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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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11.緑頭の男

 ガリはセイタカソウの中で会いたくなかった相手に対峙している。相棒はさっさと先に行き、自分がこの厄介者を上手いこと追い払わなければならなくなった。


 緑頭こと、6番の主力ヘルメース。6番は本来ならヴィサスの主力だが、この男はラカス族ブスクラ家の流れ、ラカスの主力だ。ラカス区はチェリとこの男、2名の主力を有する。


 ブスクラの現主領は長男のソラジが継いでいる。ソラジは子供に恵まれないため、妹の息子ジャンドルに後を継がせようと思っている。

 

 ヘルメースは次男、ソラジとは父親と息子ほどの歳の差だが、実の弟にあたる。前主領が年老いてからできた、若き後添えとの子供である。つまり、腹違いの兄弟というわけだ。


「人の領地で何してるわけ?」


 緑毛、浅黒い肌の男は揶揄(からか)うように、茶色の瞳でガリを見上げた。背の高さは160センチほど、小柄で痩せた男だ。


「あなた達の領地ではないですよね?」


 あくまで預かってるだけで、ラカス区に組み入れられたわけではない。それを目で訴えた。


「お前みたいな外の者がウロつける場所でもないだろ」


「そうですね。早々に出ていきます」


 ガリは素直に礼儀正しく頭を下げると、その場を早々に立ち去ろうとする。


「待てって!追い出したいわけではないよ」


 サッと進路を塞ぐと、ガリを足止めした。


「……」


 ガリは眉毛をピクピクさせる。意識したくはないが、この男が6番のグロリアを持つことが気に食わない。こいつが手にした詳しい経緯は知らないが、心の中では盗み取られたという思いが渦巻く。


「君達はここに用があって来たよね?何しに来たわけ?」

 

 覗き込み、一歩踏み出す。ガリは反射的に睨み返した。


「どんな答えがお望みですか?特に俺から言うことはないですけど」


 丁寧な言葉で返しながらも、態度は最悪。主力に対する礼儀が足りない。しかし、これが最大限の配慮だった。


「君達、アルデナの息子を匿ってるんじゃない?」


 やはり噂のエクセンの息子に興味があるようだ。情報を扱う民、エレクトロに滞在後、こちらに移動したことを知って来たのだろう。


「アルデナの息子ですか?すいません、よくわかりません」


「ふぅん……」


 ヘルメースはクスクスと笑っている。ガリの頑なな態度にお目当ての人間が一緒にいると確信している。はなからペラペラ喋るとは思っていない。


 ヘルメースは後方に退くと、柄を握って宝刀グロリアを引き抜いた。


(何するつもりだ?)


 ガリは軽く構える。ヘルメースの剣の腕は知らないが、いざとなれば全力で行く。


(血迷ったか?宝刀で人を切るつもりか?ふざけるな……)


 ヘルメースは軽く構えると、軽やかに舞って音もなく周りの草を円形に切り捨てた。カサカサと切り落とされた草が地面に舞い降りた。


「不思議だよねぇ?」


「はい?」


「切られた草は下に落ちる。攻撃されたら、そこに残っている筈だよね?」


「……」


 突然何を言い出すのだろうか?話の意図がわからない。


「この地が攻撃された後、死体がほとんど見つからなかったそうだよ。ありえないね」


 ヘルメースは剣を軽く振り、ゆっくりと鞘に収めた。


「……もしもそれが本当なら……新型兵器が使われたのだから、跡形もなくだったのではないですか?」


 ガリの指先が僅かに震える。その中にウルティマーテや自分の祖父、ウンブラの父もいたかもしれない。


(……今更……何なんだよ…)


「そうだろうか?僕はそうは思ってないんだよね」


 草を足で踏みつける。その生命力は凄まじく、反発して跳ね返る。何度も踏みつけた。


「見つかった死体は主要な軍人だけ、その他はなし。空から新型爆弾が投下されたらしいが、中心地の彼らだけ発見され、周辺地には無しっておかしいよね?」


 そんな情報は知らない。これはインフィニタ軍の機密情報なのだろうか?確かに中心地が1番爆弾の威力を受ける場所だ。


「周辺の民は避難したのでは?」


 ふぅ、とヘルメースは頭を軽く振った。そして、冷ややかな表情になった。


「ブスクラ家の情報力舐めてる?ヴィサスの当時の戦力と人口分布のデータは記録されてたんだよ」


「なんの……」


 ガリは言葉を飲み込む。まるでヴィサスを監視していたかの物言いだ。だとして、そんなことを自分に話してもいいのか。


「ごっそりいなくなっている。この区から出た様子もない」


 消えたとでも言いたいのだろか?そんなはずはない。アクアに襲撃され、一夜にして滅ぼされたのだ。


「俺には何を仰っているのか見当もつきません」


「お前達は探りにきたのだろ?()()()()()()渡る方法を」


「え?どっちですか?どの国にですか?」


 ガリの関心もない反応を見て、ヘルメースは話の振り方を変えることにする。この男はこの件については何も知らないようだ。


(もう片方の方が知っているかもしれない)


「アルデナの息子は、ヴィサスの主家のものでもあるな?そいつに会わせろ」


「だから、知らないと言ってるじゃないですか」


 ガリは困った表情を浮かべる。知らぬ人が見れば、本当に知らない人に見えるだろう。しかし、6番の主力はそんなに甘くなかった。


「そうやって、我が一族の能力を甘く見るから、6番の宝刀を譲ることになったんだ。所詮、ヴィサスなど知性の象徴などと言われるほどのではなかった」


 ガリの様子を見ながら、ヘルメースは言葉を選ぶ。


「6番の宝刀を我が家が盗んだと持ってるのかも知らないが、宝刀の方からやって来てのだ。ヴィサスが我が一族に差し出したのだ」


 黙って聞いていた男の瞳が大きく動いた。感情の動きだった、それも不快な方へ大きくふれている。ヴィサスへの思い入れが強い。


(やはり、コイツはヴィサスと縁がある者だな。想いが深そうだ……」


 怒りを滲ませる瞳を確認すると、ニヤリと微笑んだ。


「ともかくだ。エクセンの息子に会わないと。僕が選ばれて6番になってるわけだから、君は諦めて軍師の地位で我慢しなって言ってあげなきゃ。変な期待を起こさせたら酷だからね。ヴィサスの血を引いていたとしても、わきまえて貰わないと」


「選ばれて…って」


 ガリは吐き出しそうな怒りを必死に抑える。お前なんて選ばれたわけじゃない。盗人だ。ラウダこそヴィサスの主力だ、それも0番だ!唯一の選ばれ者なんだと言ってやりたい。


 しかし、ガリは愚かな男ではない。そして、ウンブラの相棒でもある。


「ハッキリ言います。俺は貴方が嫌いです。その刀も相応しくないと思ってます!」


 ヘルメースは薄っすらと微笑む。そうだ思っていることを全部吐けばいい。そちらの正当なモノを証明してみればいい。


「ついでに、昼飯も食わずにフラフラしていたので、腹が減っていて、早く長い話を終わらせてくれないかと思ってます」


 ヘルメースは苦笑いをする。そんなに単純な男ではなかったか……。


「わかったよ、足止めして済まなかった」


 身を引き、ガリの行く道を空けた。とても潔い態度で……。


「……ありがとうございます。それでは失礼します」


 ガリは軽くため息をつくと、周りに目をやり、その場から去っていく。


(ふぅん……神殿の方か……)


 ホッとし無意識に視線を向けてしまった方向にガリは気づかなかったが、ヘルメースは鋭く観察していた。


(なるほどね…ヴィサスの子孫は神殿に何かがあるのを知っているんだな?)


 ヘルメースはそちらに方向を変えた。


(どうしてやろうか?邪魔なら消すか?いや、秘密を吐かせるのが先か……)


 セイタカソウをかき分けながら、その男は目的地に向かっていった。




 



 


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