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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第1章 インフィニタの夜明け
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4.秘蔵の子

「策士なんて、どういうつもりだよ……。軍服まで着せてやり過ぎだろ〜」


 テルビス達が帰った後、ラウダは椅子にふんぞり返りながらサドを睨んでいる。


「なかなか様になってたぞ。やはり、血は争えねぇな」


「何言ってんだよ、俺は街のどぶネズミで十分だ。頼むから、面倒に巻き込まないで下さいよ」


「ハハハッ!どぶネズミ結構!アイツらの慌てた姿は面白かったわ!久々に楽しんだぞ。おまけにいい買い物になった」


 サドはご機嫌に応えると、女給に手を振り合図した。すると、次々と食事が運ばれる。ラウダが食べたかった羊の肉もあった。


「おっ!肉!!食っていいのか!?」


 サドが返事をするより先に、ラウダは手づかみで肉を口に放り込む。空腹で限界だった。


「さっきとは大違いだな……品がねぇ」


 サドは呆れた顔をすると、テーブルに肘をついた。


「お前、いつまで便利屋するつもりなんだ?ウチでも他の商団でも、軍でさえもやってけるだろ?」


 ラウダはそれには答えずに、次々と肉に手を出した。


(なかなか食べれない上級の肉だ、今のうちに蓄えておかないと)


「通訳としても、お前ほどの力量がある奴は少ない。それを生かして、もっと割のいい仕事をしたらどうだ?」


「大した能力ではないだろ?生きるために身についただけだし、今の仕事は気楽でいいよ」


 ラウダの会話能力は、大人達の話を盗み聞きして身につけたものだった。誰かに習ったわけではない。貧しい子供は食べるために必死だった。


「いつの間に銃の種類まで覚えた?」


「……」


 ラウダは答えずに肉を胃に流し込む。何でもこの男に話せるわけではない。この町のボスで面倒見はいいが、全てを預けられるほどの保証はない。

 

「まぁ、便利屋だから何でもやるわな」


 ラウダは黙って、パンを手にするとガッガツ口に放り込む。その様子を見ながら、サドは女給に合図した。


「じーさんにも持って帰ってやれ」


 女給はお持ち帰り用に詰め始めた。


「ありがと」


「礼は言えんだな。金も一緒に持たせる。悪いことはいわねぇ、銃を扱うような仕事を受けるなよ」


 ラウダは口をいっぱいにしながら睨む。お前が言うか?のいう視線だった。それを汲み取ると、サドはニンマリと笑う。


「俺は別だがな」


 ラウダは果物を手にすると、それも口に運ぶ。飯も金もお土産まで貰えた、変な奴に顔を覚えられたが、まぁボチボチと言うところだろうか。


「俺、しばらくこの町を出ることになったわ。テルビスとか言う奴の商談はしばらくないだろ?」


「は?何言ってんだ!」


 サドは大きな舌打ちをする。通訳は他にも沢山いるが、機転が効いて扱い易い者は少ない。それに上客に張り合うだけの演じ分けができるものは皆無だった。


「ジジイの頼みでガイドをすることになった」


 ラウダは興味が無さそうに話す。ジジイの旧友が遊びに来るらしく、その人達の案内をするようにと言われた。


「ガイドって……他の奴でもいいだろ」


「ジジイは絶対なんだよ」


 家族のことなら口出しはできない。ラウダの祖父は盲目だ。友を案内することなどできないだろう。それなら孫にと言うことになるのはしょうがない。


「町を出るって、どこに行くんだ?」


「さあね、行きたいところに連れてってやれって言われたから。主要区でも行くんじゃね?」


「主要区って……お前!」


「大丈夫だよ。俺のことなんて誰も覚えてないだろ?」


「アルデナに行くんじゃないだろうな?コンサス族の愛妾グアバに生きてるが知れたら、殺されるぞ」


 ラウダは、その女の名前が出るだけで怒りを覚える。母を殺した女だ。そして、その女の隣には父がいる。


「アイツらは俺の存在なんて忘れてるさ。ちょろっと案内して、観光して帰ってくるわ」


 サドが訳ありの2人を受け入れ、10年になる。こう見えてもラウダは16才だ。コンサス族は今のインフィニタを率いる筆頭民族、その主家の当主の息子がラウダだ。本来なら盛大に成人の儀を迎え、後継者になっていた。


「父に会いに行かないのか?」


 ギロリと厳しい視線が飛んできた。予想はしていたが、よほど嫌っているようだ。


「ありえない、何の関係もない奴だ」


「ならば、ヴィサスを継ぐ気もないのか?」


「今さら何言ってんだよ。滅びた民族だろ?」


「区を出ていて、たまたま助かった者はいるはずだろ?」


 ラウダはそれにも頭を振った。ヴィサスはアクア国に滅ぼされたが、それだけではないと自分は思っている。内部から手を貸した者がいるはずだ。見える情報だけを信じるほど、生優しい世界に生きてきたわけではない。


「ヴィサスを再興するのは望まれてない、必要ないだろ」


 サドはギクリとする。


(相変わらず、鋭い洞察力だな……)


 失ってその存在の大きさを知ったが、賢明で崇高過ぎる民族を妬み、疎ましく思う者もいたようだ。光が強すぎれば、陰もまた濃くなるものだ。


(しかし、この子はいずれ、引っ張り出されるだろう)


 サドは綺麗な顔をした少年を憐れんだ。影に隠れるには光が強すぎる。母親の血が強いからだろう。


「お前の母はヴィサス族の主家の姫君だったな?」


「あぁ、そうだよ」


「どんなにか悔しかっただろうな、故郷を失ったときは……」


「だろうな」


 自分はまだ幼なく、母の記憶はあまりない。笑っている顔しか覚えていないが、母は実家の後ろ盾が無くなった途端、不遇な扱いを受けたと言う。妾のグアバ側に着いた家来に命を奪われた。

 

「じーさんはお前の命の恩人だったな……気をつけて行けよ。何かあったら俺を頼れ」


 ジジイは、ヴィサス族からの母の護衛だった。きっと愛していたのかもしれない。自分を連れ逃亡し、命を守るために両目を失った。それでもなお、母の命日には花を買いに行く。欠かさずだ。


「ありがとうございます」


 ラウダは椅子から立ち上がると、深々と頭を下げる。この男にも借りがある。厄介者の子供をかくまうどころか、似た年頃の死体を二体用意し、事故に見せかけて追撃者を諦めさせた。


「おっ?素直じゃねぇか。俺はウチの町民には優しいからな」


 サドはフフッと笑う。


 この男は気まぐれな男だが、心眼は確かだ。この少年は守るべき価値があると一瞬で判断した。この国を動かす一人になるだろうと。


 それだけに、(まと)う光が眩しすぎた。




この話を読んで頂きありがとうございます。

天の雫も良かったら……。

ちょろっと宣伝してみました。

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