った。面倒事はごめんだから、大抵は客の素性など気にすることはしない。金を払い、さっさと出ていけば問題ないのだ。


 あの客は明日朝には発つらしい。それならば、これ以上の詮索は不要というものだ。


 プファー


 真っ白な煙を口から吐き出す。小汚い宿で特に取り立てて優れた点は無いが、客の素性や行動を詮索しないのは唯一の長所だろう。


 婆さんが吐いた煙は風に乗って空へと向かう、上に登るほど大きく広がり白い煙はどんどん薄くなっていく。それはゆっくりと上へ上へと舞い上がり、客の窓へと到達した。


「厄介な同行者が増えます」


 ルシートこと、レオナルドがウンブラに報告する。


 2階の客室には2つのベットと2つのソファと机のみ。ウンブラとガリがベットを陣取り、ラウダとレオナルドがソファにそれぞれ座っている。小さな部屋に広がる年功序列。


「はぁ?また、面倒事を引き受けたな?」


 不機嫌そうにタバコを吐かせながら、部下を冷たく睨め付けた。


「カラン=プロディの娘をアルデナまで送り届けるようにと命を受けました。カランの姉のサファイア絡みです」


「サファイア……」


 ウンブラは思いっきり嫌そうな顔をする。ガリは苦笑いをした。


「あの姐さんが絡むんなら、チェリも動くよね。なにせ、そこそこの商団を率いる人だからね……敵に回すと厄介だ」


 ラウダは自分とは関係無さそうな話だと興味がそれ始めた。それをレオナルドが敏感に感じ取った。


「その娘はラウダの嫁候補らしいよ」


「はぁ?」


 ラウダは慌てて前のめりになる。


「嫁ってなんだよ!?」


「いやさ……それより先に……カラン=プロディの娘に反応しないわけ?」


 焦るラウダを遮ったのは、ガリだ。そのガリの言葉にキョトンとしているラウダにガリは諭すように話す。


「まず、グアバ=コンサスは知ってるよね?」


「……あぁ……アイツの女だよな……」


 アイツとはラウダの父、エクセンのことだ。母を思いやるどころか、無関心で見捨てた男。その男が唯一愛した女は、グアバだ。その愛した女は醜悪で、母を殺し、自分を追い詰めた。


「カラン=プロディは、グアバの腹違いの弟だよ?」


「……その娘は……グアバの姪なのか!?何でそんな子と俺が!?アイツらは俺を始末しようとした奴らだぞ……」


 ガリは気の毒そうな顔をする。


「お前がカルティマの大勝利を起こしたからだよ。それに……お前の兄、アシオスが出来が悪すぎて主力を継げないからだ」


(つまり、急に自分が必要になったということなのか?)


 それは酷く勝手なことのように思える。それに、あの女が息子を差し置いて、自分を当主に迎え入れるとは思えない。


「あの女が許すはずもないし、俺が受け入れるわけないだろ」


「そこは、カラン=プロディの独断じゃないか?アイツが考えそうなことだ」


 興奮したラウダを鎮めるかのように、ウンブラの静かな声が響いた。


「お前はヴィサスの生き残りで、賢く、酷く出来がいい。なおかつ、コンサスの血を引いていて、プロディ家との血縁関係はない」


 その静かな声は、残酷なくらいに本質をついていた。


「お前と娘が結婚し子供を得れば、コンサス家は手に入るし、プロディ家にヴィサスの血が入るとでも思ったんだろ」


 言い終えると、レオナルドを呆れた目で見つめた。


「で、お前。娘の身分をラウダに明かしてはダメなんだろ?」


 レオナルドは苦笑いをする。この上司は何でもお見通しのようだ。そうだ、先方は身分を隠した上でラウダに近づき、その心を得ようとしているのだから。


「ラウダがあの娘に惚れることはないけど、知っておいた方がいいと思った。余計な情報が相手に流れるのも避けたい」


 ウンブラは軽くため息をついた。


 この教え子はこの国の根幹に深く入り過ぎている。確かに、このラウダはこの国の核になるかもしれないが、そっちに大きく偏り過ぎるのは自分達の本分ではない。


「ラウダ、お前は覚悟を決めろ。周りは待ってくれないぞ」


 ウンブラの静かな声が部屋に広がる。ラウダが自分の道をハッキリさせない限り、ウンブラ達もどうすることもできない。


「……まぁ、ラウダは病み上がりなんだし。神殿から戻って熱が下がったのは、昨日じゃないか?」


 ガリはラウダを気遣うように控えめに声をかける。レオナルドに目配せした。


 それに応え、軽く咳払いをすると話を仕切り直す。


「とりあえず、皆さんは予定通りに残りのスケジュールを消化し、ネゴシウムに戻ってください。そうしたら、ガンジスに呼ばれるでしょう」


 はぁ?という目で、ウンブラがレオナルドを睨め付ける。


「ガンジスの宰相として、ラウダが主力会議に呼ばれています」


「遂にか……」


 ガリは小さく頷く。


「俺はプロディ家の娘の護衛をすることになりました。その娘は体調を崩しているので、中間地で待ち合わせ、後で合流します」


「アルデナ区の手前、ドゥーリ区のクロックスで合流だな」


 ウンブラの提案にレオナルドは頷く。クロックスはそれほど大きな街でもなく、自分達が目立ち過ぎるほど小さな街でもない。ウンブラ達の協力者も多い街だ。


「レオナルドは俺達とは行かないんだな……」


 ラウダがぽっりと呟いた。


 最初は気に食わない奴だったが、今はそばにいないと淋しい気がした。助けてもらったことで、情が湧いたのかもしれない。


「あぁ、なるべくプロディ家の娘をお前に近づけないようにするから安心しろ」


 ウンブラはさらに呆れたような視線をレオナルドに向け、それを察したガリが口を開く。


「お前さ、その娘を惚れさせるなよ。事態がもっと厄介になるからね」


「え?」


 それはレオナルドの声だったが。声に出さなかったが、ラウダも同じように反応した。


「箱入り娘にお前はキツイと思うよ。チェリってさぁ、なかなかの方だよね」


「チェリの次は、プロディ家からお前を寄越せと言われるのは勘弁だ。側近の次は、婿入りとかないからな」


 ウンブラは、もうウンザリだという表情を浮かべる。


 どうしてこの新人は大人しくしていないものか。


「さすがにそれはないでしょ?」


 レオナルドの呑気な返事に、上司と先輩が同時に睨む。この男はそっちの方は勘が鈍いようだ。


「プロディ家の娘は、俺の問題だ。俺が対処するから余計なことはしないでくれ」


 ラウダは表面上は冷静さを保っているが、なぜか心はザワザワしている。その娘がレオナルドの側にいることが嫌な感じがしてならない。グアバの姪だからだと思うが……。


「……そうだな」


 その他人行儀な態度に少し淋しくなった。


 最近、ラウダのテリトリー内に入れたと思っていたのだが、また元に戻ってしまったのだろうか?


「とりあえずは、明日からは別行動だな」


 ウンブラがそう締めくくると、懐から酒を出し、口に運んだ。


 終了の合図だ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品はこちら 作品一覧 良かったら読んでみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ