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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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9.伝わらなかったこと

 フォルテは走り去る車をいつまでも見送った。長らく現れなかった0番の主力、それもヴィサスの血を引く娘。縁を感じずにはいられない。


(お祖父様、貴方の親友が見ていた未来はこれだったのでしょうか?)


 先代の0番、ウルティマーテは確かに未来を見ていたという。フォルテが女性初の主力になったのは、ウルティマーテの助言の結果なのか、それとも彼が見た未来なのか。それはどちらでも言えることかも知れない。


 しかし、もう一つ(のこ)した言葉がある。


『次の0番は、枠を越えた存在である』


 その意味するものは長年の謎であったが。ラウダを示しているのなら、まさにその言葉そのものなのかも知れない。


 彼女は性別を越え、民族間も軽く跳び越えた。今、彼女のために動いている主力達を見てみるがいい。自分も含め、自主的に動く者達。まだ、0番を就任する前だというのに……。


 それに、冷静で知性的であったヴィサスには無理であろう、知性に基づいた激しくも豪快な抗戦を行った。インフィニタを危険に晒したという見方もあるが、大国と十分渡り合えるという自信を人々に与えた。


(私があの子に渡せるものは、ここまでだ)


 フォルテは華奢な少女をただ見送る。自分の知ることは全て伝え、中央部に送れるだけの人と物は送った。しかし、主力の覚醒は本人の力でしかなし得ない。


(旧ヴィサス区に答えがあればいいが……)


 それは虚しい願いであることは知っている。あそこには、もう何もない。荒れた田畑と廃墟と高草が生い茂るのみ。


 旧ヴィサス区は、ラカス、ボオラ、アウロラに囲まれている。事実上は、ラカス区が旧ヴィサスを管轄しているが、悲劇の地であるため長年手付かずのまま放置されている。


 その事実に思い至り、「しまった」とフォルテは一瞬にして引き戻された。


「あ……そうだ……そうだった…」


 とても大切なことを言い忘れていたのだ。


 それは、6番の主力の話だ。


 元々は、6番の主力はヴィサス区のグロリア家の出身者が代々勤めていた。当時は、ウルティマーテが0番、スペッサが6番だった。スペッサはアクアの襲撃で亡くなったと記録されている。


 が、しかし、謎も多い。ウルティマーテとは違い、スペッサは宝刀グロリアを佩刀(はいとう)していた。アクアと戦ったのなら、刀も朽ち果てた筈だ。それが綺麗な形で今も現存している。


 現在の6番の主力は、ヘルメースという男だ。ボオラ区のブスクラ家出身。本来のボオラ区の主力4番の主力は庶民出身のチェリが継ぎ、ヘルメースは主家の若き当主であるが旧ヴィサス区の6番を譲り受けている。


 なぜ、ブスクラ家が6番の宝刀を持っていたのかは明かにされていない。チェリがカンサス家の後ろ盾を得て主力に就いた後、ヘルメースが6番の刀を抱えて主力に名乗り出た。現在、二十歳そこそこの男だ。


(ヘルメースが主力になった経緯も怪しいものだ…)


 カンサス家は異議を唱えず、候補者がいないのだからと臨時的に認めさせた。裏で取引があったのかも知れない。チェリを4番にするために受け入れたか?


 ラウダに伝え忘れていたが。そのヘルメースは気をつけるべき相手である。宝刀を手に入れた経緯が不明であり、きな臭い噂が多いのは勿論だが……。つかみどころのない、変わった男なのだ。


(旧ヴィサス区を彷徨(うろつ)いていて、バッタリ会わなければいいが……)


 あの男を思い浮かべると、嫌悪感しか湧かない。相反する人種だからかも知れないが……。


 ハッキリとした性格、裏表がないケンブリッド家の気質を受け継ぐフォルテ。それとは真逆で、ヘルメースの真意を知るのは困難だ。平気で人を欺き、簡単にその場をコントロールする。


 フォルテにとっては信頼できない相手だ。


(チェリの側近、ルシートがいれば牽制できるだろうか?)


 金髪碧眼の傭兵を思い浮かべた。品のある育ちの良さそうな男だが、あれはあれで頭がキレる。ヘルメースの怪しい匂いを嗅ぎ分けるかも知れない。


「に、しても……伝え忘れるとは不覚だ……」


 3番の主力は自分の頭にコツンとゲンコツをかました。警戒するのに越したことはないというのに……。


 真面目な3番の主力は、うっかりともう一つ大切なことも忘れていた。


 ウンブラとガリの存在だ。


 彼らは長年に渡たり、インフィニタで諜報活動を行っている。ラウダとルシート(レオナルド)の影に隠れてはいるが、実はこの国の闇には詳しい2人だ。そして、どちらとも癖が強い……。


『枠を超えた存在』


 スノウ国の癖強めの諜報員が随行していることも踏まえると、ラウダは本当に枠を超えているのかもしれない。フォルテが心配するよりも多くの幸運を彼女は得ているのかも知れなかった。


 見送った後で「どうしようもない」と諦めたフォルテは、トボトボと屋敷への道を歩く。ここしばらく騒がしかったので、急に静かになると何となく寂しくもあった。しかし、気持ちを切り替えなければならない。気を引き締め、これからの主力会議に向け準備をしなければならない。


 それに大きく頷いた時だった。


「フォルテ様っ!お久しぶり!!」


 帰り道に声をかけられ、びくりとフォルテは振り返り……。


(また来客者か……)


 と心の中で大きなため息をついた。


 帰宅の途中にフォルテに声をかけた女性は、サファイア、ドゥーリ区の大商人の妻で親交のある相手だった。愛妾グアバの5番目の姉妹であり、アメリ=プロディの伯母でもある。


「久しいな、サファイア。元気だったか?」


「はい、おかげさまで全てが順調です」


「そうか。仕入れの話なら、いつもの者に当たらせよう」


 早く去りたい気持ちを悟られぬよう、フォルテは笑みを浮かべながらもその場を離れようとする。


「いえ……今回は別のお願いもありまして……」


 長年の勘から、ケンブリッド家の当主は「どうせろくでもないことだ」と予想していた。ふと、後ろを見ると粗末な服にはそぐわない少女が控えていた。どう見ても姫様だ……。


「宰相のラウダ様にお会いしたいのです……」


(まさか……ここに滞在している情報が漏れていたか……)


 フォルテの顔は一瞬にして青ざめていた。実にわかりやすい性格……。


 そもそもこの女は商団の関係者だから、情報が集まる場所にいるのは確かだが。ピンポイントで突いてくるとは思わなかった。


(どういうつもりだ?確か、グアバの妹だったよな?この女……)


「申し訳ないが、ここにはいない。だいぶ前に旅立った。行き先も特には聞いていないのだ」


「……さようで…失礼いたしました」


 サファイアはフォルテの表情から、これ以上踏み込んだ話は早々に諦めた。主力を怒らせるわけにはいかない。それに、ここにいたという確認は取れた。半ば当てずっぽうではあったのだ。


(金をやって、この辺りの人間に聞き込めば行き先は掴めるでしょう)


 サファイアは頭を下げると、フォルテが立ち去るのを待った。

 









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