表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
38/150

12.記憶の石

 ラウダから少し遅れてレオナルドが続く。神殿と言われていた場所にはその面影もなく、ただ石畳が向こうまで続いている。至る所に崩れ去った白い大理石が山のように連なっている。しかし、不思議なことに草どころか、ゴミ一つ落ちていない。明らかに人の手が入っていた。


(誰かが定期的にここに来ているみたいだ)


 ラウダは周りを見渡しながら、確認する。祖父に聞いたことがある。ヴィサスの知性は、全て神殿に集約されていたと。


「既に持ち出されたのかな?それとも、戦いで破壊されたか……」


 石畳の上をさっきから何周も回っている。変わったところはなく、せっかく来てみたが得られるものは無さそうだ。


「そもそも、知性ってなに?書物か書類か?何らかのデータ?絵画?彫刻とか?」


 立ち止まって考え込むラウダをレオナルドは黙って見守っている。あくまで自分はラウダの護衛、立場はわきまえている。しかし、離れて歩いているからこそ見える世界もある。


「ラウダ!右奥にもう一度行ってみたらいい」


「え?右奥?」


 言われた場所を見てみるが、相変わらず、ただの石畳しかない。


「瓦礫の位置から考えると、あそこは神殿の1番奥だろう。通常は信仰の対象を安置する場所だ」


「そういうものなのか?」


「大抵はそうだ。それに、大理石が使われているが、あの辺りは少し石の種類に違いがある」


 ラウダは歩いて近づくが、その違いはよくわからなかった。幼い頃から大理石の建物に囲まれて育ったレオナルドだからこそ、違いがわかるのかもしれない。

 

「ルシート、他に何かあるか?」


「あるよ。ラウダが歩くと、石の色が微妙に変化する場所でもある。君の何かに反応している」


 ラウダは身の回りを確認する。あり得るとしたら……0番のグロリア??


「ルシート、一緒に来て」


「わかった」


 ラウダは腰からグロリアを外し、石畳にカツンカツンと当てながら歩く。


「この一角だけ違う種類の石だ。模様も彫られている。溝が綺麗に掃除されている、他の誰かもここが特別だと思ってるみたいだ」


 今度はレオナルドが考え込む。


(既に気づかれて持ち出された?いや、それなら掘り出されているだろう……)


「ロナウドなら、どう考える?」


「ロナウド?誰?」


 ラウダの問いかけにも答えず、ブツブツと呟きながら考え込む。


「もし、存在するとしたら、誰の為に残して誰に開けてもらいたい?ヴィサスの民だろうな……いや、もっと絞るだろ…本家?血筋か?」


 ブツブツ言う男の横に立ちながら、模様の場所にグロリアを立てていく。薄い青い光が見える気がした。模様をよく見ると、鳥と水と空白。


「青い鳥……」


 鳥の模様と水の模様の交差する場所、その空白にグロリアを立ててみる。


 パリパリパリ


 金属の歯車が組み換えられる音がした。空白の石は青白く光り、下の方に薄っすらと鳥の紋章が現れた…。


「ルシート!反応してる!これはきっとヴィサスの紋章だよ!」


 レオナルドは覗き込んだ。確かに剣が鍵になっているが……。そして、直感で感じた。この先の過程がある……。


「0番の刀を持つ者が第1条件……でも、足りない……つまり、ここの民でないとだめ……いや、グロリア家の者……」


 ラウダをじっと見つめる。グロリア家の者であること……。


「まさか、DNAか!?」


 レオナルドの呟きに答え、ラウダは小指の先を剣で切った。少量の血を鳥の瞳に少し垂らした。


 カチカチカチカチ


 沢山の鍵が順番に開けられる音がした。最後の音が鳴り響いた後、ラウダの立つ地面が下に抜けた。


「きゃあ!!」


 下に落ちる間際、咄嗟にレオナルドの手首を掴んだ。レオナルドはラウダに引っ張られ、一緒に暗闇へと落ちていく。


「ラウダ!こっちに!!」


 レオナルドは片方の手でラウダの腕を掴み、引き寄せて抱きしめる。掴まれた手をラウダの腰に回し、彼女を守るかのように抱える。


 上を見上げると何十ものガラスが閉じられていく。見えていた外の光はゆっくりと閉じられた。


(これはなんだ!?……外観は前文明的な作りだが、中身はきっとアクア国の技術すら大きく超えている……)


 ラウダはレオナルドの腕の中で、自分の様子がおかしいことに気づいた。心臓の動悸が激しい……体が熱くなった。


 思ったよりガッチリとしていて、たくましい。香水とは違う、心地よい香りがした……。自分の頭にときどき当たるレオナルドの唇にドギマギした。


「あっ……あのさ…俺大丈夫だから離してくれてもいいよ」


「もうしばらく待ってくれ」


 レオナルドは足元に目をやりながら距離を測っている。足元にはアクリル板が貼られている。落下ではなく、降下しているのだろう。


 だんだんと下の光が見えてきた。降下という判断が正しかったようで。地面に着く直前になると、スピードは徐々に緩められ、快適な状態で降り立つことができた。


「ルシート…ありがとう。なんか着いたみたいだね」


「え?あっ、ああ」


 レオナルドは慌ててラウダから離れる。ラウダの動悸はまだ治らない。なんだというのか……。


『我が一族の0番のために、この記憶を遺す』


 その声の主は椅子に座っている。黒髪と緑の瞳、幼い少年だった。


「どういうこと?1人でここに避難していたのか?」


『0番の主力、グロリアの子供ようこそ。私はグロリアの民によって作られた人形です』


 レオナルドは子供を覗き込み、恐る恐る触ってみる。頬は人間そのものの柔らかさだ。他の部位も作り物とは思えない精巧さだ。


「リアルすぎる……あり得ない技術力だ…」


『お前は侵入者?排除対象者……』


「違うよ。仲間だ、手を出すな」


 ラウダが強い口調で命令すると、少年は動きを止めた。


『わかりました。グロリア』


「いや、俺はラウダだ」


 少年は無表情の顔を向けると頭を少し傾げた。


『記憶しました。ラウダ様、そこの侵入者は仲間』


 少年は椅子から立ち上がり、ラウダの元に歩いてくる。


『私はヴィサスの知性。それを受け継ぐのはラウダ様です』


「いや……それはどうだろう」


 急に財産を相続しろと言われてもピンとこない。腰は引けていた。ヴィサスを知りたいとは思ったが。全部を引き受けろと言われても……。


『ウルティマーテ様からのメッセージも預かっています』


「ウルティマーテ……」


『私の分析によると、ラウダ様の祖父に当たる方。主力です』


 少年は青い透明な石を差し出した。


『ウルティマーテ様からの記憶媒体です』


 ラウダは手に取ることを躊躇った。これを受け取ってしまったら、全てを引き受けなければならない。そう、強く意識づけられる。


「ウルティマーテは……どうなったの?」


『アクア国の攻撃を受けて亡くなりました。ここの技術を持ってすれば、亡くならない命でした』


「どういうこと?」


『遠くの世界に渡った者を見送り、ここを封鎖することを選択させられました』


「君を作ったのはウルティマーテなの?」


『いいえ、スペッサです』


 ラウダの知らない名前だった。


「それって、前の6番の主力だよな?」


『そうです。仲間の男』


「スペッサは?どうなった?」


『遠くの世界へと旅立ちました。もう、戻らないでしょう』


 レオナルドは絶句した。遠くの世界とは、死の世界?それとも、違う世界?


 少年はラウダの躊躇いなど気にも留めず、その手に青い石を置いた。


「えっ!」


 ピリッ


 ラウダの頭に軽い衝撃が走った。それは直接、彼女の視覚神経に働きかける。目の前が真っ暗になった。


 ふらりと体のバランスを崩した。レオナルドは瞬時に受け止めて、ラウダの体を支えた。


「おい!お前!何をした!?」


 少年は無感情な瞳でレオナルドを見つめる。


『受け取るべきものを受け取っているだけです』


 レオナルドは腕の中にいるラウダの頬に軽く触れる。


「ラウダ!しっかりしろ!」


 青い石を握りしめている。レオナルドはそれを引き剥がそうとするが上手くいかない。少年に鋭い視線を向けた。


「まず、本人の意志の確認が必要だろ?」


『ここに来たのは答えを求めてでしょ?その確認は済んでいる』


(確かにそうだが……)


 レオナルドは部外者だ。口を出せないことかもしれないが……。覚悟ができていない者に大きなものをいきなり渡すものか?


 そっとラウダの頬を撫ぜた。それは優しい温かさだった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品はこちら 作品一覧 良かったら読んでみてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ