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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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14.相続するかどうか

『これは、ウルティマーテが残した記憶です』


 ラウダは眩しい光の先に目を凝らす。先程の神殿の映像が消え、真っ白で何もない空間に立っている。頭は大量の情報でくらくらきた。


 そして、今度は目の前に、先程の少年が立っている。


「はっきのスペッサって、元6番の主力だった人だよね?」


『はい。私を作った方です。私は彼の兄、ドゥボの少年時に似せて作られました。ヴィサスの知性、情報が全て保管されています』


「俺が受け継ぐってどういうこと?」


『ウルティマーテは僅かな希望にかけました。生き残ったヴィサスの末裔が主力になる未来にです』


「俺はヴィサスの純血ではないし、ヴィサスの主力になるかもわからない」


『ウルティマーテの記憶がある貴方ならお分かりでは?あの方は他区の主力になることを受け入れるでしょう。ヴィサスの知が人々の幸せに役立つのなら、それでいいと言うはずです』


 確かにそうだろうな、と変な納得してしまった。実際には会ったことはないが、確実に自分の記憶の一部になっている。


『それに、それを貴方に押し付けない方でもあります。貴方が手放せば、私とウルティマーテの記憶は消えます』


「俺に選べって言うんだな?」


『答えを探しに来たのでしょう?その答えがこれです』


 ラウダは正直わからなかった。母の故郷を見てみたかった。ここに来れば何か変わるかもしれないとは思ったが……。


『ヴィサスを相続するかどうかお決めください』


 何も残ってないと思ってやってきた。こんなに重たい遺産が残されているとは予想もしなかった。


「とても決められないよ……」


 少年はラウダの瞳をじっと見つめた。その脈拍、身の動き、息遣い、汗、それらを冷静に分析していた。


『それもそうでしょう。今すぐにとは無理でしょう』


 少年はラウダの頬に触れた。


『貴方の神経細胞は限界にきているようです。仲間の男が貴方のことを心配しています』


「ルシート?」


『多分、それは正しくはない。貴方はそう呼ぶが、あの男の反応は僅かに遅れる。仲間の男はルシートではない』


「他国の傭兵だ、偽名も名乗るだろう」


『特徴からすると、スノウ国の男ですね。身分を明かせない者。そして、貴方を想っているようです』


「は?」


『脈絡や熱量などから判断しました』


「まさか……」


『筋肉、反射的な動き、目の動き、思考スピード。よくできている。貴方のそばに置いて損はない人物です。安心してください』


 ラウダはドギマギした。冷静な分析の大半より、想っているという言葉に心が動揺した。なぜ、こんなにも動悸を打つのかわからない。


「そばにって……彼は俺の従者ではないし。一時的に一緒にいるだけだ」


『——そうですか……それは残念です』


 なにが?と聞きたかったが、なんとなく聞けなかった。確かに最初は気に食わなかったが、今は特に気にならなくなった。むしろ、そばにいると心地よい気すらする。


(しかし、他区の主力の側近だ……それに、あいつが本当は何者か知らない)


『貴方とウルティマーテは血縁関係ですね?グロリアの娘と判断しました』


「そうだよ、性別までわかるんだね」


『はい』


「俺は男として生きている。外では女では駄目だ」


『………承知しました』


 少年は軽く頭を下げる。


 その理由は問わなかった。大した問題ではないと思ったのか。興味がないのか。大体、予想がついているからか。


『貴方が答えを出すまで、私も貴方のそばで見守ることにします』


「え?」


『貴方に答えを出して頂かないと先が決まらないので』


「なんか、悪いな……」


『いえ、お気になさらず』


 少年はラウダの手を取る。


『この意識の中から出ましょう。貴方の精神が崩壊してしまいます』 


 ラウダは少年の緑色の瞳を見つめた。とても懐かしい気持ちになる。ウルティマーテの記憶の影響だろうか?


 美しい川と自然に囲まれたこの地が浮かんだ。穏やかな人達、知恵と理性で生きた民族。ヴィサスの風景が目の前に見える気がした。


 妻と娘をアウロラに送ったウルティマーテ。祖父の記憶だ。


 スペッサ達は目的地に辿り着いただろうか?


 他の道はなかったのだろうか?


 そして、アクアの爆撃のエネルギーを利用し、旅立ったという事実。


 それらは知られることのなかった真実。


 全ては過去の話に過ぎない。


 ラウダは気を失うように瞳を閉じた。頬には彼の手の温もりを感じる気がした。







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