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夢幻の姫君  作者: 紘仲 哉弛
第2章 ゼロ番の主力
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7.辿る道

 ファミリアは後ろ髪を引かれる思いで、エレクトロを後にし、アルデナ区スメリアに向かった。ラウダは彼を見送ることはなく、不本意にもルシートとこと、レオナルドに見送られることになった。


 今回はルシートに圧倒的な差を見せつけられた。コミュニケーション能力、特に女性の対する接し方だと思う。確かに負けたが、決して品格にではない、ファミリアはそう何度も自分に言い聞かせた。妙に華やかで色男なのも気に触る。エスコートや物言いがスマートでそつがない。


 フォルテには、お前はまだまだ子供だと笑われた。英才教育を受けてきたが、女性の扱いや人の気持ちを察する科目などはなかった。自分の思いを伝えれば、皆がわかってくれる。それに、自分が正しい判断さえできれば、全て上手くいくと思っていた。正しいことは共通だし、違いはない。


『お前は、主語ばかりだな』


 自分の言い訳?思いをぶつけると、フォルテは子供をあやすように笑うばかりだった。自分が話しているのだから、主語になるのは当たり前だろう?何を言ってるのかと思った。しかし……。


『アイツを追い詰めるな』


 ルシートは気に入らないが、その言葉は何か引っかかった。そして、それは地味に自分の心をえぐった。


(アイツの言葉は、常にラウダが主だった……)


 自分よりも彼女をわかっている様子なのが気に食わない。アイツに何がわかるのか?チェリ様の側近とはいえ、所詮、外国人の傭兵に過ぎないだろう。本気でこの国を想っているとは思えない。


(ラウダがいかに貴重な存在かもわかっていないだろう)


 気がつくと悪態ばかりが出てくる。その大半は負け惜しみに思えた。悔しいが、ラウダがそばに置いたのはアイツだった。


(だが、この先は私の方が力になれる……)


 中央部に戻れば、自分の方ができることが多い。ゼロの部屋を整え、他の区に根回しをし、アルデナ区を牽制する。何としてでも、ゼロの主力の座を単一として存在させる。アルデナの一部であってはならない。


(父のイエロズとフォルテは味方についてくれる。ガンジス様はどう出るか?自らの宰相を手放すことになる。チェリ様もまだ読めない)


 ラウダには地盤がない。支える区がないのだ。そもそも、ゼロ番は区に縛られないものだが、実際の政治になると話は別だ。側近や職員は大抵は地区から集められる。


(私が何とかしなければ、信用できる人物であり、ラウダに従う者を選別しなければ……)


 思惑が渦巻く中央部で、それはかなり大変なことだ。しかし、それはやらねばならない。むしろ、これこそ自分の出番だ。彼女に自分ができる、アイツに勝ることである。


 ファミリアは軽く息を吐き整えると、後部座席から遥か遠くを見つめた。


(失敗を取り戻さなければ……)


 ラウダが男としての道を選んだとしても、この男は諦めるつもりはなかった。アウロラの男は真面目であるが、頑固でもあった。


————もう1人の男、レオナルドはファミリアを見送ると、ウンブラ達の部屋に立ち寄っていた。ガリも一緒で共にフォルテの屋敷の離れに滞在していた。


「今回の旅は厄介なことばかりだな」


 ウンブラは煙草を吐かせながら、窓の景色を見ていた。ガリも同意する。いつもなら、各地区の情報を早々に仕入れ、スノウ国に持ち帰って終了になっている。


「中央部に入ることになりそうです」


 レオナルドが報告すると、ウンブラは大きく背伸びをした。チェリに関わってから中央部への侵入は了解していたが、あの時とは程度が違う関わりになりそうだ。より深く関わることになる。


「少し深入り過ぎていると思うが?」


「そうでしょうか?より、この国の情報に触れることになりますよ?」


 ウンブラは大きなため息をつく。この教え子は、まだ若過ぎる。


「この国は我々の国ではない。他国だ。他国に深く関わり過ぎるのは危険だ」


 チェリの傭兵になるだけではなく、他の主力に近づき過ぎている。もちろん、それはラウダのことだが。さらに、その内政に関わろうとしている。


「ガリ、レオナルド。ラウダとは適当な距離を取れ」


 2人はビクリとする。


「我々はスノウ国民であり、その諜報機関の者だ。それを忘れるなよ」


 つまり、この国で自分達は、お客様に過ぎないと言いたいのだろう。ガリもレオナルドも情が深いのだ。


「せめて、ラウダを中央本部に送り届けるまでは、お許しください。お言葉は肝に銘じますので……」


 レオナルドは頭を下げた。


「んん?お前、何が言いたい?」


 その口ぶりから、何かまだやろうとしているような気がした。 


 レオナルドは控え目に顔を上げると、機嫌をうかがうように口を開いた。


「旧ヴィサス区に寄りたいのです」


「え?」


 思わず聞き返したのはガリだった。なぜに今更だが、誰のためになのかは大体は想像がついた。


「ラウダの希望なのか?」


 ウンブラの静かな声にレオナルドは頭を下げた。


「はい、その通りです」


「まぁ、ちょっとくらいは寄り道してもいいかもな」


 ウンブラは興味がなさそうに答えた。瓦礫と廃墟しかない土地である。最近は行ったことはないが……。


「母親の故郷に興味が出たか……。そもそも宝剣グロリアは、ヴィサス区の首都グロリアが起源だからな……」


「しかし……見ても救いになるものは……ないんじゃない?」


 ガリは気の毒そうにしている。そんなに酷い有様なのだろうか?レオナルドは様子がわからない、訪れたことはなかった。


「まぁ、行って見てみればいいだろう?ゼロ番を継ぐんだからな……」


 ウンブラはもう一度煙草をふかした。


「ありがとうございます」


 レオナルドは深々と頭をさげた。



 







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